「無届け宿泊施設180カ所 無契約で生活保護費管理」『日本経済新聞』2016年8月25日

大学院生の頃(2002-2004年)、ホームレス状態になってしまった方々がどの様に居宅や施設に「脱却」していくのか、またどの様に支援していけばよいのかを調べたり実践していました。いくつか地域でフィールド調査をさせて頂いた中で、無料低額宿泊所などを見学したのですが、多くの入居者は無職の60-70代の男性でした。しかし、入居後に要介護状態となる、または病院から紹介された段階で既に要介護状態の入居者がいる施設を見学したとき、正直何が起こっているのか分かりませんでした。何故、高齢者施設に入所して適切なケアを受けさせないのだろう、と。今から思えば、私の臨床経験が足りなかったのだと思います。

病院で勤務する様になり、身寄りがない方の退院支援の過程で居宅を獲得できる方もいますが、多少身の回りの世話が必要でかつご本人が居宅での一人暮らしを望まない場合もありました。身元保証人がいない・要介護認定で自立・要支援と判定された場合、既存の介護施設では適応がないため養護老人ホームやケアハウスを検討するのですが、前者は高齢福祉担当部署が措置に積極的でなく(あるいは施設側がADLや認知面でかなり高いハードルを設定されてしまう)、後者は満床で直ぐには入居できないという事態が生じます。無届け介護施設や自立でも入居可能なサービス付き高齢者向け施設が、消去法的に選択肢となる訳です。

身寄りのない高齢者の入居支援を重ねることでおぼろげながら、大学院生時代の記憶と繋がるようになりました。言い換えれば、ホームレスからの脱却支援と身寄りのない高齢者の退院支援が自分の中で実感をもって繋がる様になり、『済生会生活困窮者問題調査会平成25年度調査研究助成事業 報告書 ホームレスの地域生活移行に向けた公私連携の現状に関する調査研究』(代表:日本福祉大学山田壮志郎)2014で最近の動向をヒアリングすることで、その思いは更に強くなりました。

今回の厚生労働省の調査で、社会福祉法に法的位置付けのない施設の、50.6%(626/1236施設)が高齢者を対象とした施設であることを知り、印象の域だったことが現実であることを知りました。冷めた見方をすれば、高齢者だから自治体が生活保護を認めざるを得なかった結果としての割合だとも言えます。

養老院・老人病院・精神科病院無料低額宿泊所・無届け宿泊施設。そこで過ごす高齢者は同じ状態でも、時代によって社会の処遇方法が変わるだけなのだと思います。

■資料
厚生労働省「『社会福祉法第2条第3項に規定する無料低額宿泊事業を行う施設の状況に関する調査』及び「社会福祉各法に法的位置付けのない施設の状況に関する調査」の結果について」平成28年8月25日
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000134572.html


「無届け宿泊施設180カ所 無契約で生活保護費管理」『日本経済新聞』2016年8月25日
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG25HB4_V20C16A8CR8000/