第17回日本心血管インタベーション学会

7月4日(金)、名古屋国際会議場で開催された、第17回日本心血管インタベーション学会のパネルディスカッション4(テーマ:変革期を迎える医療安全への対応-崩壊が進む医療の中でいま何が出来るかを考える-)が、なかなか面白かったようである。 ちなみにこの記事で『ロハス・メディカル』の編集長川口恭氏のお顔を拝見した。 【関連】 ・川口恭氏当日報告原稿&パワーポイントロハス・メディカルブログより) 以下、CBニュース(7月8日)より転載。


医療崩壊」テーマに議論(前編)-心血管インターベンション学会 日本心血管インターベンション学会は7月4日、名古屋市内で開いた学術集会で、パネルディスカッション「変革期を迎える医療安全への対応―崩壊が進む医療の中で今何が出来るかを考える」を開いた。ロハスメディア代表取締役の川口恭氏や独協医科大学長の寺野彰氏らが、厚生労働省が創設を検討している死因究明制度について、慶応義塾大医学部教授の池上直己氏が「医療費抑制の構造」について、虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹氏が「医療再生」をテーマにそれぞれ講演した。(熊田梨恵) 【関連記事】 医療安全調大綱案「理解進んできた」―日病協 医療安全調は責任追及の役割を持つのか 死因究明制度でシンポ(5)ディスカッション 対象範囲で厚労相と異論―死因究明制度の法案大綱公表 医師法21条を「削除」―民主議員案 医療界は「横着」せず、社会に働きかけを 川口恭・ロハスメディア代表取締役  患者向けの医療や医学知識などを掲載しているフリーペーパー「ロハス・メディカル」を発行している川口氏は、厚労省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会」を傍聴した際の見聞を踏まえ、死因究明制度創設に絡む医療界の行動についての見方を示した。「(医療界は)2005年度から『(診療行為に関連した死亡の調査分析)モデル事業』を始めたが、年度内に『大野病院事件』が発生した。その結果、モデル事業の時には『届け出機関をつくってほしい』と言ったのに、『届け出機関じゃらちがあかない。原因究明機関をつくってほしい』と話が変わった。まだ事業の中間とりまとめや総括もしていないにもかかわらず、新たな検討会が始まった。医療界が厚労省を動かしてこういう無茶苦茶な進行にさせたことを覚えておいてほしい。これは外部の人間から見ると、非常に『横着』に見える」と述べ、こうした状況を医療界が自覚しなければ、今後も同様の問題が起こりかねないと苦言を呈した。 ■医療界が「棚上げ」して「お願い」した  川口氏は、医療界の「横着」ぶりの実例として、原因究明機関に対して医療界として何を求めているかを明らかにしないまま議論を進めたことを挙げた。加えて、「医療界がこの問題について何をしたか。大野病院事件を『とんでもない』と思うなら、警察や検察に対して『ルール適用がおかしい』と物申し、闘わないといけなかったのに、なぜ『ルールを変えよう』という話になってしまったのか。『都立広尾病院事件』についても、そもそも都の病院局が隠ぺいをしたことや、院長が悪い話だと思う。医療者側から『都の病院局がとんでもないことをしている。ふざけるな』の言葉が出てしかるべきと思うが、そういうことをしていない」と、本来医療者側が取るべき行動を必要なタイミングで実行してこなかったと指摘。  「結局、面と向かって交渉することが怖い相手に対して、交渉していない。警察、検察、都、患者・被害者に対してもしていない。それを棚上げにして、『厚労省さんお願いします』と言っているように見える。その結果、厚労省は刑事や司法の問題については、能力も権限もないにも関わらず、頼まれて仕方ないからやった」 ■「医療だけやって」と言ってない  こうした状況が生じる原因として、医療界が社会の仕組みに無関心であることなどを指摘。ある医師が公の場で「医療がこんな(医療崩壊)になるまで医者は何をしていたと言われる。しかし、医者は医療をやっていた」と発言したことに言及し、「象徴するような場面だ」とした。その上で、「社会の側から医療者に『医療だけをやって』と要求したことはないはず」と述べた。 厚労省が「横着」に付け込んだ  川口氏は、「医療は社会の中のサブシステム。医療者だからと言って、社会の構成員としての責務から免れることはない。少なくとも、『医療』のサブシステムが社会と調和して持続するように行動する責務がある」と述べ、学会のリーダーや医師会などはそうした役割を果たしてこなかったとの見方を示した。また、医療界がよく批判する司法やメディア、患者などがとる行動にもそれなりの背景があるとした上で、問題点を次のように指摘し、医療界による自律の必要性を訴えた。  「(他のシステムの)行動を変えるには、働き掛ける必要があり、しかるべき専門家を使わなければいけない。しかし、今のところ、なぜか医療界は厚労省の官僚しか『エージェント』として考えていないのでは。官僚は公益のために働かなければいけないから、一業界がエージェントとして使ってはいけない。厚労省をエージェントとして使うなら、ギブアンドテイクで、普段協力しないといけない。