「原爆症認定訴訟:東京高裁勝訴判決 『国の“約束”実行を』 政治解決へ高まる期待」『毎日新聞』2009.5.29

原爆症認定/広島共立病院医療相談室/同課長山地恭子氏 覚えておこう。 以下、毎日新聞HPより転載。(赤文字は筆者による。)
 原爆症認定を求める集団訴訟で、昨年4月に導入された厚生労働省の認定新基準を「放射線の影響について過小評価に陥る可能性がある」と断じた28日の東京高裁判決。広島訴訟の原告団も同日、中区の広島弁護士会館で会見を開き、「河村建夫官房長官の“約束”が実行されるよう訴える」と、河村官房長官が以前から発言していた判決後の政治解決への期待が高まった。【井上梢】  ◇広島弁護団長「非常にうれしい」  佐々木猛也・広島弁護団長は「新基準は間違っていたと判決にある。直すしかない」と声を強めた。「厚労省の今までやってきたことを根本的に非難する判決。非常にうれしい」と続け、麻生太郎首相に政治解決を求めた。弁護団の池上忍弁護士も「判決文で被爆者援護法の前文に基づいて『単なる社会保障ではなく、戦争遂行主体であった国の国家補償的措置として行われる』とした。意味のある判決」と話した。  爆心地から約1キロで被爆し、白内障の鳴床輝子さん(80)=安芸高田市=は「母、妹、父を殺し、財産も何もかも無くした原爆。生き残った私が国に訴えないと死にきれない」と強調した。「孫とひ孫2人もいて幸せだが、子どもらに同じ目に遭わせない世の中にしないと私の責任は果たされない」  原爆投下13日後に爆心地付近に入った大江賀美子さん(80)=佐伯区=は乳がんや白血球減少症を患うが、新基準積極認定の対象外だ。大江さんは「厚労省は急性症状は栄養失調のせいと言った。高齢の被爆者をこれ以上苦しめないで、一括政治的解決をしてほしい」と声を振り絞った。2人ともまだ認定書は届いていない。弁護団らは、この日の判決を受けて全国弁護団会議を週末に開き、新基準でも認められない原告らについてなど、課題を議論していく方針。  ◇「新制度打ち出せば、多くの人が救われる」 広島共立病院相談室・山地さん、国の救済訴え  被爆者治療に取り組む広島共立病院(安佐南区中須2)相談室で医療ソーシャルワーカーとして働く山地恭子課長は、東京高裁判決を聞き「これからが山場。国が新制度を打ち出せば、多くの人が救われる」とほほ笑んだ。  山地課長は同病院で約10年間、原爆症患者が受けられる医療特別手当の申請書の書き方などを相談者に伝えている。  「腰が痛いんだけど原爆症かの」。昨年4月に新基準に改められてから、電話はひっきりなしに鳴り、相談室に訪ねてくる人も増えた。これまで秘めてきた被爆体験を語り、そのまま帰る人もいた。すべての話に耳を傾け、共に考えた。「悩みはそれぞれ違う。その人に合った説明をしなければ高齢の被爆者たちに分かりづらい」  印象に残っているのは、働き始めたころに訪れた50代の女性。2歳の時に2キロ以内で被爆し、胃がんの末期だった。被爆後に家族は離散し、結婚せず、身寄りもなかった。ベッドのそばで一人で歩んできた戦後を聞いた。  「被爆体験を聞くことが行動の原点」と語る。被爆者の悩みは健康面、生活面、経済面とさまざまで複合している。「ただ、どれも自己責任でそうなったのではない」と国の救済を訴えた。【井上梢】  ◇「1日でも早く全面解決望む」--秋葉市長コメント  秋葉忠利広島市長は28日、「市は機会あるごとに、被爆者の早期救済と全面的解決を国に要望してきた。一連の司法判断から、国は被爆者の思いを真摯(しんし)に受け止め、1日でも早くこの問題が全面解決されるよう改めて強く望む」とのコメントを出した。【矢追健介】