「在宅とモルヒネ(下)苦痛緩和 がん以外も」『中日新聞』2015年3月31日

厚生労働省保険局医療課長・厚生労働省保険局歯科医療管理官『(保医発0928第1号)医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて』平成23年9月28日,pp.24-25
https://www.hospital.or.jp/pdf/14_20110928_01.pdf

こちらの表記では、ALSだけでなく「筋ジストロフィーの呼吸困難時の除痛」も審査上認める、となっています。


「在宅とモルヒネ(下)苦痛緩和 がん以外も」『中日新聞』2015年3月31日
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20150401143949533

保険適用の拡大目指す
発作が起きたときに飲むモルヒネのスティック(右下)などが入った薬入れ=愛知県内で
 息苦しさと頭が縛り付けられるような痛み。唇もひりひりする。
 筋肉を動かす神経が侵され、次第に全身が動かなくなる難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う愛知県の男性(62)は1日に何回か、発作に襲われる。
 その都度、壁掛け式の薬入れにあるモルヒネに手を伸ばす。青色のスティック袋に入った5ミリグラムの内服液。口ですすり、しばらくすると苦痛が治まる。「モルヒネがないときは、苦しくてかなわんかった。今は楽」。呼吸しやすくするために喉に穴を開けているが、声は明るい。
 毎週、訪問診療をする「いきいき在宅クリニック」(愛知県大府市)院長の中島一光さん(55)は、「モルヒネはがん以外の痛みや呼吸困難にも効く。(男性は)随分、落ち着いた」と話す。
 歩きにくさを感じ、受診した大府市国立長寿医療研究センターで、ALSと診断されたのは会社を退職した2年前。妻(61)と2人暮らしで、昨年12月から同クリニックの訪問診療を利用する。当初は発作のたび、妻が電話をかけ、目が離せなかった。
 中島さんは昨年末からモルヒネを処方。毎朝の錠剤と発作時の内服液で、苦痛が取れない場合は15〜30分後に追加で飲むなど対応法を丁寧に伝えた。薬剤師も通って指導する。以来、緊急往診はほぼなく、妻はパートに出られるように。男性は妻の休日に趣味の日曜大工の工具を見に、ホームセンターに一緒に行くのが楽しみという。
 将来、寝たきりになる場合も考え、人工呼吸器を装着するか悩む。苦痛があるときは病気を受け入れられず、十分な判断もできなかった。妻は「介護する気持ちも楽になったし、本人が冷静になるためにも欠かせない」。
 「苦しくないようにするから安心して」。中島さんが語りかけると、男性は指でOKマーク。「苦痛を取ることで医療者への信頼感も強まり、一緒に乗り越えられる」
 男性が服用するモルヒネは従来、がんだけの保険適用だったが、2011年9月からALSでも使えるようになった。モルヒネにはがんだけに保険適用が認められているものと、がん以外でも使えるものがある。
 三友堂病院(山形県米沢市)で長年、モルヒネを使った緩和ケアをしている医師の加藤佳子さん(71)は、「がんの緩和ケアが注目されるにつれ、モルヒネは『末期だけ』との誤った認識が広まり、十分に活用されていない」と指摘する。
 加藤さんは山形大病院に在籍時の1988年から昨年末まで、がん以外の935人にモルヒネで痛みを取る治療をした。腰痛や骨粗しょう症による脊椎の圧迫骨折、帯状疱疹(ほうしん)など幅広い疾患を対象に、日常生活が送れないほどの激しい痛みがある場合に処方している。
 すべて外来で、処方した医師が痛みの軽減度や副作用の有無を患者に直接電話で確認するなどした。どういう場合、どれくらいを服薬すればいいのか、自己管理できるまで支援。痛みがなくなれば、モルヒネの治療は終わり、依存症や中毒になったケースはない。加藤さんは「うまく使えば、つらい痛みから救える患者さんは多い」と話す。
 がんだけに保険適用されるモルヒネの中には、重い呼吸器疾患や心不全で生じる呼吸困難の緩和に効果があると考えられるものも。国立長寿医療研究センター緩和ケア診療部の西川満則さん(49)らの研究班は、適用拡大を目指し、2年前から安全性と効果を調べる臨床研究をしている。西川さんは「他の薬で患者が受け入れられない苦痛があれば、モルヒネを使える環境を整える必要がある」と話す。
 日本尊厳死協会(東京)は、これらモルヒネの有効活用についてまとめた「モルヒネは鎮痛薬の王者 あなたの痛みはとれる」(1080円)を出版。問い合わせは中日新聞出版部=電052(221)1714=へ。(山本真嗣)