田中千枝子「ソーシャルワーカーの専門性と役割―議論を沸騰させる分析視覚の共有を目指して―」『ソーシャルワーク実践研究』第1号,2015,pp.31-40

みなさん、診療報酬改定への対応作業ご苦労さまです。どの職種でも組織から求められる業務と専門職として患者・家族のQOL向上のためにやりたい業務があると思います。やりたい業務だけをやるのでは組織の承認を得られません。組織から求められる業務を期待以上に成果をあげつつ、専門職としてやりたい業務を展開したいものです。生き残らなければやりたい業務をやる機会を失います。まずはしっかりと、生き残りましょう。

田中千枝子「ソーシャルワーカーの専門性と役割―議論を沸騰させる分析視覚の共有を目指して―」『ソーシャルワーク実践研究』第1号,2015,pp.31-40 種類:講演録

○印象に残った言葉
・スーパービジョンとは、まな板の上に何を置くかでその性質が決まってきます。事例をまな板にのせるのか、事例を抱えている自分をのせるかです。(p34)
・事例検討と事例評価では、事例を客観的に描写するので、自分の支援の振り返りとしての主観的な省察になりません。省察とは、支援プロセスで、自分自身が何を思い、いかに判断し、どのような根拠のもとでその行動をしたのか、そのプロセスを書くことです。(pp.34-35)

・30年前、この事例を理論で説明して下さいと申しますと、カウンセリング、家族療法等の理論はご存知ですが、「理論で実践をおこなっているわけではない」というような拒否的反応が返ってきた覚えがあります。それほど、理論と実践は違うと思っておられる方が多かったのです。今は、理論を実践に引用するということは可能ですし、知識もある方が多くなりました。しかし、そのことを自分の「身の内」にし、そこから語ることが難しいのです。理論と実践の乖離が省察されにくい状況を生んでいるのではないかと思います。(p35)

・転院先、連携先の選択肢を増やすとか、連携のための「調整」を実施するソーシャルワーカーの役割が協調されました。ソーシャルワーカーとして当事者へのアセスメントは影を潜め、本来の自己決定との齟齬が出てくる要因がありました。(p35)

・私のバイジーの一人は、キーパーソンという言葉をしばしば使ったのですが、誰にとってのキーパーソンかを考えてみると、どうも病院の職員やソーシャルワーカーにとってのキーパーソンであって、当事者にとってのキーパーソンでないのではないかとスーパービジョンの中で述べることもあります。(p35)

・当事者の代わりに当事者が考えるように主張する役割と規定するのは権利擁護のソーシャルワーカーに多く、当事者の声を聴くことが仕事なので、当 事者のポジションにソーシャルワーカー自身を置くべきと考えておられます。それに対して、地域や医療の調整役としてのソーシャルワーカーは、チームやその 他の調整業務が主になるので、当事者のポジションよりも環境調整の方に向かう傾向を持っているのではないかと考えます。当事者主体の考え方にも役割分担が あるということで、ダブル・ソーシャルワーカーで役割分担をすれば良いのではないかという意見も踏まえ、従来から私たちがやってきて当事者主体てで自己決 定を守るという仕事と、周辺のソーシャルサポートの資源の調整をしていくという調整役のソーシャルワーカーの仕事、この中で葛藤が起きているように思いま す。すっきり二つに分けることができれば良いのですが、実態としては、そうではないところが多く、一人のワーカーの中で葛藤が起きています。そのような葛 藤が起きていれば良いのですが、葛藤もないまま調整役の方にシフトしているワーカーがいるのではないかと反省を込
めて感じています。(p36)

・従来、ソーシャルワーカーは専門職としての一匹狼で、組織の部門、部署を形成する必要がないほど少人数で見逃されてきました。しかし、今や制度化・官僚化が進んで、セクションとして組織に管理される必要が出てきました。野放しにされて自由勝手に行動するのは、よほど力のあるワーカーでなければ認められるわけもありません。組織人として、専門職としてジレンマ状況を体験する中で、ソーシャルワークの価値に基づくマネジメントが必要といわれるようになってきました。そこで、今、組織としてのミッション(使命)が着目されてきたと考えています。ソーシャルワーカーの振り返りと語り直しとしてミッションを語っていく流れを作ること。それがスーパービジョンの形態をとることで、施設・法人マネジメントの核になる可能性も出てきています。このことは、開発的・総合的ソーシャルワークの展開、つまり枠組みを外すという論理と逆のことを申し上げているようで、やや勇気を持って発言しておりますが、制度化・官僚化が進む組織の中でもソーシャルワーカーは存在し、生き残り、ソーシャルワークの価値に基づくマネジメントを実施すべきと考えます。官僚制が肯定されているような組織の中で、組織や制度を使ってソーシャルワークを実践する、専門職としての自負心を持って組織マネジメントを行うべきと考えています。その延長線上で開発的・総合的なことを可能とするのがソーシャルワークではないでしょうか。(p36)

アメリカでは組織に過剰適応してソーシャルワークを見失った「マネジド・ケア暗黒の10年」の反省から、専門職としての管理力・方法論の模索が実施されつつあります。(p36)

・「組織を使って地域に展開するソーシャルワーク」です。「組織に使われて過剰適応してソーシャルワークの意義を失っていく」ことにならないために、組織のミッション、ソーシャルワークのミッションをもう一度考えて、その上でスーパービジョンが考えられると良いのではないかと思ったわけです。(p39)

○考えたこと
・メゾを「個別レベル」と「地域レベル」を結ぶ組織メゾと、「地域生活」から「地域社会」まで展開する地域メゾに分ける考え方は面白いと思った。

・組織の中の一部署として、ソーシャルワーカーがバランスよく機能するには、組織のミッションを念頭に置きつつソーシャルワーカー部門のミッションの確立すること。そして、ソーシャルワーカー部門のミッションを部署内で展開し「身の内」に入れるためにスーパービジョンを行うという考え方は、ソーシャルワーカーが10人以上の部門となったMSW部門の管理者には受け入れやすいと思った。

・Alfred Kadushinほか『Supervision in Social Work(5版)』Columbia Univ Pr;2014で「マネジ・ドケア暗黒の10年」という内容が記述されているとのこと。組織に過剰適応してソーシャルワークを見失ったことへの反省と、専門職としての管理力・方法論の模索の実施が、果たしてどの様に記載されているのか。日本福祉大学の教員ほかで翻訳作業中とのこと。早く読んでみたい。