学術誌の電子アーカイブ化に関する組織的手続きについて

日本医療社会福祉学会が、同学会誌『医療社会福祉研究』を第1巻(1992年)から第17巻(2009年)まで、オープンアクセスとしたことを、同学会ニュース(vol.24-2号)で知った。
http://jsswh.umin.jp/publication.html

各論文が電子アーカイブ化されており、興味のある論文をいつでも気軽に読むことができる。さらに、データは文字認識処理もされており論文内の文字レベルまで検索可能となっている。

大学院生の頃(13年前)、国立社会保障・人口問題研究所のホームページで、同研究所の『季刊 社会保障研究』や『海外社会保障研究』が既にオープンアクセスになっていた。さらにバックナンバーの各巻・各論文を横断検索でき、大変重宝したことを覚えている(現在は、横断検索はできない)。

社会福祉関連の学術誌で、オープンアクセスとしている他の例は、日本ソーシャルワーク学会『ソーシャルワーク学会誌』 (第28号以降)や、日本社会福祉学会関東部会『社会福祉学評論』(1号以降)がある。また、CiNii上で定額アクセスとしている例として、日本社会福祉学会『社会福祉学』がある。

先人の研究成果から学び、自らの研究に活かす。連綿と続くこの行為があってこそ専門分野の学術的な質が向上し、新たな知も産まれる。そういった意味で今回の日本医療社会福祉学会の取り組みは学術団体として至極まっとうだと思う。また、実現するために関られた方々にいち会員としてお礼を述べたい。

但し、その組織的手続きについては違和感を覚えた。それは、著作者に対して電子アーカイブ化に関する周知・告示などがあった形跡が見当たらないからだ。また、投稿規定において著作権について規定の追記も見当たらない(第22巻・23巻合併号参照)。

上述した、日本社会福祉学会では2009年に告示を行い、学会に著作権の無い創刊号から41巻の電子アーカイブ化について、「著作権のうちの『複製権』(著作権法第 21 条)および『公衆送信権』(同 23 条)の行使に限り、著作権者から本学会に許諾」を願い出ている。そして一定の期間を設けて、承諾しない著作者や遺族等の著作権者の連絡を受付け、当該論文については不掲載とした。また、機関誌編集規程において「第9条 本誌に掲載された著作物の著作権は一般社団法人日本社会福祉学会に帰属する。」としている。

日本社会福祉学会関東部会も2012年に同様の手続きで電子アーカイブ化へ組織的手続きを行っている。日本ソーシャルワーク学会はもう少し手続きが簡略され、やや事後報告的ではあるが2014年に公表した上でそれ以降の学術誌につき電子アーカイブ化がなされている。

なお、公正を期すために述べておくが日本医療社会福祉学会も電子アーカイブ化について事前周知をしていない訳ではない。2012年度第3回理事会(2012年12月2日)(『学会ニュース』vol.21-3)において、「ホームページ活用の一環として、学会誌の論文掲載についてデータ化は完了しているが、著作権・複写権等の検討が必要」(p4)と初めて研究誌の電子アーカイブ化について言及し、既にデータ化も完了していることが明らかにされている。また、2014年度事業計画において「2)学会誌のデータ化 学会で得られた見地を社会に提供すべく、オープンアクセスの方向であり、今年度ホームページに掲載予定である」(p4)が挙げられている(『学会ニュース』vol.23-2では2013年度事業計画と表記)。

他の社会福祉分野の学会の「先行実践」を踏まえず、先行研究である学術誌を公表するとは何とも皮肉な話である。せめて公表はされていないが著作者へ個別に電子アーカイブ化について承諾の連絡がなされていることを願う。また、法人化を前に組織的手続きが正常に行われることを期待してやまない。