池崎澄江ほか「介護老人保健施設における在宅復帰率に関連する施設要因と利用者要因の分析」『病院管理』vol.43,№1,2006,pp.9-21

【論文の種類】量的調査     【価値判断】◎ 【要約】(論文より引用) 全国1,000の介護老人保健施設に対しアンケートを郵送し、施設概要と運営方針に関する調査、および平成15年11月の在宅および病院に退所した入所者の個票調査を行い、355より回答を得た。 施設の年間在宅退所数を入所定員で除した在宅復帰率を従属変数とした重回帰分析の結果、リハ従事者数は関連がみられず、ケアマネジャーの従事者数、居宅介護支援事業所の併設は正の関連を示した。しかし、年間の入所者数に占める在宅からの入所割合を変数として追加するとこの変数が最も寄与しており、先の施設特性の関連は消失した。 個票を入所元別に集計すると、「病院往復群」41.4%が最も多く、「在宅往復群」が26.9%、創設の目的であった「病院-在宅群」は8.6%であった。病院往復群と在宅往復群では、要介護度、在所期間、家族の介護力が有意に異なっていた。 施設の在宅復帰率は入所者の入所元という利用者特性で規定されている要素が大きい。 【印象に残った文章】 ・利用者票を「入所元-退所先」別に分類し、データの有無と施設数を確認したところ、「在宅-在宅」または、「病院-在宅」のいずれもない(調査期間中に1件も在宅退所者がいない)施設が36%(128施設)にのぼり、同様に「病院-在宅」については70%(241施設)が1件もなかった。(p.14) ・在宅復帰群の中でも、施設の利用パターンが異なる利用者がおり、中長期的に在宅生活を営む亜群と、施設生活の間に比較的に短期の在宅生活を営む亜群とに分類できることが示された。(p15) ・施設の特性と在宅退所者の実績の関係をみる限りは、リハ職の強化が、在宅復帰には必ずしも結びついていないことが明らかになった。これは、リハビリテーションが在宅復帰に意味がないということではなく、ADL向上によってのみ在宅へ帰れるという特性の利用者が現実には非常に少ないと解釈すべきものではないかと考える。(p.17) ・平成12年4月の診療報酬改定では、「回復期リハビリテーション病棟入院料」が設けられ、リハ重視のアセスメントを受けた要介護者は、老健ではなく同病棟へ入院する体制も始まり、「退院支援」を行って医療機関が直接に在宅へ向けたマネジメントも広がりつつある。現在のこうした環境において医療機関から老健へ入所してくる高齢者は、既に退院支援やリハビリテーション評価において「在宅復帰にかなりの調整を要する」とスクリーニングされた高齢者であるともいえる。(p.17) ・「在宅復帰率(何人在宅へ帰ったか)」という量のみならず、質(どのような利用者を在宅へ復帰させたのか)を含めて丁寧にみていく必要がある。報酬評価の観点からいえば、例えば、病院からの入所者は在宅からの入所者に比べて在宅復帰が難しいので、病院からの入所者を在宅へ退所させた際の加算を設定するという方法も考えられるのではないだろうか。(p18) ・施設の利用日数においては、ショートステイと変わらない期間でも入所と扱うことが、施設の方針で恣意的に行われている可能性が施設のインタビュー調査で明らかとなった。(p.18) ・(今後の研究課題として)主介護者の詳細な状態や要介護後の経過年数等の入所元以外のさらなる利用者特性をも検討していく必要がある。(p.19) ・病院から在宅へ復帰した者や、長期入所者の状態についても合わせて検討することでさらに現在の老健の実態を明確に出来ると思われる。(p.19) 【コメント】 老健とその在宅復帰率に関する最新論文。先行研究と比べて、①調査対象規模が大きい、②利用者のADL・認知よりも入退所経路に焦点があてられている、③施設特性についても検討している点が新しいと思った。 但し、独立変数において施設特性の中に支援相談員があげられなかったことは大変残念である。 病院から、漫然と新規利用者を受け入れることが、結果的に在宅復帰率を低下させてしまうということを両者の割合から指摘しているが、大変重要な指摘である。しかし、著者らも指摘しているように、なぜ、病院から入所した利用者が、在宅から入所した利用者と比べて在宅復帰が難しいのか、その点について更なる研究が必要であろう。 また、「病院-在宅」という経路をたどった場合に、加算を設定するという方法は実情から言えば大変嬉しい案だが、そもそも病院と在宅の中間施設として老健は創設された訳であり当該の経路をたどる様に支援して当たり前のはずである(無論、それを実現可能とする人的配置が出来るだけの基本報酬があってこそではあるが)。 例えば回復期リハビリテーション病棟や亜急性期病床の入院料を算定する場合、その趣旨に沿ったケアをするから報酬がもらえるのであって、趣旨に沿ったケアをしたら、当該の入院料の他に更に加算するといったことはない。もし仮に、その評価が老健になされるのであれば、それは老健総体が創設の趣旨を実行できていないということを自ら認めることを意味しており、恥ずべきだと思った。 介護報酬の操作によって老健老健たらしめるためには、その創設趣旨を実行するに見合った人員配置が出来るように基本報酬を設定(増額)し、その上で趣旨と異なる実績しか上げられない老健の基本報酬を減額する方が理にかなっているではないだろうか。