天野馨南子「世界最高水準の自殺率の構造を探る」『ニッセイ基礎研REPORT』8.2005

【価値判断】○     【論文の種類】総説

警察庁、WHO、総務庁統計局の資料を用いた、国際比較からみる日本の自殺率の構造に関する論考。(なおOECD加盟国30ヵ国中、全体データのないスロヴァキア、男女別データのないトルコを除いている。)

【事実】

OECD加盟国(28ヵ国)において、日本の自殺率は第2位(対10万人)である。

・男女別でみると、日本の女性の自殺率は第1位である。

・自殺者に占める男性比率が高いのはOECD加盟国共通の傾向だが、各国に比べて日本の男性比率は相対的に低い(28ヵ国中24位)。

・自殺者の多発年齢層は、日本において50代男性、OECD加盟国/世界全体では75歳以上男性である。(但し、世界全体では45-54歳にも2番目のピークがある。)

【考察】

著者は、国際的にみて経済的に豊かな国では、75歳以上男性の自殺が主流であるのに対して、同じ経済状況にも関わらず50代男性の自殺が主流である日本の構造に注目する。(著者はこれを「OECD諸国には珍しく旧ソビエト連邦諸国と似た自殺年齢構造を持つ」と表現している。)

そして、1人当たりGNPが2万ドル以上であるOECD諸国所得上位層の自殺率増減を比較し、日本の増加率が突出して高いことを指摘。データ対象年が1993-2003年であることから、筆者は日本の独特な自殺率構造の原因が、バブル経済崩壊とその後の景気の長期低迷によるものではないかと述べている。

【コメント】

日本の自殺率に関する議論では、いつも男性中高年にばかり注目していたので、女性の自殺率がOECD加盟国中第1位であることに驚いた。総説で枚数の制約があるため仕方無いが、自殺率の構造の原因について、もう少し踏み込んだ分析が欲しかった。

関連:

OECDの概要(国土交通省HP)

ニッセイ基礎研究所