医療ソーシャルワーカーの職能団体が企画する研修とそれらへの会員の認識の遅れ

日本医療社会事業協会(以下、日本協会)が、平成20年度の通常研修に加えて「退院支援専門ソーシャルワーク研修」(講師:田中千枝子ほか)、「フレッシュ医療ソーシャルワーカー1日研修会」、「医療ソーシャルワーカー基礎講座Ⅰ(第59回医療ソーシャルワーカー初任講座)」を開催する。また、今回の診療報酬改訂を踏まえて、書籍『退院支援(仮称)』の出版を検討しており、協会活動のスピードは確実に加速してきている。(『日本医療社会事業協会ニュース№19-5』2008.3.20より) 今回、全国9ヶ所で診療報酬改定に伴う研修会が開催されるが、私の周辺でそれらの申し込みに間に合わなかったと言う声を聞くことが多い。恐らく、協会活動のスピードに会員の認識がついていけていないことが原因と思われる。 ここ2年位の間に、日本協会が主催する研修会への会員の反応は格段に早くなってきており、受付開始から即申し込みをしないと定員一杯となる可能性が高い。近年日本協会は、価値・倫理に関する研修以外に、即物的な技術・知識に関する研修も開催するようになり、それにいち早く気付くことができた会員のみがその恩恵を受けることが可能となった。 どうもソーシャルワーカーには、牧歌的というか反体制的というか、「素人のままでいること」の美徳という歪な価値観が蔓延しているように思う。無論この価値観が誕生した理由として、社会の様々な専門・組織・制度といったシステムからもれた人々の手助けをするというソーシャルワーカーとしての強みがそうさせるのかも知れない。「どんなシステムでも助けられなかった人達を我々は援助するのだ。それこそが、他の職種に誇れるところなのだ。」という感覚は私にも確かに存在する。しかし、その感覚はともすると「素人のままでいる」ことを自ら肯定する、あるいはその立場から抜け出せない原因にもなりうる。結果、日本協会や都道府県協会が主催する研修は、専門的・科学的というよりは、むしろ精神論的また「分かる人には分かる」訳の分からないものとなりがちだ。 当然、そういった研修に参加するソーシャルワーカーは、余程現在の実務が進まず藁をもつかむ思いの人か、私の様な変わり者位である。前者は、研修に出てますます訳が分からなくなる。会員も「どうせいったって訳が分からないから参加はやめとこ」となり、研修にはなかなか参加者が集まらない。 困った主催者側は、「今、どんな研修を望みますか?」と会員にアンケートを連発すれども、結局主催者は「自分のやりたい研修」が既に決っており、会員のニーズに合わない研修がまた実施される。そこに悪循環が産まれる。 その結果が、専門職として職能団体に入らないか、もしくは所属機関で1人だけが会員になり、その人を通じて情報を得るといった歪な現状を作り出している。この状況は、実に悲しい。 しかし、いまそれが変化しつつある。他職種と同じように実務に係わる研修を日本協会が展開し始めている。それに併せて会員も意識を変える必要があるのだ。日本協会は変化した。であれば、我々もまた変化する必要がある。 職能団体が企画する研修が明日の自らの業務に活かすことができるような内容ならば、その会員は次の企画にも必ず参加してくれるだろう。そういった変化が日本協会とその会員の中で起き始めている。出遅れてはいけない。