転院問題を考える会4月28日の議事録を読んで

転院問題を考える会のHPに、09年4月28日議事録がUPされている。これまで続けてきたMSWサマリーの議論から派生して、「老健施設の受け入れの在りよう」について議論されている。老健の支援相談員を経て総合病院(600床規模)のMSWに戻った私にとって大変興味深い内容だった。 論点は、①老健における医療保険使用の制限とそれに伴う老健側の対応、②支援相談員の在りよう、及び③入所後に受けられるSTの実際であった。以下、それら論点に対する私の意見を述べる。 ①老健における医療保険使用の制限とそれに伴う老健側の対応 主に処方の取り扱いに議論が集中。私が支援相談員をしていた時に、様々な老健での取り組みを伺って理解した「高額薬価入所希望者への老健の対処行動」は以下の4通り。 ○高額薬価入所希望者への老健の対処行動 ※何をもって「高額」とするかは、各老健でまちまち。 1.そのまま受ける 1-1.老健の年間予算に薬価の総額が納まればよい。     薬を飲んでいない人もいるのだから受け入れる。 1-2.入所後、薬が切れる前に23日(or1泊2日)で在宅復帰   し、外来で最大量処方してもらってくる。 1-3.病院側が持たせた処方量の間だけの入所期間となること   を本人・家族と約束して受ける。 1-4.本人・家族了解のもと、入所後老健側で処方を○点以内   に調整する。 1-5.高額薬価だが、空床にしているのはもったいないので   受ける。 2.○点/日以内なら受ける。 2-1.もともと○点以内なので受ける。 2-2.病院側で処方を○点以内に調整してもらえれば受ける。 ※ENT直前に減らすと、老健入所直後に体調を崩される入    所者が出ることもあるので、可能であれば1Wほど病院内    で様子をみてもらえると良い。 3.病院退院後23日(or1泊2日)だけ、本人・家族が頑張って    家に帰り、外来で最大量処方してもらった上で、受ける。    その後は、上記1or2老健内で検討することに。 4.受けない 以上の対応行動に加えて次の3点を考慮に入れる必要もある。 ・上記の方法は、あくまでも老健側が決めること。病院側から提案されると、「施設経営に口出しをされた。」と思う幹部が多いのでご注意を。 ・退院時処方や外来処方の投与期間が一部医薬品を除き原則上限廃止と  なったが、実際には長期処方を行った医療機関対して支払基金から  返戻となる場合がある。 ・在宅復帰支援機能加算を算定する老健は、2泊3日(or1泊2日)での  再入所を行うと、算定要件上の在宅復帰率を下げてしまうため嫌が  るようになった。 ちなみに、医療経済研究機構(研究代表:池上直己)『介護老人保健施設における医療・介護に関する調査研究』2004によって公開されている、薬剤処方の変更に関する老健がとる行動のマクロデータ(N=355)は、以下の通り。 入所 1 ヵ月以内に薬剤の処方内容を変更する割合は、平均値3.6 割、中央値3.0 割だった。薬価が高いという理由での薬剤処方の変更は、「たまにある」が158 施設(44.5%)と最も多く、「よくある」(26.8%)とあわせると71.3%が薬価が高いことを理由に変更をすることがある。(要旨④) なお、上記の対応行動は、姑息な手段と思われるかも知れないが、現行の「老健入所中は原則医療保険を使用できない」というルールを前提とした上で、それでも入所希望のある高額薬価患者へ対応しようという老健側の苦肉の策と捉えて頂きたい。 但し、売り手市場(病院側)ではなく買い手市場(老健側)の場合は当然対応も強固なものとなるが、一方で老健の対応はかなり地域差があるものと思われる。特に老健の数が相対的に少ない地域では、老健側に患者を選ぶ余地あり、逆の場合は融通が利きやすくなる。 こういった医療保険使用の制限について、老健の全国組織である全国老人保健施設協会は、再三厚生労働省に対して「利用者の病態に応じた標準的かつ適切な医療を提供するため、介護保険の包括扱いを見直し、医療行為は医療保険からの給付とする」よう求めているが、実現していない。 ②支援相談員の在りよう 参加者からの指摘にもあったが、これは入院・入所の窓口であったり、ベッドコントロールを任されているソーシャルワーカーなら誰しもが影響を受け易く、必ずしも支援相談員に限った話ではない。 特に他職種が大勢勤務する大規模病院と違い、職種も少ない小規模の機関では他部署(経営陣)からのプレッシャーをソーシャルワーカーの責任者や部下も直接受けやすく、ギリギリの中でいかに利用者の利益を確保するかに汲々としている。これは大規模病院において間接的にプレッシャーを受けることとは比べ物にならない。こういった感覚は小規模の個人病院で働く一人ワーカーなら共感出来るだろう。 確かに、「薬価計算をしながら入所者を選ぶ、入り口出口の門番タイプ」であることがソーシャルワーカーの仕事の一部であると誤解しているソーシャルワーカーがいることも認める。しかし、そういうソーシャルワーカーだけではなく、薬価計算をしながらも利用者の利益と所属機関の利益の狭間で常にバランスをとりながら日々実践しているソーシャルワーカーの存在も認めてあげて欲しい。 >「老健の相談員はよくも悪くも銭勘定から逃れられない状況にある。」 この一言は、同じソーシャルワーカーから言われて最も傷つく言葉である。MSWは銭勘定とは無関係であり、聖職だとでも言いたいのか。どんな機関に所属するソーシャルワーカーであれ、好むと好まざるに関わらず、いち職員としてその機関における与えられたポジションというものがある。 同会の人たちはそういった状況下においても、高い能力を発揮して所与のポジションからあるべきポジションを獲得した自負があってこの様な発言をされているとお察しするが、他者に配慮することを大切にするソーシャルワーカーの発言とは思えない。裏を返せば、その配慮を超える程に転院援助の際に支援相談員の対応に腹立たしさを覚える経験を幾度となくしたのだとも思う。 ③入所後に受けられるST 簡易な、あるいは維持を目的とした嚥下訓練であれば確かに施設内で実施できるかもしれないが、胃瘻から経口摂取への移行や食事形態のUPを目的とした嚥下訓練にはVF・VEの検査を行いつつ、医師と協議のもと進めて行く。それは急性期のソーシャルワーカーであれば了解できることだと思う。検査機器のない老健の場合、誤嚥や窒息のリスクを承知の上で胃瘻から経口摂取への移行や食事形態のUPに取り組むため、誠意とは裏腹に非常に危険な行為でもある。 嚥下訓練だけでなく、失語・構音障害に対する言語療法も大切な取り組みであるが、それを実施するか否かは当該機関(老健だけでなく全ての機関)の方針に委ねられる。 以上、私の意見を述べたが老健の取り組みは医療機関と同様にかなり地域差があるため、一般化して議論することは困難かもしれない。東京は東京の、愛知は愛知の実情に合わせた建設的な議論を行う必要があると思う。 この点について、同会のフェアプレー精神が表れているのは、老健に対する意見・批判を述べた上で、「老健の相談員をいつかお呼びして、現在の仕事の大変さなど実態を聞いたほうがいい」という提案に至っていることである。是非、東京方面の支援相談員の方、同会メンバーと意見交換して頂き、相互理解を深めて頂ければと思う。