2006年3月6日「社会福祉士」という名称が診療報酬上に掲載された日

はじめに 2006年3月28日、日本医療社会事業協会のHPにて、社会福祉士の名称が診療報酬上に掲載された旨のアナウンスがなされた(会員のみ資料閲覧可能)。 →なお、該当の資料は、厚生労働省HP「平成18年度診療報酬改定に係る通知等について」においても閲覧可能なので、各自参照頂きたい。 この事実について、周辺の医療ソーシャルワーカー内でもにわかに話題に上るようになっている。そこで、まずはじめに具体的な内容について紹介し、その上で若干の私見を述べたい。 1.事実認識 「平成18年度診療報酬改定に係る通知等について」において、「社会福祉士」という文言が診療報酬算定に絡んで掲載されていたのは、具体的に以下の4 点である。 a.回復期リハビリテーション病棟入院料 (1)回復期リハビリテーション病棟は、脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折等の患者に対して、ADL能力の向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションプログラムを医師、看護師、理学療法士作業療法士言語聴覚士社会福祉士等が共同して作成し、これに基づくリハビリテーションを集中的に行うための病棟であり、回復期リハビリテーションに要する状態の患者が常時8割以上入院している病棟をいう。 出所:保医発第0306001号「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」(p.32) b.退院時リハビリテーション指導料 (3)当該患者の入院中主として医学的管理を行った医師又はリハビリテーションを担当した医師が、患者の退院に際し、指導を行った場合に算定する。なお、医師の指示を受けて、保険医療機関理学療法士又は作業療法士保健師、看護師、社会福祉士精神保健福祉士とともに指導を行った場合にも算定できる。 出所:保医発第0306001号「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」(p.57) c.リハビリテーション総合計画評価料 (1)リハビリテーション総合計画評価料は、定期的な医師の診察及び運動機能検査又は作業能力検査等の結果に基づき医師、看護師、理学療法士作業療法士言語聴覚士社会福祉士等の多職種が共同してリハビリテーション総合実施計画を作成し、これに基づいて行ったリハビリテーションの効果、実施方法等について共同して評価を行った場合に算定する。 出所:保医発第0306001号「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」(p.168) d.ウイルス疾患指導料 1 ウイルス疾患指導料に関する施設基準  (1)HIV感染者の診療に従事した経験を5年以上有する専任の医師が1名以上配置されていること。  (2)HIV感染者の看護に従事した経験を2年以上有する専従の看護師が1名以上配置されていること。  (3)HIV感染者の服薬指導を行う専任の薬剤師が1名以上配置されていること。  (4)社会福祉士又は精神保健福祉士が1名以上勤務していること。  (5)プライバシーの保護に配慮した診察室及び相談室が備えられていること。 出所:保医発第0306003号「特掲診察料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(p.10) 2.価値判断 以下、個々の項目について私の価値判断を述べる。 a.回復期リハビリテーション病棟入院料 本入院料を算定する場合に、従来の職種に加えて社会福祉士を配置(専任か兼任かは不明)することが追加例示された訳である。あくまでも必要に応じて社会福祉士も加わることが望ましい、ということに留まっている。 b.退院時リハビリテーション指導料 本指導料を医師が算定する場合は、必ずしも社会福祉士は加わらなくても算定は可能である。なお、医師の指示を受けた理学療法士又は作業療法士が、本指導料を算定する場合においてのみ、必要に応じて社会福祉士も加わることが望ましい、ということに留まっている。 c.リハビリテーション総合計画評価料 本評価料を算定する場合に、従来の職種に加えて社会福祉士も参画してリハビリテーション総合実施計画を作成し、評価を行うことが追加例示された訳である。