専門職の地域における研修について

はじめに 専門職としての知識・技術の質を担保・向上させる方法の1つに研修がある。研修は、学会や各職種の全国レベルの職能団体が主催する大規模なものから、都道府県レベルの職能団体が主催する小規模なものまで幅広く行われている。特に、働いている地域で行われる研修は参加のしやすさが魅力である。 7月1日の記事(「愛知県社会福祉士会HPがリニューアル」)で、各職種の愛知県レベルの職能団体HPをリンクした後に、それぞれの職能団体が具体的にどの様な研修をやっているのか調べてみた。最近老健部会のメンバーと研修会の案を練っているためか、「研修」という言葉に妙に反応してしまうからである。 本稿では、医療ソーシャルワーカー対象の研修の水準を上げるための課題を検討することを目的に、以下6団体別に地域における研修の実行状況及び内容について感想を述べる。なお、職種別従事者数は、『医療施設調査』及び『病院報告』に掲載されている平成17年10月1日現在の愛知県における病院・一般診療所の常勤換算数を用いた(歯科診療所は除く)。 愛知県における各団体の研修状況 愛知県医師会HP 独自の研修というものは見当たらず。基本的には各専門領域ごとにある学会で知識や技能を習得している様子。言うまでもなく、研修医制度が新人教育の根幹を成している。 従事者数:1万4267.3人 愛知県看護協会HP かなり豊富な研修内容と量。3日に1回は、どこかで研修が開催されているといった印象。さすが最大規模の職能団体だけある。体系立った研修をベースにして、話題のテーマに関する単発の研修が上乗せされている。 従事者数:4万3722.2人 ※看護師と准看護師を合算した。 愛知県理学療法士会HP 愛知県看護協会と並び研修体制が充実している。特に「平成19年度生涯学習部新人教育プログラム」は秀逸で、一見の価値あり。新人だからといって容赦をしないところが良い。毎年、体系立った研修を行っており、単位認定に関連学会への出席や発表を課しているあたりは、学会参加の動機付けとなり面白いアイデアだと思う。但し、県独自の研修というよりは中央組織である日本理学療法士協会が計画した研修プログラム(生涯学習システム)を、新人研修については、都道府県レベルで講師を選定して実施するという研修方式を採用している。生涯学習システムには、①新人教育プログラム、②生涯学習基礎プログラム、③専門領域研究会といったステップアップがあり、それぞれに課せられた単位を取得しないと次のステップに進めない。また、生涯学習基礎プログラムは、取ったらおしまいではなくて、5年間毎に10単位以上を履修しないと、更新できないといった厳しさもある。 従事者数:1659.4人 愛知県作業療法士会HP 従事者数では医療ソーシャルワーカーとほぼ同規模の団体。日本理学療法士会と同様に、中央組織である日本作業療法士協会が計画した研修プログラム(生涯学習制度)を、新人研修については都道府県レベルで実施している。また部局ごとの、研修会も散見される。生涯学習制度には、①基礎コース、②専門コースがあり、こちらもそれぞれに課せられた単位を取得しないと次のステップには進めないようになっている。この従事者数規模でこれだけのことをやるのは相当大変であろう。 従事者数:736.8人 愛知県言語聴覚士会HP 体系立った研修はHP上では確認できず。単発研修のみ。但し、中央組織である日本言語聴覚士協会が計画した研修プログラム(生涯学習プログラム)を、都道府県レベルではなくいくつかの地域で実施している。生涯学習プログラムには、①基礎プログラム、②専門プログラムがあり、現状ではステップアップ制ではなく、自由参加となっている。但し、昨今の従事者数の爆発的な増加により数年後にはかなり組織だった団体となり、研修が体系化される可能性は十分に高い。 従事者数:302.9人 愛知県医療ソーシャルワーカー協会HP 新人研修や専門研修など、名称自体は体系立ってきたが、具体的な内容が毎年バラバラで統一感がない。中央組織である日本医療社会事業協会が計画した研修プログラム(初任医療ソーシャルワーカー講座)を都道府県レベルでは実施しておらず、都道府県レベルで独自に研修プログラムを実施している。特に新人研修は、他職種のそれと比べて研修量及び内容ともに見劣りしてしまうのは、誰もが了解出来ることであろう。(なお、日本医療社会事業協会が都道府県レベルの職能団体の中央組織であるのか否かは、議論が分かれるところでもある。) 