漆原彰「介護老人保健施設からみた今後の介護保険施設と医療提供」『病院』第66巻2号,2006,pp.127-131

種類:総説 評価:○ 【論文の章立て】 療養病床の転換先としての老健 1.老健には理念と役割がある 2.老健と療養病床の利用者の状態像(医療依存度)は異なる 3.老健には結果的には適正なサイズと適正な地域内配置がある 4.転換に当たっては、現在の老健の理念、役割を実現できることが前提 平等な医療サービスを受けられるような制度設計を 1.老健で提供する医療の現在の問題点 2.後期高齢者医療制度との関係はどうなるか 3.この際、他の制度間との整合性をとるべき 在宅復帰施設機能をベースに上乗せで機能が追加できる整理を 【要旨】 「転換老健の受け入れも含め、これからの老健はどのような機能をもつべきか」という趣旨で論述。原則的には、介護に関わる費用は介護報酬で、医療に関わる費用は診療報酬から支払われるべき。医療保険の保険料徴収は一律なのに、入所・入院している介護保険施設によってアクセスできる医療に差ができることは、平等ではない。今後明らかに不足するのは「医療」への評価である。基本的には、他医療機関との連携強化、施設内医療の幅の拡大によって充足すべきもの。ターミナルへの対応は老健でも意見の分かれるところであるが、療養病床再編で拡大される利用者の状態像の差異や、国民のターミナルに対する意識変化やニードを考えると避けては通れない課題。今後の老健は、「老健としての基本機能(理念・役割)」に加えて、プラスアルファの機能を付加することができる体制が必要になると思われる。その付加すべき機能は、各老健の在する地域や施設の実情にあった専門性の高いものでなければならない。 【コメント】 1/19の記事でも触れたが、意外にも原則的な発言と柔軟な対応姿勢、整理された文章力に感心。「4.転換に当たっては、現在の老健の理念、役割を実現できることが前提」との意見に納得。この会長発言にどれだけ全国の老健施設が耳を傾けているのか。同じベクトルに向くことができれば、老健の存在は国民にとって今以上に大きなものとなるのではないだろうか。ただし、プラスアルファの部分がともするとベースになりがちであるため、その点については個々の老健の踏ん張りどころであると思う。「『在宅復帰率の低下などでその機能低下を批判してきた厚労省』がいま考える『あるべき老健の像』を明示していただきたいものである。」(p130)と厚労省に言うべきことは言っている点で、社会福祉士会もその品格、手法において見習うべきことは多い。 ・「これまで提供される医療の内容については不十分であるとの指摘を受けてきた経緯はあるが、その内容については、これまでの老健に配置されている医療専門職の数、基準施設、療養病床を含む他の医療資源の存在などから、必然的に決められていたものであり、老健自らが制限してのものではない。さらに、老健で提供する医療にかかる費用は、介護保険制度施行前までの「入所者基本施設療養費」においても、また介護保険制度施行後の「介護保険施設サービス費」においても、その中に包括する定額制、いわゆる「まるめ」で算定されており、例外的に医療保険を算定できる項目の幾つかが、わずかに「他科受診」として定められるにすぎない(もちろん、診療報酬点数が算定できるのは老健ではなく、老健利用者が受診した保険医療機関である)。このことによって、老健利用者は医療保険料を支払いながらも医療保険を自由に利用することができないことになっている。これは老健にとっても、利用者にとっても、はたまた老健利用者が受診した医療機関にとっても、長い間の大きな課題となっていることである。」(pp.127-128) →上手い表現である。ただし、老健は必ずしも100%被害者ではなく、時に自らの手で制限を加えている点があるのも否めないのではなかろうか。