「【地域医療はいま】医師雑務 減らす秘書役」『朝日新聞(愛知版)』2008.5.20

メディカルアシスタント、メディエーター。医療機関では、医療情勢に呼応して常に新しい職種が誕生ていますが、これらの職種は、最近の医師の業務負担軽減やモンスターペイシェント対策という文脈において注目されています。 よく医療ソーシャルワーカーは「自分でお金も稼げない。それだけでなく、関わったおかげで、かえって在院日数が延びた。」という批判を受けます。上記2職種や事務職も基本的に自らの人件費以上に診療報酬で稼げる様な後ろ盾はない(今年度より「医師事務作業補助者」には報酬算定された)のですが、医師・看護師から好意的に受け止められている様な気がします。 私の問題関心は、何故医療ソーシャルワーカーは、メディカルアシスタントやメディエーターや事務職の様に好意的に受け止められないことが、時にあるのか。その現象の本質的原因は何か?というところにあります。 医療ソーシャルワーカーの立場からは、社会福祉学を基にした専門性を発揮することにより狭義の医療職とは異なった視点から発症・受傷を景気として患者・家族の生活問題を発見し、そこに介入・支援することで病気の再悪化や、環境の改善を目指している、と私は考えます。 しかし、狭義の医療職の立場からは、治療を最優先とする急性期病院ではそういった生活問題は確かに理解はできるけれども、優先事項としては低いという認識があるのではないかと思います。そのため、先述の「自分でお金も稼げない。それだけでなく、関わったおかげで、かえって在院日数が延びた。」という批判は確かに急性期病院において聞かれる批判の様に思います。 ただし、急性期病院では例外も存在します。医療・介護事情の理解力の乏しい患者・家族への教育や説明、医療費未払い(疑い)、虐待、DV、退院調整など、放置していては結果として医療機関にとって不利益が生じかねない事象に限れば、狭義の医療職にも医療ソーシャルワーカーの存在する意味は何となく感覚的に理解できるのではないでしょうか。 なお、私は急性期病院の医療ソーシャルワーカーの役割を軽んじてはいません。むしろ、こういった発症・受傷を契機として患者・家族に訪れた人生の岐路に医療ソーシャルワーカーとして関わることに最大の存在意義を感じます。また、それは一医療機関のみでは完結できなくなった今日において、医療機関が提供するサービスの一環として「ケアの連続性」という観点からも必要なことだと考えます。 実際、治療という割合が少なくなり、対応する医療機関が、急性期から亜急性期、回復期、療養病床と移行するに従い医療ソーシャルワーカーの役割は増します。具体的には、亜急性期においては、「在宅復帰支援を担当するもの」の設置が義務化されており、回復期リハビリテーション連絡協議会には、ソーシャルワーカー委員会が設置されており、日本慢性期医療協会(旧:日本療養病床協会)では、ソーシャルワーク委員会が設置されています。 翻って、最初の問題関心に戻りますが、結論的には医療機関の属性(急性期~慢性期)によって医療ソーシャルワーカーの受け止められ方は異なることを前提において議論する必要があると思います。その上で、急性期医療機関においては、医療ソーシャルワーカーが存在することで、患者・家族だけではなく医療機関にとっても利益があるということを積極的にアピールしていく必要があると考えます。 【関連】 ・厚生労働省保健局長通知『医療ソーシャルワーカー業務指針』平成14年11月29日 以下、転載。


写真 ナースステーションで医師らと打ち合わせをする今井史子さん(右) =名古屋市中区の国立病院機構名古屋医療センター、松谷常弘撮影 【「MA」名古屋医療センター全病棟に】 ●人件費、診療報酬となお落差 効率化でカバー図る  医師の役割は診療だが、書類作成や会議の準備などの「雑用」にもかなりの時間を割かれている。これが長時間労働疲労につながり、勤務医不足の原因の一つにもなっている。こうした現状を打開しようと、国立病院機構名古屋医療センターは4月、「メディカルアシスタント」(MA)を全病棟に導入した。16人のMAが医師の仕事の効率化を後押ししている。(岡崎明子)  午前8時半、MAの今井史子さんは消化器科病棟に出勤すると、入退院患者の書類の準備を始める。カルテの不備をチェックしたり、紹介状を下書きしたり。1日20~30人分。以前は岩瀬弘明医長が残業してこなしていた仕事だ。   名古屋医療センターは4月から全病棟に1人ずつMAを配置した。MAは派遣社員で、医療事務などの経験がある20~40代の女性たち。仕事は多岐にわたる=表。  MAを派遣している業者によると、全国の病院から派遣依頼があるが、人材の養成が追いつかず、十分に応えられずにいる。同センターのMA数は全国有数という。導入に当たって一番問題になったのは「どこまで任せていいのか」だった。  医師の仕事は患者の命や生活を左右することもある。そのため、生命保険会社に出す診断書や介護認定のための意見書などを作る際は、MAの下書きを医師が必ずチェックしたうえで、MAが清書する。検査などの指示を出す場合も、MAはコンピューター入力はするが、確定ボタンは医師が中身を確認して押す。  岩瀬さんの場合、書類作りだけでも1日2時間ほど取られていた。「現在はMAに仕事を教えている試行段階で、自分でやった方が早い。ただ、将来的にはもっと仕事を担当してもらい、私が患者と向き合う時間を増やしたい」  脳神経外科病棟で働くMAの間島摂子さんも「こんなに医師の雑用が多いとは思わなかった。事務作業の軽減は社会的にも必要なことだと思う」と話す。  厚生労働省は今年度の診療報酬改定で、勤務医不足対策の一環として、地域で急性期医療を担う病院がMAのような「医師事務作業補助者」を採り入れた場合、入院患者1人につき1050~3550円の加算をつけた。これをきっかけに同センターはMAを導入した。  ただ、同センターではMAの人件費が1日約30万円かかるのに対し、公的医療保険から診療報酬としてセンターに支払われるのは1日当たり約6万5千円にとどまる。  堀田知光院長は「診療報酬だけではMAの人件費をまかなえないが、MA導入による医師の残業代の削減や診療患者の増加によって、結果として病院の収入増につながるのではないか。医師のやる気を高め、医療レベルを向上させたい」と期待する。  今後はMAの業務範囲や教育システムを固めながら、医師や看護師の負担の変化、MAの人件費と経営効果の関係などを検証するという。 ●MAの主な担当業務 ・退院患者カルテのチェック ・診断書の下書き、清書 ・紹介状の作成や返送処理 ・検査や投薬のオーダー漏れチェック ・検査結果の印刷 ・退院後の外来診療予約 ・他病院からの貸し出しフィルムの返却 ・症例検討会議の資料準備、議事録作成 ・学会発表のデータ作成