『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻142号)』2016.5.1

『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター』いのちとくらし非営利・協同研究所ホームページ
http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/

「3.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文」『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻142号)』2016.5.1より、以下転載。

○[イギリスにおける]高齢者の独居が手術の費用と便益に与え影響
Turner AJ, et al: The effect of living alone on the costs and benefits of surgery amongst older people. Social Science & Medicine 150:95-103,2016.[量的研究]
 独居高齢者は増加し続けている、医療・社会サービス費用が高額な集団である。独居が健康と医療の費用と便益にどのように影響するかについての先行研究は、健康と医療利用についての粗い尺度しか用いておらず、他の費用決定要因や患者の経験についてほとんど考慮していない。我々は独居が治療経過全体の各段階に与える影響を、2009~2010年にイングランドのNHSで大腿骨・膝関節置換術を受けた50歳以上の全患者105,843人(うち独居が26.7%)についての治療前の経験、手術の便益と費用を含む大規模データを用い、多変量回帰分析により検討した。非独居者と比べ、独居者の治療前の健康状態は良く、手術の便益は同等であった。しかし、独居者では、入院期間は9.2%長く、再入院の確率は高く、施設に移行する割合も高かった。その結果、独居者の1人当たり費用は179.88ポンド(3.12%)高く、総額では年間490万ポンド高かった。独居高齢者に対する退院後サービスの欠如が、このような追加費用をもたらしていると考えられる。
 二木コメント-大規模データを用いた緻密な研究ですが、結果はある意味で当たり前といえます。

○日本語版Decison Regret Scale[患者の意思決定後の後悔尺度]の妥当性
Tanno Kiyomi(丹野清美),et al: Validation of a Japanese Version of the Decision Regret Scale. Journal of Nursing Measurement 24(1):E44-54,2016.[測定尺度の開発研究]
 日本の医療では、治療過程における意思決定についての患者満足度を測定する尺度は用いられていない。本研究の目的は、カナダのオタワホスピタル研究所で開発されたDecision Regret Scale (DRS)の日本語版が使えるか否か検討することである。そのために、鼠径ヘルニア、胆石症、胆嚢炎、胆嚢ポリープで手術を受けた85歳未満の患者128人を対象にして、日本語版DRSを用いた自記式質問紙調査を行った。その結果、手術後患者(分析対象80人)に対する日本語版DRSの信頼性(α=0.85)と妥当性が示された。日本語版DRSは臨床家が患者との協働の意思決定を改善する上で重要な意味を持つであろう。
 二木コメント-DRSは「患者満足度」とは異なり、患者の「納得の意思決定」を測定する「医療の質」評価の新しい尺度です。同じ著者による日本語論文(「日本語版Decision Regret Scaleと健康関連QOL、患者要因の関係」『日本医療・病院管理学会誌』52(4):5-15,2015)はすでに発表されていますが、DRSそのものの詳しい説明がなされているのはこの英語論文(日本語論文より先に執筆された)が最初のようです。