従事者数:700.0人 ※医療社会事業従事者と社会福祉士を合算した。 感想 以上、6団体のHPからそれぞれの研修内容について調べた結果、医療ソーシャルワーカー対象の研修の水準を上げるための課題として、以下2点が上げられる。第1に、中央組織と都道府県レベルの組織の連携。第2に臨床と研究・教育機関の連携である。(なお、医師会は研修会に関する記述がなかったため対象から除いた。) 第1の中央組織と都道府県レベルの組織の連携については、医療ソーシャルワーカー以外の各療法士の職能団体では、基本的に中央組織に研修システムがあり、新人教育に限って言えば、それを都道府県レベルで開催するといった連携関係が確認できた(言語聴覚士では一部地域で実施)。ちなみに日本社会福祉士会が、現在それとほぼ同様の研修システム(生涯研修制度)を実施し始めており、新人研修である基礎研修課程は都道府県レベルで開催している。 医療ソーシャルワーカーにおいても、これらと同様な形で研修が開催されることを望む。但し、それには中央組織と都道府県レベルの職能団体の関係性がより明確になる必要があろう。無論、都道府県単独で実施することも問題はないが、少なくとも中央組織の研修システムと同等あるいはそれ以上の研修水準のものを提供でなければ、新人にとって大変申し訳ない結果を生むことになる。 研修というものは、職能団体としてどういう人材を育成したいと思っているのか、そのビジョンを映す鏡でもある。研修内容が体系立っていないということは、すなわちそのビジョンも体系立っていないことと同義である。 第2の臨床と研究・教育機関の連携については、医療ソーシャルワーカー以外の職種では、いずれも連携が取れている印象を受けた。 特に大学病院では、病院(臨床)と養成施設(研究・教育機関)が「セット」になっていることから、必然的に臨床家と教員の連携がとりやすいのかもしれない(無論、負の側面もあるだろうが)。そういった構造が医療ソーシャルワーカーにも求められるが、病院を所有し、かつソーシャルワーカー養成講座を開設している大学は殆んど稀(例:東海大学川崎医療福祉大学国際医療福祉大学東北福祉大学聖隷クリストファー大学)であり、所詮は「ないものねだり」であろう・・・。 あえて希望を語れば、以下2点について今度注目する必要がある。 一つ目に、頼みの綱は、国公立系の大学にある福祉系講座であり、当該大学の医学部が持っている病院の医療ソーシャルワーカーとどれだけ連携を図れるかが今後の研修水準を上げる鍵であると思う。数は少なくとも、その影響力はやはり大きい。平成15年4月1日より、厚生労働省管轄の国立病院で働くソーシャルワーカーの任用資格を社会福祉士または精神保健福祉士としたことも、連携を図る追い風となりうるかもしれない。 二つ目に、実習教育の場も、臨床家と教員の接点を増やす良い機会となっている様に見受けられる。昨年度から始まった、社会福祉士医療機関実習が今後そういった機会を増やす契機となることを期待したい。無論、臨床と教員の間に軋轢が生じる可能性も否定できないが、この中からお互いの共通言語が獲得できれば、一つ前進ではなかろうか。また、このことは、臨床研修の充実にも必要なことである。 おわりに 地域における研修について、新人研修に限っていえば現状で目指すべきは愛知県理学・作業療法士会の研修水準であろう。医療ソーシャルワーカーの約2倍あるいは同等の従事者数で、これだけの組織体制・研修内容を運営できるということは、大変パフォーマンスが良い組織である。やはり中央組織で研修システムを構築し、それを都道府県レベルで実施するという研修方式が、現状では最も効率の良い方法であることが示唆された。これを踏まえて、都道府県協会が独自の判断で必要と思う研修を上乗せするという方法が現実的であると思われる。また、全国の同職種の新人が共通知識・技術することとなり、同職種同士の共通言語獲得にも有効であろう。 但し、これは業務内容の明確化に関する議論と「セット」で行う必要があることは言うまでもない。医療ソーシャルワーカーに限らず、我々ソーシャルワーカーの研修にありがちな「思いつき研修」や「自分探し的な研修」といった内容から一日も早く脱却して、より即物的な内容となることを強く望む次第である。 ①2007.7.13 6:30 加筆・修正 ②2007.7.14 6:00  加筆・修正 ③2007.10.30 5:48 加筆・修正