「(ルポルタージュ現在)また誰か、亡くなった 新宿の団地、老いて独り」『朝日新聞』2013年12月30日

二木(2013)論文で取り上げられていた東京都区部での孤独死について実態を表す記事でした。 二木(2013)を参考に、2012年の東京都区部における自宅死亡に対する孤独死の割合を算出してみる。『人口動態推計』によると、2012年東京都区部の自宅死亡数は13,079人。東京都監察医務院によると、2012年「孤独死」数は4,472人。自宅死亡に対する孤独死の割合は34.2%であった。 2011年の自宅死亡に対する孤独死の割合は35.4%であり、2010年の割合36.8%以降徐々に自宅死亡に対する孤独死の割合は低下傾向にある。但し、「孤独死」数は依然として高い数字であり、「孤独死」数(分子)より自宅死亡数(分母)の増加が上回ったことによって見かけ上、割合が低下したに過ぎない。 【関連】 ・二木立「21世紀初頭の都道府県・大都市の『自宅死亡割合』の推移-今後の『自宅死亡割合』の変化を予想するための基礎作業」「二木教授の医療時評(その109)」『文化連情報』2013年2月号(419号):16-27頁 http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20130201-niki-no103.html#toc2 ・『平成24年 人口動態調査』 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001108739 ・「東京都23区における孤独死統計(平成24年)」『東京都監察医務院』 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/kodokusitoukei24.html


「(ルポルタージュ現在)また誰か、亡くなった 新宿の団地、老いて独り」『朝日新聞』2013年12月30日 10人目の見回りを終えて帰宅したのは、午後10時過ぎだった。  今月15日、東京都新宿区の都営戸山団地(百人町アパート)。区から委託を受けた「見守り協力員」の的場実さん(75)は今年最後の見回りを終え、ふうっとたばこの煙を吐いた。  16棟ある団地に住む高齢者のうち、80歳以上の一人暮らしの女性十数人を受け持つ。携帯電話には、昼夜問わず電話が入る。「おしるこが食べたい」「買い物に付き合って」。約束を忘れる人も多く、待ちぼうけはしょっちゅうだ。「何度電源を切ろうと思ったか。このままじゃ、俺が先に死んでしまう」  ■親族は遠く  「相次ぐ孤独死」「都会の限界集落」。戸山団地がそう騒がれたのは、6、7年前のことだ。「状況は何も変わっていない」と的場さんは言う。今年も何人もの高齢者が孤独死した。  「最近顔を見ない」と聞いた一人暮らしの男性が亡くなっているのを見つけたのは春。新聞受けから中をのぞくと、下着姿で手を伸ばしたままうつぶせで倒れていた。「這(は)って助けを求めようとしたんだと思う」  夏には60代の女性。秋には70歳くらいの男性を、遠方から訪ねた親族が見つけた。今月上旬にも、米寿の女性が一人で逝った。  この地区を手がける葬儀業者は「最近は、死後に身内が見つかっても、何年も会ってないから、と引き取りを拒否されることも増えた」と言う。  ■自治会解散  団地は、戦後すぐの1948年に建て始められた。4階建てで、多くの間取りは3DK。住民は「山手線から見える唯一の集合住宅で、あこがれだった」と振り返る。夏には盆踊り、正月には餅つき大会があり、若い家族らでにぎわった。  90年以降に高層に建て替えられ、今は約2300世帯、約3500人が住む。建て替え後には1DKの部屋が増えた。  自治会は2007年に解散したままだ。高齢化でなり手がいない。最後の役員だった本庄有由(ありよし)さん(75)は「以前は一人暮らしの人の鍵を近所で預かり、誰がどんなペットを飼っているかも知っていた」と語る。親族がいないまま亡くなった人は、自治会が集会場で葬式を出した。だが、今はそれもできなくなった。  老朽化した近隣の都営住宅が取り壊され、一人暮らしの高齢者がさらに流れ込む。自治会があったころ、団地では毎年約40人が亡くなり、うち10人くらいが孤独死だった。「今はもっと増えていると思う。まるで姥(うば)捨て山だ」。本庄さんはつぶやいた。  ■対策途切れ  自治会解散後、本庄さんは有志でNPO「人と人をつなぐ会」を作った。死後2カ月も見つからなかった孤独死に遭遇したのがきっかけだ。  07年、部屋でボタンを押すとコールセンターにつながる端末を設置。しかし、毎朝決まった時間に操作が必要な煩わしさから、うまくいかなかった。10年には緊急時にかかりつけ医に通報される「見守りケータイ」を導入した。2年かけて通信会社や役所にかけあい、15人のお年寄りに配った矢先、肝心の携帯が製造中止に。「次はスマートフォンで試しませんか」と誘いがあるが「ダイヤル式の黒電話を使う人もいるのに、使いこなせないよ」。  ■死が日常に  暮れも押し迫った26日。近所の女性と立ち話をしていると、目の前を白い布に包まれた遺体が運ばれた。「また誰か亡くなったね」。女性は特に気にとめることなく、おしゃべりを続けた。「人が死ぬことに、慣れてしまった」と本庄さんは思う。どこの誰かは、今も分からない。(今村優莉)  ◆Memo  <都心の孤独死> 明確な定義はないが、東京都監察医務院は「一人暮らしの人が自宅で死亡し、死因がはっきりしないケース」を孤独死孤立死)としている。医務院の統計によると、2012年に東京23区内で孤独死したのは計4472人。男性が3057人、女性が1415人だった。03年には男女合わせて3千人を切っていたが、約10年で1・5倍に増えた。平均すると、毎日12人ほどが孤独死している計算だ。