平成18年度 介護老人保健施設経営セミナーin全社協・灘尾ホール(06.12.15)

本日、東京霞ヶ関にある全社協・灘尾ホールにて、独立行政法人福祉医療機構主催の平成18年度介護老人保健施設経営セミナーに参加。途中、老健部会のIさんとも合流。忘れないうちに、以下参加メモ。 全体の構成 1.「在宅復帰支援の基礎理論」  国際医療福祉大学大学院 教授 竹内孝仁先生 2.「介護老人保健施設の財務・原価管理」  社団法人全国老人保健施設協会 監事  公認会計士・税理士 塩原修蔵先生 3.「介護老人保健施設経営実践事例 勝ち組気分の作り方」  医療法人社団 大浦会 理事長 小山敬子先生 4.「介護老人保健施設の経営診断について」  独立行政法人福祉医療機構 企画指導部 経営指導課長 土屋敬三


1.「在宅復帰支援の基礎理論」  国際医療福祉大学大学院 教授 竹内孝仁先生老健の質とは=在宅復帰機能を高めていくこと ・老施協では、私が講師になり通年形式で介護職員を対象に研修を実施。2ヶ月に1回、1泊2日のスケジュールで実施。各都道府県から原則2施設が参加。今年で3年目になる。具体的事例を各自持ち込んで徹底的に検討し合う。オムツ使用率が数%にまで改善した。 【在宅復帰を可能とするニーズの正確な判定】 最優先のニーズ ①排泄、特に夜間排泄(排尿)の解決 ②認知症の症状(異常行動)の解決 ③歩行能力の向上 ・夜間排尿を減らすためには、日中の活動力をUPさせ発汗を促す。腎血流量をUPさせて排尿を促す。高齢化によるマッスルポンプ機能の低下。就寝時にようやく腎血流量がUPして膀胱に尿が溜まることで夜間排尿が頻回になってしまう。高齢者の生理機能に注目する。 【老健は素人集団が高齢者を支援している大変危険な場所である】 ・介護職は、在宅復帰を想定した介護ができていない。 ・リハビリスタッフは、脳卒中急性期リハに関する知識はあるが、慢性期・加齢によるADL低下・認知症に対する知識が蓄積できていない。介護職の仕事にでしゃばりすぎ。 ・看護職は、急性期治療の薬物療法に安易に頼りすぎ。便秘=パンカマ・ラキソベロンというのは異常な排泄リズムを温存させることになる。 ・支援相談員もダメ職員。在宅復帰のためのアプローチは、①徹底した自立性向上と②家族へのアプローチの2つが重要であるが、特に②が全く機能していない。SW教育が充実していない。退院・退所支援に関する講義や実技が大学で教育されていない。①が出来ている施設で、在宅復帰にきちんと取り組めていない施設では、支援相談員に「お前が頑張らないせいで在宅復帰できないんだぞ。何で連れて帰れないと家族は言っていて、それがどういう要因なのかきちんと聞いているのか。それでもプロか。」と詰め寄っている。そうでもしないと支援相談員は真剣に動こうとしない。支援相談員としてのプライドがない。 【在宅復帰阻害要因へのアプローチ】 A.退所不安要因 ①利用者本人との関係と接し方の不安(以前と状態が変わってしまった本人とどう接したらいいのか・・・) ②病弱者との生活の不安(施設だと専門の人が看てくれるから安心だけど、家では急変した時にどうすればいいのか・) ③個人的生活への不安(介護者のライフスタイル・就労の変化) ④全体的な家庭生活のイメージの不明の不安 ⑤その他(経済など) B.退所「反対者」 ①「反対者」宅への訪問面接 ②「反対者」への共感 「反対者」は家族の中で権力者であることが多い。「反対者」は彼ら・彼女らなりに家族の安定という理由があって反対している。「反対者」を悪者にしてはいけない。「反対者」を倦厭してはいけない。 C.家族関係破綻例 ①カウンセリング ②新しい生活の場 ・(参加者が経営者層であることを見越して)みなさんが、施設に戻ったら利用者・家族に支援相談員についてこう聞いてみたらいい。 「支援相談員の○○さんて、どういう人だか知っていますか?会ったことはありますか?」 「支援相談員の○○さんは、あなた方にとってどういうことをしてくれる職員だと思いますか?」 →全く答えが返ってこないことが分かる。支援の大前提である援助関係が全く結べていない。 【支援相談員たるもの】 ①利用者と入所後何回会ったことがあるのか? ②利用者と施設の間に立つ気構えがあるのか? ③施設生活を円滑に出来るのは支援相談員の能力 ④時間的経過と共に離れていく利用者と家族の心理的距離を理解し、お互いの距離を維持させることが出来るように支援することが大切。 ・よい実践をしている老健には、相談員型老健がある。そこの支援相談員は大変優秀である。群馬県にあるアルボースや鹿児島県にあるケアセンターやごろう苑(施設長は元支援相談員)はその代表例。 参考文献:竹内孝仁老健・特養からの在宅復帰をすすめる本』年友企画,2006.4 2,200円 b08 【内容紹介】(以下、出版社HPより) 改正介護保険法の骨子は、重度者と認知症への対応、在宅復帰、介護予防へとシフトし、施設サービスでは在宅復帰関連への報酬が新設あるいは強化されている。   2004年に富山市の先駆的プロジェクト「富山・在宅復帰をすすめる研究会」の委員長となった著者は、この間の論議に参加しているが、残念ながら在宅復帰への理論も方法論もまだ確立していないとの観をもっている。しかしこの現状の中で、在宅復帰施設としてすぐれた実績をもつ施設もあるというわずかな光明もある。   本書は上記研究会の報告であると共に、在宅復帰をすすめるための理論と実例から構成されている。「家に帰ろう、家にかえそう」との機運が、全国各地で湧きあがることが願いである。 【目次構成】 第1章 在宅復帰のための基礎理論 第2章 自立支援のためのシステム 第3章 自立支援実践の考え方 第4章 認知症のケア 第5章 家族へのアプローチ 第6章 退所後のアプローチ 第7章 在宅復帰の戦略 【療養病床廃止による医療依存度の高い利用者の受け入れについてどういう課題が今後あるかという会場からの質問に対して】 ・医療依存度と言っても、医療が蜜に必要であるか否かは一概には言えない。表現のまやかしに注意すること。 (感想) 竹内氏のケアの方法論及びその(劇的な)結果については懐疑的な部分も多かったが、支援相談員についてまとまったコメント・批判を公の場で聞けたのは大変新鮮だった。大変納得できるコメント・批判であったし、反省することも奮起することも多かった。早速上記書籍をAmazonにて注文。 2.「介護老人保健施設の財務・原価管理」  社団法人全国老人保健施設協会 監事  公認会計士・税理士 塩原修蔵先生老健は利益率が高いということについて】 ・『介護事業経営実態調査』に用いる「介護サービス事業別損益計算書」の作成は難しい。回答出来ている事業所は、それを作成できる優秀なスタッフを確保できている優良施設。財政事情が火の車の施設では、作成できるスタッフの確保が出来ない結果、回答が出来ない。調査しても、優良施設からしか回答がないため、調査結果がゆがんでいる可能性がある。 ・介護報酬は、実費負担相当の視点という考え方。しかし、減価償却もやらなくてはいけないため、利益を出す必要がある。余剰金がなければ減価償却や税金の支払いができない。しかし、厚労省は利益率が高いからもっと報酬を低くしようという判断をしてしまう。ここに矛盾が生じる。 ・老健の7割は、医療法人が運営している。そのうち7割は病院が母体。2割は診療所が母体。残りの1割は単独で医療法人を設立したと「考えられる」。医療法人では、退職金は税務上損益に繰り入れできない。医療法人の人件費率が社会福祉法人や公的法人と比較して低いのはこのため。 ・介護事業経営実態調査は利益率が重視される。介護報酬が下がって、それに連動して人件費をすぐに下げると、利益率は維持される。そうなると「まだ介護報酬を下げられる」と誤認識されかねない。経営者にはもう少し別のところで経営努力をして頂きたい。 (感想) 大変興味深い内容であった。老健協会の監事ということだが、とても真剣・熱意を持って老健の経営事情について考えており、好感が持てた。公認会計士・税理士と聞いてちょっと極めて冷淡に話を展開するのではないかと構えていたが、それは単なる杞憂に終わった。しかし、声のトーンが優しすぎて昼食後の私は講義の後半は熟睡・・・。

