第16回全国老人保健施設大会演題抄録

5/16に締め切られた抄録を掲載します。今回はポスターセッションに応募。これから8/31に向けてポスター作成に入ります。抄録をお読み頂き、お気づきの点・質問等がありましたら、どしどしコメントを下さい。 【要旨】 在宅復帰を支援する場合、個人・環境の両因子を含めた家族介護力について把握する必要がある。本報告では、家族介護力の内容について先行研究を整理し、次いでその把握方法として、「在宅介護スコア」を取り上げた。 表題:家族介護力の内容とその把握方法に関する一考察 ~「在宅介護スコア」の活用に向けて~ 【はじめに】 支援相談員は、家族状況や家屋状況を把握して、心理・社会的側面から入所者の在宅復帰を支援することを業務としている。それに加えて、当施設においては、ISO9001の取得や第三者評価を控え、支援相談員の業務にも質の維持・向上を目的とした客観的な取り組みが求められるようになってきている。そこで、在宅復帰を支援するための方法を検討したので、ここに報告する。 【目的】 本報告の目的は、支援相談員が行っている家族介護力の情報収集を客観的かつ効率的に行うための方法を検討する上での基礎資料を作成することにある。 【方法】 まず、共通の検索条件として、老人保健施設・在宅復帰・介護力の3つのキーワードを設定した。次に先行研究の収集方法として、第1に国立国会図書館(NDL-OPAC)にて、論文の収集を行った。第2に、調査報告書については、調査実施主体から取り寄せ、もしくは厚生労働省図書館にて複写した。第3に、国立情報学研究所(Web-cat)にて書籍の収集を行った。収集の結果、2005年4月25日現在で、先行研究64本(論文52本、報告書7本、書籍5本)を入手し、これらを分析対象とした。 【結果】 分析対象のうち、老人保健施設における退所阻害要因に関する実証的な先行研究は、10本が該当した。退所阻害要因には、本人がどのような「身体状況」や「認知・心理状況」にあるかという下位因子からなる個人因子と、本人を取り巻く「家族状況」や「家屋状況」といった下位因子からなる環境因子に分けられる。岡島(1995)は、これら個人因子と環境因子の各要素を含めて家族介護力という概念から報告を行っており、本報告においてもこの概念を用いて先行研究で使用された各因子を整理した(有意差の判定基準p<0.05以下)。 第1に、個人因子では、「身体状況」において、女性である、ADLが低い、要介護度が重い、精神疾患があることが有意であった。しかし、性別、ADL、要介護度については、有意差が見られないという報告もあった。「認知・心理状況」においては、痴呆症状が重いことが有意であったが、それを否定する結果もあった。また「かなひろいテスト」「SDS(自己評価式抑うつ性尺度)」「主観的幸福感(PGCモラール・スケール)」についてはどれも有意差は見られなかった。 第2に、環境因子では、「家族状況」において、キーパーソンの能力が低い、家族の機能が低い、退所先意向が特養である、配偶者がいない、独居・老老世帯など多くの因子で有意であった。「家屋状況」においては、部屋数が少ないことが有意であったが、持ち家かどうかでは有意差は見られなかった。 家族介護力の把握方法に関する研究は、坂上ら(1993)によってなされており、「在宅介護スコア」という指標が開発されている。なお「在宅介護スコア」とは、「在宅ケアを可能ならしめる要件を客観的に検討する」ことを目的に開発され、介護者の健康、介護者の専念、介護代替者、経済的条件、住環境、ADL、コミュニケーション能力、異常行動、医療処置、介護者および患者の意欲を16項目に集約した指標である。通常、家族のみで在宅介護を行う場合には21点満点中11ポイント以上が必要であり、それ以下の場合には、何らかの地域による介護が必要となるか、もしくは施設入所を検討することとなる。 【考察】 先行研究の分析結果から、退所阻害要因において、個人因子では必ずしも明確な結果は出ておらず、環境因子では特に「家族状況」が大きな影響を与えている事が確認できた。このことから在宅復帰支援においては個人因子だけではなく、環境因子にも配慮する必要があることが示唆された。この事実は、実践経験からも妥当である。例えば、介護量が多い利用者であって、かつ施設職員の側も、在宅復帰は困難であろうと判断した事例であっても、家族の受け入れ状況によっては、在宅復帰が可能となることがある。逆に、介護量が少なく、施設側も在宅復帰が可能であろうと判断した事例であっても、それが困難な場合もある。利用者の総合的なアセスメントツールとして、鳥羽ら(2003)の「高齢者総合的機能評価(CGA)」やMorrisら(2005)の「MDS」が挙げられるが、これらのツールを施設が利用する主目的は、入所者に質の高いケアを提供することであって、在宅復帰の可能性の有無を検討することではない。その点で、「在宅介護スコア」は、我々支援相談員の業務内容からも親和性が高く、日常業務で得られる家族介護力の情報を客観的かつ効率的に把握しうる方法になりうる。ただし、同スコアでは、在宅介護の質そのものを把握するわけではないという和気ら(1998)の指摘もあり、その点については、他の指標を参考としつつ、実践において補足する必要がある。 【まとめ】 先行研究の分析結果および実践経験から、支援相談員の業務の一環として、「在宅介護スコア」を用いて家族介護力の把握することで、情報収集が客観化及び効率化されることが示唆された。今後、本指標を用いてデータ収集を行い、業務改善に活用すると同時に、本指標の有効性について結果の公表を行いたい。 【引用文献】 岡島重孝「介護力評価システムの開発及びケアプランの最適化に関する研究」坂上正道ほか『在宅ケアの評価及び推進に関する研究』『平成6年度長寿科学総合研究報告書』1995 坂上正道ほか「在宅ケア・システム及び技術の開発に関する研究」『平成4年度長寿科学総合研究報告書』1993 鳥羽研二監修『高齢者総合的機能評価ガイドライン』厚生科学研究所,2003 John N.Morrisほか監修(池上直己監訳)『MDS2.1施設ケアアセスメントマニュアル 新訂版』,2005 和気純子ほか「在宅用介護高齢者の家族(在宅)介護の質の評価」『季刊社会保障研究』vol.33,4,1998,pp.392-402