厚生労働省『成年後見制度における市町村長申立に関する実務者協議資料(2回目)』令和2年11月26日

厚生労働省成年後見制度における市町村長申立に関する実務者協議資料(2回目)』令和2年11月26日
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14904.html

日本社会福祉士会成年後見制度における市町村長申立てに関する意見等』
https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/000698419.pdf

この分野において、日本社会福祉士会は適切に国や他職種との協議の場に関与していると思う。個人ではなしえないマクロソーシャルワークを職能団体というレベルで実践している。

以下、上記意見書より引用。


・①市区長村によりその取り組みが異なる、②厚生労働省作成の手引きが十分に活用されていない、③行政が取り組んだとしても、家裁の虐待事案への理解が、行政側と同じとはいえず親族調査を行政は不要としても家裁が行うといったことがある。
・上記①および②については、行政側が申立を躊躇、控える根拠として、「私権制限を伴う後見申立への行政の関与は本来的に慎重であるべき」という意見が強く出されることがある。そのため、親族調査を前置し、申立者がいない場合に首長申立を行うという解釈になっていると考えられる。すなわち、 a.民法 7 条の申立者の規定は、本人・親族申立を「補充するもの」として市町村長申立を位置付けており、上記行政的解釈の根拠によることに起因する。一方、b.高齢者虐待防止法 9 条 2 項は、「本人の保護を図られるよう…適切に 32 条の規定による審判請求行うものとする」として老人福祉法 32 条の市町村長申立を、親族申立の「補充的機能」ではなく、本人保護のための「積極的機能」として位置付けており、かつ 32 条2でそのための体制整備を求めている。

高齢者虐待防止法

(通報等を受けた場合の措置)
第九条 市町村は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第十六条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。
2 市町村又は市町村長は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第二十条の三に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第十条の四第一項若しくは第十一条第一項の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第三十二条の規定により審判の請求をするものとする。

老人福祉法

(審判の請求)
第三十二条 市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。
(後見等に係る体制の整備等)
第三十二条の二 市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 都道府県は、市町村と協力して後見等の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、前項に規定する措置の実施に関し助言その他の援助を行うように努めなければならない。

・虐待事案は特に、ファミリ ーソーシャルワークという視点に流れがちな福祉専門職が多い。そのようななかで、本人の権利擁護支援のありかたを検討していくときに、家族支援だけではなく、その人本人の立場に立った権利擁護の視点で発言できる人材として本会でも人材育成に取り組んでいる。
・本来首長申立が必要と考えられる案件においても、報酬助成が困難という理由で、虐待事案の虐待者 である親族申立を促す事案や、安易に本人申立てを進める事案が散見され、成年後見制度利用につながった後の親族との関係再構築や本人支援において、課題となる。
・利用支援事業については市町村が 1/4 とはいえ予算化をしなければ使えない制度である以上、市町村格差が出るのは致し方ないことではないのかと考えられ、国が1/2、都道府県が 1/4 を負担する制度という枠組みの見直しは必要ないのか、本会においてもさらなる検討の上見解をまとめることが喫緊の課題であるという認識である。
成年後見制度につながった後にも居所を変更し、 住民登録が異なる自治体に異動すると、それまで利用できていた報酬助成が受けられなくなるということから、本人にとって適切とは考えられないのに、居所を移すための支援に消極的になっている専門職後見人を複数見てきた。
・例えば、精神科病院に長期入院されている方(入院所在地で生活保護受給中)で、入院から数十年経過する中で、元の住所地自治体より居住実態がないという理由で、かなり前に住民票が職権消除されていた事案がある。首長申立をする際に、はじめて住民票がないことがわかり、生活保護を実施している自治体からは住民票がないから申立ができない、一方、もともと住民登録していた自治体ではすでに住民票が消除されているため、権限がない。病院は居住先ではないからこれまで何の対応もしていない、ということになり、それぞれが申立できないという事案があり、家裁と相談してやむなく、本人申立で制度の申立支援したケースがあったとの 報告がある。長期入院患者が入院先の病院に住民登録ができない事案の先に、このような形になることもあるのではないかと思われる。
・国は、1年以上の長期療養が継続している場合は、病院に住所を設置するにあたっての考え方を示す事務通達を国民健康保険法において行っているが、(昭和 47 年 3 月 31 日(都道府県民正主管部(局)長あて 国民健康保険課長内かん))法的縛りはなく、医療機関に協力を求める際に参考となる文書という取扱いである。


住所の取扱いについて

昭和47年3月31日

都道府県民生主管部(局)長あて 国民健康保険課長内かん)

国民健康保険における住所の認定については、昭和46年3月31日付自治振第123号をもって、自治省行政局振興課長より「住民基本台帳法の質疑応答について」が通知されて以来、これを参考として事務処理に当るよう指導してきたところですが、実際の運用においては保険者によって取扱いがまちまちになっているところが見受けられますので、上記通知のうち実際に認定を行う上で困難を伴う事例についての具体的な取扱い並びに上記通知及びこの取扱いについて留意すべき事項を下記により示すこととしましたので、貴管下市町村に対する指導及び周知方をよろしくお願いいたします。

 なお、下記の事項については、自治省行政局振興課並びに厚生省社会局及び児童家庭局と協議済であり、住民基本台帳の取扱いもこの方針で処理されるものであるので、念のため申し添えます。

1.社会福祉施設入所者等の具体的取扱いについて

(1)病院、療養所等に入院、入所している者の場合

当該病院、療養所等の医師の診断書により、将来に向かって1年以上の長期かつ継続的な入院治療を要すると認められる場合を除き、原則として家族の居住地に住所がある。

(2)削除

(3)児童福祉施設以外の社会福祉施設に入所する者の場合

それらの施設に、将来に向かって1年以上居住することが当該施設の長によって認められる場合(文書によることを要しない。)を除き、原則として家族の居住地に住所がある。ただし、老人福祉施設に入所する者については、通常当該施設に1年以上居住することが予想されそこに住所があると考えられるので、当該施設の長の認定は必要がないこと。

2.自治省通知等の留意事項について

前記自治省通知及び上記1の基準は、住所認定にあたっての事務処理を簡素化し、統一化するという趣旨に基づくものであるから、これによることが著しく妥当性を欠くような場合は実態に即した取扱いを行うよう住民主管課と十分協議のうえ処理すること。

出典:「住民票は老健でも病院でも置ける 」『樹形図工房・過去コメ倉庫』2014/10/01
https://jukeizukoubou.blog.fc2.com/blog-entry-1735.html

■関連
八王子市医師会長『病院等への住所(住民票)設定について(ご依頼)』平成31年3月29日
http://www.hachioji-med.com/shoshiki/pdf/001_jumintouroku_kokuchi.pdf


高齢者虐待防止法の当該条文を何度も読んでも、「親族申立の『補充的機能』ではなく、本人保護のための『積極的機能』として位置付けており」とは解釈しがたい。日弁連は通知運用の改善に焦点を絞って意見を述べている。大阪市では親族照会なしで首長申し立てをしているとのこと。