「医療と介護 朗(老)最前線 第9部 在宅を支える老人保健施設」『YOMIURI ONLINE』2006.12.19

介護老人保健施設についての12月19日の記事。 「退所後も施設を使えるという安心感が家族の背中を押す。ずっと在宅介護をするのが難しければ、老健を『離れ』として活用してほしい」と武市裕貴副施設長。 →上手い表現である。  「家族が勤めていて日中は1人になる」「公的サービスやボランティアなど、地域に十分なサービスがない」など、家族や地域の介護力不足も背景にある。多くの老健では、入退所の相談を受け持つ支援相談員が少なく、地域と連携した体制作りまで手が回らない。 →私は、「入退所の相談を受け持つ支援相談員が少なく」というのはおかしいと思う。事実認識として、厚生労働省『平成17年介護サービス施設・事業所調査結果の概要』2006.11によると、2006年10月1日現在全国に支援相談員は5,609人(常勤換算値)存在しており、施設数は3,278ヶ所であるから、1施設あたり約1.7人配置されている計算になる。支援相談員は、「利用者100人に対して1人配置する」という法定基準があり、これは他の医療ソーシャルワーカーと異なる点である。また、職種別でみると支援相談員数は、看護・介護職に次いで多い従事者数であることが分かる。当然、リハビリ各職種の従事者数よりも多い。 私の価値判断としては、支援相談員が多ければ多いにこしたことはないけれども、現状の人数でも出来ることは十分あり、「支援相談員が少な」いとは思っていない。 なお、「支援相談員が少なく、地域と連携した体制作りまで手が回らない」と新聞記事で認識されてしまう理由は2つあると思う。第1に、支援相談員自体の技量の問題である。そもそも職種として在宅復帰のために要する具体的技術の蓄積が欠如しており、あくまでも各支援相談員個人の技量と人柄に依存している現状がある。全国大会での支援相談員の報告もアピールの域に留まっており、この点について早急に手を打っていく必要がある。具体的には、常々申し上げているが、①技術の文章化作業、②獲得目標の明確な研修の実施を2本柱として、支援相談員業務の技量を底上げする必要がある。 第2に、当該施設において支援相談員に与えられている事務的業務の煩雑さが考えられる。概して、支援相談員はソーシャルワーカー業務特有の「何でも屋」になりかねない。特に、経験年数が3年未満のいわゆる初任者支援相談員だけで勤務している場合が少なくない。そのため、年齢的にも経験的にも他職種から色々な業務を頼まれると、引き受けざるを得ない構造に陥りやすい。特に、レセプト業務に全面的または部分的に関わっている支援相談員も少なくなく、そのことが本来、業務時間の大半を当てるべき本人・家族との関わりの時間を圧迫してしまっている。これは、1職種が機能するには作業効率・労働生産性の観点からも決して望ましくない。加えて、この現状に支援相談員自身も甘んじていてはいけない。 以上、「支援相談員が少な」いという記事をもとに、若干ではあるが私の事実認識と価値判断を述べた。私としては、支援相談員の業務は大変魅力的であり、また業務を発展させる余地が十分にあると考えている。もっと胸を張って、他の分野のソーシャルワーカーに対して「私達は、ソーシャルワークをしている!」と言っても良いのではないだろうか。但し、思い込みだけではいけないし、個々の問題に対して、バラ色の解決策というのはない。上記、2つの作業(、①技術の文章化作業と②獲得目標の明確な研修の実施)と平行して、それぞれの現場において地道な努力とその共有化がセットでなされることを、私は強く望んでいる。