効率よく社会資源データベースを作る方法(前編)

今日、明日と2編に分けて、自施設で作成した社会資源データベースについて述べる。前半では、データベースを作成した背景について総論的に述べる。後半では、どの様にすると効率的にデータベースを作れるのかについて具体的に述べる。 社会資源データベースの概要 使用ソフト:FileMaker Pro 9.0×3 OS:Windows XP Home edition 環境:施設内LANにて各端末を接続 掲載種類:①入院・入所系、②在宅系、③相談機関系 掲載項目:施設名、資源種別、連絡先、窓口担当者、受け入れ基準、申込手続き方法、料金、写真、URL、更新履歴、google Map 使用権限:支援相談員のみ 社会資源データベースを作成した背景 ソーシャルワーカーが苦手なことの1つに、自分が獲得した経験や知識(以下、ノウハウ)を文章化したり言語化したりして、後進ソーシャルワーカーに残すことが挙げられる。 せっかくのノウハウが、そのソーシャルワーカーが職場を去ることによって無くなってしまう。それは当該事業所だけでなく地域における福祉の後退ともいえる。また、ソーシャルワーカーの専門性が全体として担保されない原因の1つとも言える。「忙しい」という言葉は理由にはならない。それは自己中心的な考え方に他ならない。 ただし、全てのノウハウが形式知化できる訳ではない。ナレッジマネジメントで有名な野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)は、次の様に述べている。 「高度な暗黙知はマニュアルなどでは伝えられません。伝えられるのはネットワークしかないんです。暗黙知は人を選びます。人を選んで自分の思いを伝え、修羅場も経験させながら、必要な部分を言語に落とし込んでいく。」(野中2007) 暗黙知が全て紙・電子媒体に文章化され、形式知化される訳ではないということだ。よって、口伝という方法でソーシャルワーカーのノウハウが受け継がれている職場もあるだろう。 しかし、だからと言って、「ソーシャルワーカーのノウハウは高度なものだから決して形式知化なんてできない」といった極端な意見に傾きすぎてもいけない。 少なくとも私に出来ることは、ソーシャルワーカーのノウハウのうち、形式知化できるものと出来ないものをセグメントし、前者を少しでも作りだす努力である。 無論暗黙知は実践をしていく中でどんどん産まれてくる。そのため形式知化という作業は延々と続くものだと捉えている。 社会資源情報をナレッジマネジメントする では、具体的な例を取り上げると、ソーシャルワーカーが持ちうるノウハウの中でも、知識として社会資源情報(以下、情報)がある。他機関とネットワークを築いていく過程で得られる情報は、援助を行う上でとても貴重なものである。 ソーシャルワーカーはそれらの情報を一定のノウハウを持って活用したり、またクライエントや他職種に提供し、援助効果を高めている。 その代表的なものとして、医療依存度の高い人を受け入れてくれる他機関のリストがある。胃瘻を増設した患者の受け入れ先はどこがあるか。HOTをやっているが受け入れてもらえるところはあるのだろうか?そういったやり取りが毎日の様に、ソーシャルワーカーの頭の中で、あるいは部署内でなされている。 しかし、これらの情報はあくまでいちソーシャルワーカー内で蓄積しているに過ぎず、部署全体のノウハウとして蓄積できているとは限らない。その人が職場を去れば、次の担当者がまた一から情報を蓄積し直す。この作業をソーシャルワーカーは、半世紀に渡って延々と繰り返してきている。 もちろんExelで管理したり、アンケートを取って、情報収集したりといったところもあるだろう。しかし、それらの多くはその後更新されることもなく気づけばもはや実態と合わない情報となってしまい、だんだん使わなくなってしまう。結局、元の状態に戻るのだ。 これは、冒頭でも述べた通り当該事業所、地域の福祉、専門性の担保という意味において大きな損失だ。 以上のことから、私は社会資源データベースを作成し、先輩・同僚・自らが蓄積した情報を可能な限り形式知化しようと思ったのである。 (後編へ続く) 【出典】 ・野中郁次郎日本企業に蔓延する『分析まひ症候群』傍観者はリーダーではない」『日経ビジネスオンライン』2007.5.22