支援記録の電子化

以下、今後の作業全体像を忘れないためにメモ。 ソーシャルワーカーが用いる支援記録(ケース記録)として、岩間(2006)・副田(2006)は次の7項目を挙げている。 a.フェースシート(基本事項用紙) b.アセスメントシート(事前評価用紙) c.プランニングシート(支援計画用紙) d.プロセスシート(支援過程用紙) e.モニタリングシート(経過観察用紙) f.エバリュエーションシート(事後評価用紙) g.クロージングシート(終結時用紙) これらの記録全てを作成している機関もあるかもしれないが、そもそも記録そのものを作成していない機関もあり、同じソーシャルワーカー同士でも業務内容にばらつきが見られる。その理由として、法や通知上の位置付けがなされていないことや少数部署であることから、あまり記録を作成することに動機付けがなされないといった要因もあろう。「少なくともこれはやっているよね。」という共通認識に、ソーシャルワーカー同士が立てない現状がある。 なお、08年度診療報酬改定においてbとcが合わさったA4サイズの「退院支援計画書」(9ページ)が新たに登場した。これにより、退院調整の分野におけるbとcの記録は標準化されるであろう。 また田中(2008)は次の様に指摘している。「新しい取り組みは、常に報酬設定以前になされ、それがやがて報酬体系に取り入れられ、機能すれば相対的に高く評価されていく・・・(中略)・・・厚労省が点数で誘導して世の中を動かすと見てはダメで、世の中で先進的な努力をしている人の努力を後から点数がフォローするかたちが、社会の進歩の正しい姿です。医療でも介護でも同じです。」 この指摘に沿って考えると、介護老人保健施設における支援相談員の実践において、今後も「在宅復帰支援・在宅生活支援」を掲げる場合は、同様の書式の作成と標準化された実践に取組むことで一定の効果を挙げることができれば、介護報酬体系に取り入れられることも考えられる。現在、支援相談員の業務は他職種と異なり(リハマネ・栄養マネ・看護介護記録など)標準化がなされていないため、先手を打って標準化に取組む必要性を私は強く感じている。具体的には、①「退院支援計画書」を模した書式を作成しカルテへ貼付することにより利用者の置かれている状況と支援相談員の援助計画を他職種に伝えたり、②eをリスク別に期間を設定(1ヶ月or3ヶ月)して実施し、カルテへ貼付することを想定している。それらと平行して、従来のソーシャルワーク実践を行うことが必要であろう。 ちなみに当施設では、aとdの記録を紙媒体で作成している。これは、各フロアで使用しているカルテとは別に支援相談員が作成・保管している。現在は、同時平行的にFilemaker Proにてaを運用しているが、いよいよdのFilemaker Proでの試行運用を開始。入職当初に課題として挙げた、dの電子化に4年経ってようやく近づきつつある。なお、dの電子化にあたっては、K病院から頂いたデータベースがとても参考になっている。 但し、これまで紙媒体で記録を作成してきたため、ケース記録の電子化という行為自体、やはり慣れない感はある。試行的に取組みながら、紙媒体と電子媒体、それぞれのメリット・デメリットを体験的に整理している。 こういった感覚は決してMSW全員にとって共通のものではない。ケース記録の完全電子化以後に就職したMSWにとっては、「紙媒体と電子媒体、それぞれのメリット・デメリット」という議論がそもそも想像できない、という気付きを保健医療科学院の研修参加者との会話の中で得たからである。 今後の課題として、dを業務統計に活用すべく、芝野(2005)が指摘するように問題やニーズの整理と類型化や、それに対応する処遇方法(実践手続き)の整理と類型化が必要となってくる。 これには、川上(1967)、今田ほか(1989)、宮岡(1993)、堀越(1995)、橘高(1997)、J・Mカールズ(2001)、厚生労働省(2002)、日本医療社会事業協会ほか(2004)、小林(2006)が参考になる。 また、ケース記録の電子化に加えて社会資源情報(サービス機関や制度)の電子化とそれらのネットワーク構築に関する包括的な枠組みについては、若松(1994)、芝野(2005)が参考になる。 最後に、記録を電子化することの意味については浅野(2005)、情報の取り扱いについては堀越(1997)が参考になろう。 【引用文献】 ・岩間文雄編『ソーシャルワーク記録の研究と実際』相川書房,2006,pp.21-35 ・副田あけみほか編『ソーシャルワーク記録 理論と技法』誠心書房,2006,pp.30-35 ・厚生労働省保健局医療課長通知『保医発第0 3 0 5 0 0 1 号 診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について 別紙1の2・様式』2008年3月5日 ・田中滋「新自由主義への流れは止まったが」『月刊保険診療』第63巻,第2号,2008,pp.3-8芝野松次郎エビデンスに基づくソーシャルワークの実践的理論化:アカウンタブルな実践へのプラグマティック・アプローチ」『ソーシャルワーク研究』vol.31,№1,2005,pp.20-29 ・川上武『日本医療の課題―臨床医の視角―』勁草書房,1967 ・今田拓ほか編『リハビリテーション医学全書Ⅱ リハビリテーション医療社会学ソーシャルワークとそのシステム-』医歯薬出版,1989,pp.181-203 ・宮岡京子「PIE(Person-In-Environment)-『クライエントの問題を記述、分類、コード化するためのシステム』のソーシャルワーク演習における活用-」『ソーシャルワーク研究』vol.19,№3,1993,pp.186-193 ・堀越由紀子「病院ソーシャルワークにおけるPIEシステムの試用」『ソーシャルワーク研究』vol.20,№4,1995,pp.275-284 ・橘高通泰『医療ソーシャルワーカーの実務と実践 援助内容データベースの構築』ミネルヴァ書房,1997 ・J・Mカールズほか(宮岡京子訳)『PIEマニュアル』相川書房,2001 ・厚生労働省保健局長通知『健康発第1129001号 医療ソーシャルワーカー業務指針』2002 ・日本医療社会事業協会ほか編『保健医療ソーシャルワーク実践3』中央法規,2004 ・小林哲朗「医療ソーシャルワーカーの働きを検証する④ エビデンスを指向した医療ソーシャルワーク」『病院』65巻9号,2006.9,pp.758-762 ・若松利昭編『高齢者福祉の組織心理学』福村出版,1994,pp.129-147 ・浅野正嗣「医療ソーシャルワーク記録の現状と課題―電子カルテ化の検討に向けて―」『金城学院大学論集社会科学編』2004,1(1-2),pp.1-19 ・堀越由紀子「医療現場におけるソーシャルワーク情報の扱い」『ソーシャルワーク研究』vol.23,№1,1997,pp.42-48 ・2008.3.9 加筆・修正