「HIV感染者高齢化、受け入れ先確保に課題」『CBニュース』平成20年8月5日

【関連】 ・小西加保留『エイズとソーシャルワーク中央法規出版,1997.8 ・小西加保留『ソーシャルワークにおけるアドボカシー―HIV/AIDS患者支援と環境アセスメントの視点からミネルヴァ書房,2007.10 ・小西加保留「HIV感染者の社会福祉施設利用受け入れに影響するサービス提供者側の要因について」『厚生の指標』Vol.52, No.8(通号 815),2005,pp.8-14 以下、CBニュースHPより転載。


高齢化して介護が必要となったHIV感染者の受け入れ先確保が困難を極めている―。このほど横浜市で開催された「AIDS文化フォーラムin横浜」で、横浜市立大学付属病院ソーシャルワーカーを務める友田安政氏が現場の窮状を訴えた。友田氏は、現行の医療・介護制度では、高齢のHIV感染者の受け入れ先確保は難しいと指摘した。  「治療法の進歩で、HIV感染者がAIDSで亡くなることは減少してきている。だが高齢となった感染者が、がんや心筋梗塞脳梗塞、その他の疾患を患い、介護や療養が必要となったときに、受け入れ先が見つからない」―。友田氏はHIV感染者の受け入れ体制の現状について、このように述べた。  HIV感染者はAIDS発症を抑えるため、高価な抗HIV薬を複数組み合わせて継続的に服用するHAART療法を必要とする。こうした人が、在宅療養が困難となり、医療・介護施設に入院・入所しなければならない場合には、長期的な療養サービスと高額な医療の両方を要する。  これについて友田氏は、「一般病院では在院日数の短縮化が求められているため、長期の入院が難しい。リハビリ病院や療養型病院では、専門医がおらず、また包括診療のため高額な治療ができない」と指摘。施設側の経営を圧迫することにつながるため、HIV感染者の受け入れ先の確保が難しいと話した。  また、介護施設についても、「特別養護老人ホームでは医師・看護師の配置数が不十分。待機期間も年単位だ。介護老人保健施設では、介護保険の施設サービス費の中で医療を提供しないといけないため、療養型病院と同様、HAART療法を行うとなると、老健の赤字になってしまう。また外来受診に制約があるので、老健の外で治療を受けるのも難しい」と説明。現行の医療・介護制度がHIV感染者の受け入れを困難にしていると指摘した。  HIV/AIDS診療では、1996年からHAART療法が導入されている。同病院のリウマチ・血液・感染症内科医師である上田敦久氏は、このHAART療法について「AIDS発症を抑えるのに効果を上げており、HIV感染者の延命を可能にしている」とした上で、HIV感染者の高齢化が進んでいると指摘。「HIV/AIDS診療においては、今後長期療養や介護の問題が一層重要になってくる」との認識を示している。 ■HIVへの無理解が受け入れを一層困難に  社会のHIV/AIDSに対する無理解も、HIV感染者の受け入れ先確保を難しくしている。  友田氏は、「HIV感染対策が十分でない」との理由で、多くの医療・介護機関にHIV感染者の受け入れを拒まれている現状を報告。「HIV感染者だと分かっていようが、分かっていまいが、リスクを意識して対処するのが本来あるべき姿。『感染対策が十分ではない』との理由で受け入れを拒否するのはおかしいのではないか」と話した。  また、「(HIV以上に感染リスクの高い)B型肝炎の患者を受け入れている医療・介護機関が、HIV感染者については、『感染対策が十分でない』との理由で受け入れを拒否する」という事例も紹介した。  なお上田氏によると、針刺し事故における感染率は、HIVで0.3%、C型肝炎は3%、B型肝炎は30%。