3.「介護老人保健施設経営実践事例 勝ち組気分の作り方」  医療法人社団 大浦会 理事長 小山敬子先生 (感想) ピュアサポートグループ代表。医療法人大浦会の2代目。カリスマ型老健運営の事例として興味深かった。所有していた老人保健施設の名称を「おとなの学校」と名称変更し、日課を学習科目(国語、算数、理科、社会、家庭科、体育)に例えて実践。くもん学習療法を取り入れて利用者の活性化を図っている。元気な人だなー。参加者の中には、療養型病床のみを所有している院長層が参加していたようで、小山氏の経営戦略の話を一生懸命メモしている光景が印象的だった。 4.「介護老人保健施設の経営診断について」  独立行政法人福祉医療機構 企画指導部 経営指導課長 土屋敬三 (感想) ・医療法人としての資金調達には限界があるため、同機構は医療貸付事業を行っている。貸付を利用施設に対して債権管理の一環として、同機構が年1回実施している経営状況調査の結果について報告。キャッシュフロー損益分岐点など馴染みのない用語が飛び交っていた。参考資料として配布された『介護老人保健施設の経営分析参考指標2006』に掲載されている「経営指標の概要」に各指標(6カテゴリー・27指標)の解説が掲載されており有用だった。自分の施設を事例に分析してみると勉強になりそうだなー。


(全体の感想) 交通費2万円と参加費8千円、合わせて約3万円かかったが、それなりに持ち帰るもののあったセミナーだった。やはりたまには全国規模の集まりに参加して刺激を受けることが重要だということを再認識できた。