支援相談員業務の光と影

はじめに 5月24日(水)、母校にて3年生を対象に「介護老人保健施設における支援相談員の業務」というお題で1時間ほどお話をさせて頂くことになった。今年度から介護老人保健施設(以下、老健)が社会福祉士の実習施設として登録されたこともあって、実習先を検討している1・2年生にも是非聞いてもらいたいが、「けっ、あんまりおもしろくないぜ。」と思われないような内容にしなくては。責任重大である。ぶるぶる。 支援相談員の魅力として何を学生に伝えたいのか?ここのところ通勤電車の中で考えることはこのことばかりなのだが、最近私が思う支援相談員業務の「光と影」について若干述べてみたい。 1.光に関する2つの事柄 光の部分については、まず第1に老健は「ソーシャルワーク実践を十分に行える場所である。」という側面である。平均在院日数が20.1日となった今日の一般病床等においては、従来MSWが行ってきた、ソーシャルワーク技術を用いての、①患者・家族の障害受容の支援、②在宅復帰に向けての社会資源の調整、③家族間の関係調整などが物理的に困難になりつつある。更には、ある学会の分科会で、超急性期病院では本人の意識が回復する前段階で転院調整を行うことが必要となり、もはや本人の自己決定という前提条件そのものが崩れ始めていると嘆くMSWの話が忘れられない。 その点、退所者の平均在所日数が230.1日である老健においては、介護保険という制度により対象者が必然的に絞られているという制約こそあるが、じっくりと時間をかけて本人・家族と関わることができ、従来MSWの教科書に書かれていた援助そのものを十分に実践することができるのではないだろうか。 なお、このことは、回復期リハビリテーション病棟や亜急性期病床の患者を援助対象に持つMSWにおいても同様であろう。 第2に、「在宅に戻った後も、通所リハビリテーションや短期入所療養介護といった在宅サービスを提供している場合、それらの利用を通して継続的に関わることができる。」という側面である。医療機関であれば、それが慢性疾患や難病などではない限りにおいて、治療が終われば関係は一旦終了である。無論、それはそれで医療機関としての役割は果たしているのだから何ら問題はない。しかし、援助した患者がその後どうなっていったのかそれを知りうる手段はないし、例え知りうる手段があったとしても、それを実行してその患者に利益があれば良いが、そうでない限りにおいて、大抵の場合は援助者自らの自己満足にしか過ぎない恐れがある。 その点、通所リハや短期入所療養介護といった在宅サービスを老健自体が提供している場合、施設退所後も継続して関わることが出来るため、地域の中で利用者・家族と援助者が「顔なじみ」の関係性を築くことが出来る。これは、老健で働くことの大きな魅力であろう。 2.影に関する2つの事柄 ただ、良いことばかりではない。全体状況からみて注意しなければいけない影の側面もある。 第1に、「医療機関だけではなく、介護保険施設でも資格社会化しつつある。」という側面である。今回の介護保険改革の一環として人材育成において介護職員の「介護福祉士」一本化が今後の基本方針とされた。そのため現状のままでいくと、老健職員の中で支援相談員だけが無資格者ということになってしまう。医療機関のMSWが同様の状況にあって今日までその状況に難渋しているが、老健においても同様の状況を迎える危険性がある。 なお、そもそも老健における支援相談員の位置づけが施設介護支援専門員の登場によりあいまいとなっているため、まずはこの点について整理する必要があろう。その上で、支援相談員に相応しい資格を検討する必要がある。 第2に、「自らが施設利用の可否に直接関与できることにより、ともすると本人・家族を施設の都合の良いように『管理』してしまう危険性がある。という側面である。医療機関においてMSWは入退院の決定権を持っていない。無論、医療機関は治療が主目的であるためその判断を医師が行うことは至極当然であろう。退院支援の場合、医師が「あなたは退院ですよ。」と宣告し、それを受けて「えっ、もう退院なんですか?!」と、とまどう本人・家族を支援するのがMSWである。 一方、老健においては、入退所の可否に直接関与できる(施設によって、支援相談員の権限に幅があるためこのように記述する)ため、誰を入所させるかや誰を退所させるかという援助の前提において、支援相談員は価値判断を迫られることになる。そして「では、そこのあなた入所させてあげましょう」と言うのも、「はい、そこのあたな退所して下さい。」と言うのも同じ支援相談員となりうる。そのため、なかなか自分が入所を決めた利用者であり、かつ退所すれば本人のADLやQOLが低下することが予想される場合、退所の話を持ち出すことは非常にストレスフルである。 無論、そうであったとしても基本的には本人・家族の意見を大切にしながら、その調整を行うことが原則である。但し、本人・家族の意見が、ディマンドなのかニーズなのかを、全体状況の中からきちんと判断しないと、「永久に入所させて欲しい」というディマンドを盲目的に受け入れることになってしまい、結果として老健が特養化してしまう恐れがある。 「老健を在宅復帰施設として運営できるように効率よく回転させつつ、かつ経営が成り立つように稼働率を高いままにする」。この基本的ノルマを達成するために、支援相談員は意図的に入所している本人・家族に関わることになるし、また併せて経営者の視点から次に誰を入所させるのかを検討することが必要となる。しかし、その時に、ともすると施設の都合に合わせてくれる本人・家族は「良いお客」。そうでない本人・家族は「悪いお客」という発想になりかねないし、その危険性が構造上内包されている。さらには、支援相談員が本人・家族を「よいお客」に加工してしまう恐れもある。このことは、特に往復型入所者に発生しやすい。 おわりに 経営者の視点と支援相談員の視点、どちらも大切な視点であるが、いずれか一方に偏ってはいけない。これらをバランスよく用いる技量が、老健開所以来この20年間、私たち支援相談員にずっと問われ続けている。