老健について述べる上での注意点

はじめに 来週末、勉強会にて「支援相談員が支援相談員であるために-当施設における実践と業務開発の原則-」というタイトルでお話をさせて頂くことになっている。対象は、名古屋市内にある病院・老健などの若手MSWである。 資料を作りながら、どうもしっくりきていない自分にふと気付いた。なぜしっくりこないのか理由を考えてみたら、たぶんそれは「老健」という言葉でひとくくりにできないほど、既に老健自体が多様化してきているからだと思った。にもかかわらず老健一般について述べることは、もはや実体のない対象について述べるに等しい。本稿では、この点について述べたい。 老健の多様化の背景 2008年4月末現在、全国に老健は3,509施設ある(厚生労働省2008a)。1988年4月1日の老健設置実施以降、その数は着実に増加し、全国1,787市町村(総務省2008)で単純に割ると、1市町村に約2ヶ所は存在するまでになった。もちろん、地域によって偏りもあるであろう。 この20年間の老健を取り巻く変化には、以下のものが挙げられる。 ・一般病床の平均在院日数の短縮 ・回復期リハビリテーション病棟の新設(2000年) ・介護保険法の施行に伴い、特養入所申込の自由化によって入所希望者が増加(2000年) ・高齢化率の増加 1985年10.3%→2005年20.1% ・高齢者世帯の増加や夫婦共働きによる家族介護力の低下 ・老人施設(介護保険施設外含め)の増加 ・人口の都市への移動(過疎化/限界集落) これらの要因が相互に影響し、地域によって老健に求められる役割が異なってきている。具体的には、長期入所施設が足りない地域では特養の様な役割を求められ、リハビリテーション施設が足りない地域では、回復期リハビリテーション病棟の様な役割を求められる。また、急性期病院を母体として平均在院日数の短縮に貢献することを求められる老健では、療養病院の様な役割を求められる。つまり病院と同じように、老健の機能分化が求められているし、既にそれが起こっている。 全国老人保健施設協会は、平成19年8月1日に発表した『療養病床の転換に伴う申し入れ書』 において、老健の「多様性」や「特徴」に応じて加算方式で対応する旨を要望した。この時点でも、リハビリ機能を強化する老健や、看取り機能を強化する老健が存在し、運営において自由度の高い老健は、結果的に地域のニーズによって機能を変化させることができた。無論、地域ニーズに関係なく、安定経営を求めて施設方針として特養化してしまっている老健もあることを否定はできない。 特養化した老健への評価 なお、老健の特養化を私は決して否定的に捉えていない。厚労省も認めているように、日本はそもそも入所施設(もしくは介護付きの住宅)が足りない。病院が特養の肩代わりをしてきた様に、老健も特養の肩代わりを行っているのである。老健の特養化が政策的に望ましくなければ、厚労省は早々に介護給付を減額していたであろう。でもそれはしなかった。そうしてしまうと、混乱が起きることが目に見えているからだ。だから、厚労省は黙認という態度をとっている。 ならば、最初から老健ではなく特養をつくればよかったではないか、というご意見もあろう。しかし、実際老健の72.9%(2,557/3,509施設)は医療法人であり(厚生労働省2008b)、恐らくそれらのほとんどが医療機関を母体としている。医療法人による特養運営は現在認められていない。そのためわざわざ社会福祉法人を設立して特養を建てるよりも、医療法人のまま老健を建てて、特養的に運用した方が「手間」が省ける。 そのため、老健で勤める職員も、老健に患者を紹介をしようと思っているMSWも、老健という名称だけでそれが老健だと判断するのではなく、どの様な設立意図で建てられた老健なのかについてアセスメントする必要がある。経営陣が特養的な運用を意図している老健では、支援相談員ではなく、特養の生活相談員として業務を行う必要がある。それは良い悪い問題ではない。恐らく、この様な老健では、支援相談員的な動きをすることは、経営陣からみれば求めている仕事ではない。 老健のアセスメントを 整理すると、現在、老健には在宅復帰型、長期入所型、療養型の3類型が存在し、加えてどの類型で運営していくか決められないでいる老健もある。老健職員は、自施設について述べる時、まず自施設がどのタイプの老健なのかを明示した上でないと、議論がかみ合わないことが予想される。 なお、どのタイプが望ましいかという価値判断はできない。地域によってどの様な役割が求められるのかを冷静に見極めることが必要である。ただ、どの類型で運営していくか決められないでいる老健に勤める職員は立場が定まらず、つらい思いをしていることだろう。 また、老健に紹介して下さる、病院MSWの方も是非、紹介先の老健がどの様なタイプの老健なのかまでアセスメントした上で紹介して頂くと、利用者・家族が後から「こんなはずじゃなかった」とならずに済むであろう。長期入所を希望している利用者・家族を在宅復帰型の老健へ入所させることや、在宅復帰を希望している利用者・家族を長期入所型の老健へ入所させることは、ニーズとサービスのミスマッチを生じさせる。 ただ、実際のところ長期入所型の老健は満床状態であり、待機期間も長く、急性期病院が待ってくれるような状況にはない。その場合、在宅復帰型老健に一旦入所して、空床が出るのを待つことになる。 また療養型では、状態急変の度に入退院をくり返し、徐々にADLは低下し、かつ医療行為が煩雑・複雑化し、いよいよ療養病院へ転院することとなる。こういう老健の場合、医療依存度の高い状態で入所してくるため、看護職・介護職ともに極めて緊張感の高い日常を送っている。特に、病院と併設していて廊下1つで繋がっているような老健の場合はその傾向はより強くなる。 老健は、もはや「老健」とひとくくりにできる程、単純ではない。 今後、自らが老健について述べる場合は、老健のタイプを明示した上で述べたいと思う。 【参考資料】 ・厚生労働省a「第23表 請求事業所数-件数-実日数-単位数-費用額,サービス種類・施設事業所区分別」『介護給付費実態調査月報(平成20年4月審査分)』2008年6月20日総務省市町村合併』2008年8月7日 ・厚生労働省b「第8表 請求事業所数,法人種別・サービス種類別」『介護給付費実態調査月報(平成20年4月審査分)』2008年6月20日全国老人保健施設協会『療養病床の転換に伴う申し入れ書』平成19年8月1日 ①一部加筆・修正 2008.9.14