こちらも必要に応じて社会福祉士も加わることが望ましい、ということに留まっている。 d.ウイルス疾患指導料 本指導料を算定する場合は、精神保健福祉士が配置(兼任でも良い)されていれば、必ずしも社会福祉士が加わらなくても算定は可能である。なお、本指導料においては、精神保健福祉士が配置されておらず、かつ社会福祉士の資格を持たない医療ソーシャルワーカーしか配置されていていない場合は、算定することが出来ない。 また、社会福祉士又は精神保健福祉士専用とは限らないが、「相談室を備えていること」も算定要件となっていることは、相談室を院内に確保する上で、交渉材料のひとつとなりうるであろう。 小括 bとdは、社会福祉士の配置が義務化された訳ではないので、病院としても他に対処方法がある。aとcに関しては、新たに社会福祉士が追加例示されただけであって、必須要件ではない。以前の記事にも書いたが、医療ソーシャルワーカーの診療報酬上の評価方法としては、やはり人員配置の有無で評価する方がやり易いということなのだろう。 なお、今回の診療報酬改訂においては、少なくとも社会福祉士の資格を持った医療ソーシャルワーカーが個別の援助行為を行った場合における独立した評価項目は存在しないという点についても確認しておく必要があろう。(無論、私は医療ソーシャルワーカーの個別の援助行為に対する診療報酬上の評価実現を否定する立場でないので誤解の無いように。) 学生の頃、「医師や看護師といった医政局が担当局の国家資格においてのみ、保険局管轄の診療報酬上に掲載することが可能。社会福祉士は、社会・援護局が担当局の国家資格なので、診療報酬上に掲載することは困難である。」という話をよく耳にしたが、どうやらそれはデマであった。 厚生労働省HPを見ても分かるように、現在の診療報酬に掲載されている国家資格は、医政局が担当部局である、医師・看護師・理学療法士作業療法士等の他にも、薬剤師は医薬食品局、管理栄養士は健康局、そして精神保健福祉士は社会・援護局障害保健福祉部においてそれぞれ担当されており、既に診療報酬上に掲載されているのである。そのため、今回の社会福祉士の診療報酬上の掲載は、必ずしも「例外」ではないことが確認できる。 少し話はそれるが、2005年9月18日に日本女子大学において日本医療社会福祉学会第15回大会が開催された。シンポジウムで、初台リハビリテーション病院院長の石川誠氏が講演し「現在、厚生労働省と交渉しているのだが、私は回復期リハビリテーション病棟において医療ソーシャルワーカーの配置を義務付けるように働きかけている。しかし、他の職種とは違って国家資格がないため、私もどのように話を持っていけばいいか分からない。皆さん、私はどう答えたらいいのでしょうか?」と質問していた。 その時、日本医療社会事業協会会長である笹岡氏が、「社会福祉士です。」と返答していたことを思い出した。今考えれば、あの時のやり取りが今回の診療報酬改訂に少なからず影響を与えているのかもしれない。 なお、医療ソーシャルワーカーが実際に行っている業務範囲からいけば、上記4点はわずかな分野であるため、今回のことをもってして、社会福祉士の資格を持っていない医療ソーシャルワーカーが直ちに資格取得に動き出すとは思えない。但し、回復期リハビリテーション病棟で働いている医療ソーシャルワーカーは、ともすると職種名が「社会福祉士」に変わってしまう可能性がある。 そうなると、日本医療社会事業協会は、今後、他の診療報酬項目においても社会福祉士の名称を加えていくよう厚生労働省に働きかけていく方針であるため、それが実現すればする程、医療ソーシャルワーカーという名前は姿を消し、社会福祉士という名称にだんだん収斂されていくことになる。では、その考えを突き詰めていけば、おのずと日本医療社会事業協会はその役割を終えて、日本社会福祉士会へと吸収されていくという図式が見えてくるのであるが、それは私の考え過ぎなのであろうか・・・ いずれにせよ、今回の診療報酬改訂を機に、「社会福祉士の資格を持たざるものは医療ソーシャルワーカーにあらず」という乱暴な考えが、医療関係者の間に広まらぬよう、患者・家族を心理・社会的な側面から援助しようと、同じ志を持って、日々業務に従事している我々医療ソーシャルワーカー同士が、今後の方針についてきちんと議論しなければいけない。 ・2007年10月23日 一部修正