MSWの業務展開

医療ソーシャルワーカーは、これから先どういった方向性を持って業務を展開していけばよいのだろうか? 在宅復帰業務はやれなくなるのか 医療ソーシャルワーカーは転院・転所業務を。退院調整看護師は在宅復帰業務を。こういった役割分担をしている医療機関がある。それが多いか少ないか、増加傾向にあるか減少傾向にあるかは分からない。 在宅復帰時には、様々な医療行為や医療機器が介在する場合がある。そのため退院調整看護師に任せておいた方が安全。そういった知識のない医療ソーシャルワーカーが調整をして、何かあったら責任を追及される。自分たちの身の保障のためにも医療行為の必要な患者の在宅復帰の場合は退院調整看護師に対応をお願いした方が良い。 そういった考え方で業務展開をしている内に、「医療行為の必要な患者の在宅復帰の場合」という限定つきだったものがいつの間にか「在宅復帰の場合は退院調整看護師」にという流れが出てくる。誤解のない様に述べておくが、現状において医療ソーシャルワーカーが何の情報もなしにただただ、在宅調整をしている訳ではない。医師・(退院調整)看護師、その他必要に応じて他のコメディカルスタッフや業者とコミュニケーションしながら在宅復帰して頂いている。退院援助は、医療ソーシャルワーカー単身で出来るものではなく、病院全体の諸活動を通して実現するものである。 医療ソーシャルワーカーが退院援助に関わる2つの側面 「退院援助だけが医療ソーシャルワーカーの仕事ではない。」そういった意見も納得は出来る。しかし、現実の業務に目を向けてみると退院援助に関わる業務が私の場合は大半を占めている。法制度、医療・介護提供体制、家族介護力、経済状況など様々な要因が影響しあい、退院にまつわる様々な軋轢が、患者・家族側・病院側双方に生じている。そういった現象が全国各地で生じている限りにおいてそれを社会問題と規定し、そこに医療ソーシャルワーカーが退院援助に関わる根拠を置いて私は関わっている。 一方で、経営側から退院援助業務を医療ソーシャルワーカーに求めているという側面もあろう。先日の拙記事「平成20年のMSWの数は全国に17,883.6人」でも書いたように、医療ソーシャルワーカーの需要はありその数は確実に増加傾向にある。その背景にはやはり退院援助での医療ソーシャルワーカーの一定の期待されるからこそ、経営側も増員と判断したのではないだろうか。 医療ソーシャルワーカーがすべきこと 一番恐れていることは、患者の退院先によって医療ソーシャルワーカーが関われる患者層が偏ってしまうのではないか、ということである。退院先が在宅であろうと、病院・施設であろうと傷病をきっかけに生じた、あるいは顕在化した生活課題に、医療ソーシャルワーカーは関わっていく意義があると思っている。社会資源や諸制度を説明すればそれで援助終了とはならない。そういった業務の取り組みの柔軟性を担保するために我々自身が何をすべきなのか。 1つの鍵は地域連携にあると思っている。これまでにもその重要性は研究者(二木2007,田中2008)から指摘されているが、医療ソーシャルワーカーの当事者として、それを行わない場合の未来が見えてきた現段階において、いよいよその必要性を実感している。 従来の様な各機関の個別担当者間での1対1のやり取りだけではなく、地域単位での組織的連携であったり、地域医師会、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所連絡協議会、介護保険施設との連携などである。言うは易く行うは難しだが、既にそういった取り組みを実践している医療ソーシャルワーカーがいるのも事実であり、2007年12月5日付で社会福祉士の業務規定も変更され、連携への法律上の後ろ盾も出来た(注)。また、医療政策の流れとして4疾病5事業や地域連携パスも「追い風」になりうる。先行実践に学びつつ、自らの業務にも取り入れて行きたい。 以上、述べてきたことは従来から医療ソーシャルワーカーが取り組んできたことを否定するものではない。それらに「加える」形で取り組むことが出来ればと考えている。無論、今回述べたこと以外にも取り組むべき課題はある。是非、医療ソーシャルワーカー当事者自らがその課題を言語化して発し、一緒に取り組んでいければ幸いである。 注:社会福祉士及び介護福祉士法第1章(赤文字は平成19年12月5日施行された同法の追記文章) 第2条 この法律において「社会福祉士」とは、第28条の登録を受け、社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者(第47条において「福祉サービス関係者等」という。)との連絡及び調整その他の援助を行うこと(第7条及び第47条の2において「相談援助」という。)を業とする者をいう。 引用文献 ・二木立「医療制度改革と増大する医療ソーシャルワーカーの役割-社会福祉教育の近未来にも触れながら-」『学術の動向』2007,12(10) ,pp.78-80 ・田中千枝子『保健医療ソーシャルワーク論』勁草書房,2008,pp69-70