第29回日本医療社会事業学会を終えて(分科会発表編)

業務指示で5月15・16日と第29回日本医療社会事業学会に参加するため山形県天童市に行ってきました。本稿では、印象に残った分科会発表について感想を述べます。 印象に残った分科会発表 根本圭子杏林大学医学部付属病院)「脳卒中センターにおける自宅への退院支援に関する検討」 平成20年4月1日から10月31日に脳卒中センターに入院した324名のうち、MSWが介入し、かつ自宅へ退院となった26名を研究対象とした。入院時退院時のmRS(modified Rankin Scale)、介護保険利用の有無、家族状況について後方視的に調査・分析。 【コメント】 細かな調査結果よりも、①mRSを利用して包括的に患者の状態を分類する方法や、②サンプル数が少ない場合に、マトリックス表で細かな%表示を表すより、度数分布表を比較した方が分かりやすということが勉強になった。 ○前田みさき(トヨタ記念病院)「ERソーシャルワーカーカード(T-ESC)作成の試み~新人ワーカーが活用する単身患者版~」 救急医療の現場では、初期介入時の見落としが、その後のソーシャルワーク援助を左右しかねない。ERでの初期対応時に必要な情報を整理し携帯用カードにして活用した。結果新人ワーカーであっても救急現場で慌てることなく対応することが可能となり、病棟へ移行後もスムーズにソーシャルワーク援助が継続できるようになった。T-ESCの具体的な記載項目は以下の通り。①基本情報、②死亡時の対応、③キーパーソン、④健康保険証の有無、⑤障がい者等の手帳の有無、⑥所持金・預貯金・給料予定額。 【コメント】 経験年数1年半での報告。実践の中から援助を標準化し、自分の経験不足を補う取り組みはとてもよい研究だと思った。私自身ERの担当となり、「新人」MSWとして訳が分からないまま援助を行っているので本報告は参考になった。後日、発表者よりカードの内容について情報提供頂いた。ありがとうございました。 ○木村亜紀子(兵庫医科大学病院)「救命救急センターソーシャルワーカーが介入する生活課題の類型化」 2008.1.1-12.31の1年間にSWが介入した140件を対象に、患者が抱えている24の生活課題を分析データとして使用した。方法として、クラスター分析を用いて生活課題を類型化し、コンボイモデルを用いて模式化した。結果、中心円には、「治療を目的とした転院問題」「医療費の支払い困難」「意識障害によるコミュニケーション問題」の3つが位置しており、これらの生活課題から介入が必要であることが示唆された。但し、周辺円に位置した様々な生活課題も考慮した上で、転院先を選定することが必要である。 【コメント】 関心が高かい生活課題研究であり大変面白かった。24の生活課題の設定については先行研究からではなく、実践から導き出したものとのこと。研究方法として、クラスター分析とコンボイモデルを用いており、方法も興味深い。大学病院の超急性期であり、その後私が勤めるような急性期に転院するといった感じであり、この結果をそのまま一般急性病院に活用するには困難を感じた。今後疾患別(呼吸器、循環器)、分野別(がん、自殺)、医療機関別(大学病院、急性期病院、療養病床、回復期)、地域別の生活課題研究がなされることを強く望む。 ・濱田綾子※正式なハマの字が本Blogでは表現できず(亀田総合病院)「難病相談・支援センターにおける痰吸引への取り組みからみえてきた『つなぐ』支援」 千葉県から委託された「安房地域難病相談・支援センター」事業の一環として、痰吸引を行える訪問介護員を増やすことを目的に平成16年度より実技研修を行ってきた。平成19年度に訪問介護事業所管理者を対象に実態調査と意見交換会を実施。平成20年度には多職種・組織に対象を広げた新しい形の意見交換会を開催した。結果、①個々の力は及ばなくても、組織や職種を乗り越えて連携・協働することで地域を変え発展させる資源になりうること、②そのためにはまず「顔の見えるコミュニケーション」をとってお互いのことを良く知り、認め合い、信頼関係を育むことが必要である。 【コメント】 2005.3.24の厚生労働省通知以降、ALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取り扱いが緩和されヘルパーでも一定の条件をクリアすれば行えることとなった。MSWが同センター職員と言う立場から、調査設計や意見交換会のマネジメントとコーディネーター役の実行しており、実際に社会資源開発に取り組んでいた。こういう仕事が単なる掛け声ではなくMSWでも出来るのだということを実感した。大変刺激的な報告であった。また、既存の社会資源は充実してもそれは量的に増えれば良いわけではなく、それぞれをネットワーキングしていくことの必要性を報告者は繰り返し訴えられていたのも印象的だった。