河本薫『講談社現代新書2218 会社を変える分析の力』講談社,2013
河本薫『講談社現代新書2218 会社を変える分析の力』講談社,2013を読みました。
○目次
第1章 データ分析に関する勘違い(データ分析の主役
分析の価値
モデルは所詮プラモデル
ビッグデータとは何か?)
第2章 データ分析でビジネスを変える力(「分析力」だけではビジネスを変えられない
見つける力(問題発見力)
解く力(いわゆる分析力)
使わせる力(実行力))
第3章 分析力を向上させるための流儀(四つの問いを自問自答してみる
正しい心構えを持つ
役立つことに貪欲になる
良い習慣をつける―分析者九ヵ条)
第4章 分析プロフェッショナルへの道(分析プロフェッショナルとは?
分析プロフェッショナルへの道
分析プロフェッショナルという職業の魅力)
河本氏は、大阪ガス株式会社情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長。1966年生まれの47歳。
【印象に残った言葉】
・「分析の価値」=「意思決定への寄与度」×「意思決定の重要度」(p27)
・データ分析は、人間の洞察力を補完するものに過ぎない。(p36)
【レポート】
・データ分析でビジネスを変えるために身に付けなけれならない3つの力とそれらを構成する力。
■見つける力(問題発見力)…ビジネスにおいてデータ分析を活用するチャンスを見つける力。
○ヒラメク力…ビジネスシーンでデータ分析を活用できる機会をヒラメク力。
○目利きする力…データ分析に着手する前に、思い描いた通りにデータ分析を進めることができるか、仮に思い通りデータ分析を進めることができたとして分析結果はビジネスにどれだけ役立つかを「目利き」する力。
■解く力(分析力)…自分で問題を解釈して定義し、自分で解く方法を考案し、自分がベストと考える解を導く力。
○分析問題を設定する力…意思決定に役立ってビジネスに貢献する事だけが目的であることを念頭に、それに焦点を絞った問題設定をする力。
○現場力で解く力…データ分析から得られる知見と現場の勘と経験を融合することで、無味乾燥なデータの世界からビジネスに役立つ知見を生み出す力。
○過不足なく解く力…誤差を少しでも小さくすることだけに気を取られて不必要に細かく解かず、かつ本来得べき問題領域を小さくして解かない力。
○分析ミスをしない力…分析ミスは皆無にはできないという謙虚さを持ち、そして、意思決定に差しさわりのない程度の正確さは必ず担保する責任感を持って臨む力。
■使わせる力(実行力)…データ分析で得られた解をビジネスの意思決定に使わせる力。
○意思決定に使えるか見極める力…データ分析の解を使った場合に、運が悪ければどれぐら外れそうか、外れたときにはどれぐらいの損失につながるかを見極め、看過できないような損失につながる可能性がある場合には意思決定に用いるのに慎重になる力。
○使い方を伝える力…単に計算結果を伝えるだけでなく、「意思決定につかえるかどうか」を報告するため、予測や判別がどれぐら外れて、その結果どれぐらいの損失につながるか、それは対策可能なのかについてわかりやすく説明する力。
【印象に残った著者のエピソード】
「じつは私も、10年前まではデータ分析=数値計算ぐらいに思っていました。社内ではデータ分析のエキスパートのようにみなされ、『彼に頼めばどんなデータ分析もやってくれる』と重宝がられました。しかし、あるときに『お前はまるでデータ分析の便利屋だな』と言われてから、自分の存在意義について疑問を持つようになりました。そんなとき、米国ローレンスバークレー研究所で仕事をする機会に恵まれました。黙々とデータ分析をこなす私に対して、米国人上司から『私はあなたに数値計算を期待しているのではない。分析を期待しているのだ』と論されました。それを機会に、データ分析に関する考え方が大きく変わりました。それまで、データ分析の主役は高度な数値計算と思っていたのですが、それらは手段に過ぎない、単純な集計で十分ならばそれでいい。大切なのは、意思決定に役立つことなのです。それまで周囲から便利屋扱いされていた理由もわかりました。私は、データ分析を仕事としていたのではなく、データ分析に必要な行為(数値計算)を得意としているに過ぎなかったのです。」(p5)
【内容】
第1章では、データ分析の強みではなくむしろ誤解や限界について述べられておりとてもフェアな考えの持ち主だと思いました。続く第2章では、実際にデータ分析で経営に貢献する具体例をアイスクリーム屋の在庫管理を舞台に説明。読者にデータ分析の流れを追体験させてくれて、イメージがわきました。第3章では、分析力を向上させるための認識枠組みや姿勢について解説。最後の第4章では、分析プロフェッショナルのやりがいについて著者の思いが語られています。
【感想】
現在、部署の統計を担当していますが、本書を読んで無意識にデータ遊びをしている自分に気づきました。何故、このデータ分析が採用されないのだろうという思考ではなく、部署が意思決定に対してどういったデータを求めているのかを考え、それに狙いを定めてデータ分析プロセスを辿ることの必要性を学びました。また、本書には意思決定者がデータ分析の結果を扱う際の責任についても述べられており視点の広さが伺えます。著者は、第1章でデータ分析の誤解や限界についてかなり厳しく述べていますが、それはデータ分析を否定しているのではなく、それをわきまえて大いに活躍してほしいという願いが込められていたように思います。