在宅医療・介護推進プロジェクトにおける医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)への期待

政府・厚生労働省は、在宅医療・介護推進プロジェクトを立ち上げ、「施設中心の医療・介護から、可能な限り、住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す」としている。平成24年度予算(案)は127億円。 同プロジェクトは、以下3つの柱で構成されている。 1 在宅チーム医療を担う人材の育成 2 実施拠点となる基盤の整備 3 個別の疾患等に対応したサービスの充実・支援 このうち、次の3つの具体的事業において医療ソーシャルワーカー社会福祉士)のことが言及されている。 1 在宅チーム医療を担う人材の育成 ○ 在宅チーム医療の推進のための研修(在宅医療を担う職能別の研修)5.5億円 ○ 多職種協働による在宅医療を担う人材育成(多職種協働によるサービス調整等の研修)3.2億円 2 実施拠点となる基盤の整備 ○ 在宅医療連携拠点事業(多職種協働による在宅医療連携体制の推進)31億円 以下、各事業ごとに紹介する。 ○在宅チーム医療の推進のための研修(在宅医療を担う職能別の研修)5.5億円 本事業の目的は、「在宅医療を担う職能別の研修を展開し、それぞれの専門性知識・技術の習得および専門性の向上を図ること」とされている。 人材育成の展開方法として、①専門職別研修プログラムの作成、②E-ラーニングシステム構築、③専門的な技術習得のための実技研修の3点が予定されている。 事業対象として、11職種が挙げれており、その中に社会福祉士(医療ソーシャルワーカー精神保健福祉士が同じ枠で例示されている。「人材育成事業により習得する専門性知識・技術」は各職種によって異なるが、社会福祉士精神保健福祉士においては「在宅患者の受診・受療支援、制度の活用支援、経済的問題の解決支援、家族支援、社会復帰等を行うための知識・技術の習得」を目標としている。 本事業の実施主体は不明だが、少なくとも早い段階から、、①専門職別研修プログラムの作成が始められる訳で、研修プログラムの検討委員会のメンバー招集がなされる。委員として、在宅医療に従事する社会福祉士が選ばれるのか、学識経験者が選ばれるのか興味深いところである。 ○ 多職種協働による在宅医療を担う人材育成(多職種協働によるサービス調整等の研修)3.2億円 本事業の目的として、以下4点が挙げられている。 ○在宅医療においては、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、ケアマネージャー、介護士などの医療福祉従事者がお互いの    専門的な知識を活かしながらチームとなって患者・家族をサポートしていく体制を構築することが重要である ○国が、都道府県リーダーに対して、在宅医療を担う多職種がチームとして協働するための講習を行う(都道府県リーダー研修) ○都道府県リーダーが、地域リーダーに対して、各地域の実情やニーズにあった研修プログラムの策定を念頭に置いた講習を行う(地域リーダー研修) ○地域リーダーは、各地域の実情や教育ニーズに合ったプログラムを策定し、それに沿って各市区町村で地域の多職種への研修を行う。これらを通して、患者が何処にいても医療と介護が連携したサポートを受けることができる体制構築を目指す 平成24年度は、具体的に以下2つの取り組みを行う予定である。 ■都道府県リーダー研修 (国が、在宅医療に関する高い専門性を有する機関に委託して実施) ○国が、各都道府県で中心的な役割を担う人(都道府県の行政担当者、地域の在宅医療関係者)に対して、リーダー講習を行うための研修を実施 ■地域リーダー研修(国が、47都道府県に委託して実施) ○各都道府県リーダーは、各都道府県で約150人の地域リーダーを養成(医師・歯科医師・薬剤師・看護師・ケアマネージャー等の職能別に市町村単位で選抜される)   -プログラム策定方法に関する研修 -教育展開の手法に関する研修  本事業の対象職種として、MSWと記載されていることから、我々も関係する事業となる。先述の「在宅チーム医療の推進のための研修」は個別職種の中で学習を深めるのに対して、本事業では多職種協働がねらいとされている様である。多職種を対象に研修を行う際、各職種に共通する内容を話すことになるため、総論にならざるを得ない様に思われる。啓蒙活動程度の事業となるのか、在宅医療を推進するための重要な事業となるのか現時点では未知数だ。但し、後述する「在宅医療連携拠点事業」の採択要件として、本事業の「都道府県リーダーまたは、地域リーダーとして参画することが望ましい」という規定が盛り込まれていることから各機関は計画的に届け出を行う必要があろう。 ○ 在宅医療連携拠点事業(多職種協働による在宅医療連携体制の推進)31億円 平成23年度からモデル事業が始まっていたため、前の2事業と比べてかなり具体的な事業として提示されている。平成23年度は10事業者が対象だったが、平成24年度は約100事業者となる。なお、同事業の対象は医療機関に限らず、都道府県、市町村、訪問看護事業所、医師会等職能団体及びその他厚生労働大臣が認める者とされており極めて多様だ。 本事業のみ、既に申請用の専用サイトが立ち上がっている。(公募時期は未定) http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/index.html 本事業の目的は、「在宅医療を提供する機関等を連携拠点として、地域の医師、歯科医師、薬剤師、看護職員、ケアマネジャーなどの多職種協働による在宅医療の支援体制を構築し、地域における包括的かつ継続的な在宅医療の提供を目指すとともに、今後の在宅医療に関する政策立案や均てん化などに資することを目的とする。」とされている。 特筆すべきは、介護支援専門員の資格を持つ看護師等及び医療ソーシャルワーカーが人員配置要件にされていることである。なお在宅医療連携拠点事業Q&Aによると、専任(業務の5割以上)配置を前提として、「医療ソーシャルワーカー社会福祉士の資格を取得している者が望ましい」と規定。看護師等の定義は、「ケアマネジャー資格を持つ看護師、保健師助産師、准看護師、薬剤師、歯科衛生士等です。」とのこと。つまり、医療ソーシャルワーカーは必須だが、もう一つ組み合わせる職種は任意でよいということだ。 事業内容は、「以下に示す(1)~(5)の活動等を通して地域における包括的かつ継続的な在宅医療を提供するための体制を構築する。」とされている。 (1)地域の医療・介護関係者による協議の場を定期的に開催し、在宅医療における連携上の課題の抽出及びその対応策の検討等を実施すること (2)地域の医療・介護資源の機能等を把握し、地域包括支援センター等と連携しながら、医療・介護にまたがる様々な支援を包括的かつ継続的に提供するよう関係機関の調整を行うこと (3)効率的で質の高い24時間対応の在宅医療提供体制を構築すると同時に、チーム医療や多職種協働のための情報共有について、ITや標準化されたツールの活用等により促進を図ること (4)在宅医療に関する普及啓発活動を行うこと (5)「多職種協働による在宅チーム医療を担う人材育成事業」に都道府県リーダーまたは、地域リーダーとして参画することが望ましい なお、病院・診療所が実施主体となる場合は、「自らも在宅医療を提供し、かつ他の医療機関(特に一人の医師が開業している診療所)が必ずしも対応しきれない医師不在時や夜間の診療を支援することが望ましい。」と規定されている。訪問診療を行う総合病院は確かに存在するが、地域医師会の理解と周知が進まないと、利害関係が生じてしまい、かえって連携が後退する可能性がある。 本事業は、委託の形をとるため、年間約2,100万円(基準額)の委託費が想定されている。 対象となる経費は以下の通り。 事業の実施に必要な給与費(常勤職員給与費、非常勤職員給与費、法定福利費)、諸謝金、賃金、旅費、需用費(消耗品費、印刷製本費、会議費)、役務費(通信運搬費、雑役務費)、使用料及び賃借料、委託料(上記の経費に該当するもの) 平成25年度以降本事業が継続されるかは未定であること、対象が約100事業者であることを踏まえると、あまり各事業者が競って申請するようには思えない。しかし、在宅医療・介護の連携に、他の職種と異なり、医療ソーシャルワーカー社会福祉士)の配置が必須であると政策上認識されたことには大きな意味があると思う。 まとめ 以上、3つの事業を紹介したが、いずれの事業においても医療ソーシャルワーカーは決して浮き足立つことなく、在宅医療・介護における具体的業務は何なのか、どのように患者・家族の力となれるのか、自分たちのルーツを確かめながら、よりよい実践を展開して頂きたい。特に、医療ソーシャルワーカーは無意識に「この程度の仕事」と自らに制限を加えがちであるため、本事業を通して在宅医療・介護のキーマンになるという認識で殻を破って欲しい。加えて、本事業で培った実践経験を職能団体の会合で報告されることを強く望みたい。 【関連】 ・「在宅医療拠点事業で『顔の見える連携構築』- 厚労省が成果報告会」『CBニュース』2012年3月8日 http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36777.html ・白澤政和「第13回 地域包括ケアで医療と介護の連携拠点はどこか ~ 地域横断のサポート拠点で連携推進」『高齢者住宅新聞』2012年3月5日号 http://fukushino-ki.jp/featured/column13/