普段文句ばかり言って、都合のいい時だけ言うことを聞かせようとしても聞いてくれるはずがない。その結果、医療界から『事故調を作って』という話があったのをいいことに、自分たち(厚労省)の私利私欲が出た」  最後に川口氏は、「とにかく横着をしないでほしい。ほかのシステムとトラブルが発生した時は、何が必要かを見極め、横着せずに必要な専門家を探し、タダで使おうとするなということ。(専門家は)費用負担をしないと使えない。これを理解してもらえると世の中に対して有意義な働き掛けができる」と呼び掛けた。 医療界の覚悟が問われている 寺野彰・独協医科大学 寺野氏は、死因究明制度の創設について、「(厚労省による)第三次試案は医療側に偏りすぎた内容になった」との見方を示した上で、「このシステムができた時に積極的にリードして医療側のイニシアチブで持っていけるか、それだけの人材を持っていける自信があるか、覚悟があるかが問われている。こちらも積極的にやらねばならず、はめられたと言えば、はめられた」と述べた。医療者側が協力的な姿勢を示さなければならない段階に来ており、そうしなければ患者側などから批判を受け、制度創設は失敗するとの見通しを示した。  制度創設をめぐる議論が第三次試案まで進んだことについては、「第二次試案のパブリックコメントでさまざまな批判を受けて内容がずいぶん変わった。最大限の努力をしたと評価せざるを得ないが、大きな問題点がある」と述べ、具体的な論点に▽医療関係者の責任追及の有無▽届け出対象の範囲▽医療安全調査委員会の設置場所▽医師法21条の改廃▽捜査機関との関係▽通知内容―を挙げた。特に捜査機関との関係については、遺族による告訴権の問題が残ったままであることに懸念を示した。 ■21条削除は無茶苦茶  医師法21条については、もともと異状死の届け出についての定めたものであるため、「廃止することはできないと思う」と述べた。第三次試案が21条の「改正」を打ち出したことには「医療界はほぼ認めている」と、前向きな見方を示した。一方で、民主党案が「削除」するとしていることには、「無茶苦茶な議論」と批判した。「私から見ると、第三次試案は医療側に偏り過ぎている。民主党からも法案が出てくるように、今の国会情勢から見ると、厚労省案が通るとは思わない。そうすると、でき上がった法律は全く別物になる可能性がある」と述べ、第三次試案だけへの対処を考えていてはいけないとした。 ■大綱案、自民議員が言ったからできた  厚労省が6月に、第三次試案を基にした「法案大綱案」を示したことについては、「まだ法案にする段階ではなく、もっと議論しないといけなかった。『法案として作れ』と自民党議員から出たから厚労省が作った。さらに、民主党の法案が対抗する形で出てきたというのが今の状態」と整理した。  医療安全調への届け出範囲の問題については、「誤った医療」であることが明らかかどうかや、「行った医療に起因」したかどうかなどは、医学的にも法律的にも判断が難しいとして、「そういうものを病院長が判断するとしており、もし間違えたら罰するという。これは非常に大きな問題」と述べた。厚労省が示した届け出範囲のフローチャートについても、「これを見て分かるだろうか。このフローチャートを見て、判断するのは極めて難しく、これだけで大変な議論が必要」と、否定的な見方を示した。  医療安全調の設置場所については、2009年度に創設される消費者庁とする意見もあると紹介した上で、「航空機や鉄道の事故調も該当する省庁に置いているのを見ると、厚労省に置くしかないのでは。(問題は)いかに厚労省の権力から外すかだ」と述べた。 ■人材と予算確保に危惧  寺野氏は、実際に医療安全調が創設される場合、必要な人材と予算をどう確保するかが課題になるとも指摘。「医師、看護師不足の中、これだけの調査員を増やすことは無理では。年間2000例やると言われ、予算が100億円あるとできると言うが、できるだろうか」と述べた。 現場医師と大学側に利益相反 佐藤一樹・元東京女子医科大学病院循環器小児外科助手  2001年に心臓手術を受けて当時12歳の女児が死亡した「東京女子医大事件」で、業務上過失致死罪で起訴された被告で、現在係属中の佐藤一樹・元東京女子医科大学病院循環器小児外科助手は、「現場の医師と大学組織には利益相反が存在する」と述べた。業務上過失致死は法人ではなく個人を対象とするために、佐藤元助手が関わった事件では、大学病院の組織が医師個人に責任を負わせようとする力が働いたと主張した。「病院の管理者と警察の利害関係は一致する。真実も正義もない。病院は特定機能病院指定剥奪の危機を(回避するため)、現場医師を警察に告発するという手段で解決しようとした」と述べ、組織のシステムエラーを個人のヒューマンエラーにすり替えようとしたものだったと訴えた。  また、事故発生当時に作成された院内調査報告書について、「病院組織の責任者が意図的に作成したゆがんだ内部告発文書」との見方を示した。現場の医師に内容を確認せずに先に遺族に見せたことを、「絶対に許し難い行為。今後、医療界にどのような院内調査報告書が登場しても、現場の医師の意見を聞かずに作成されたものは破棄されるべき」と主張。院内事故調査が、本来の死因究明の目的を果たしていなかったとした。 ■報告書は鑑定書の役割  調査報告書が意図的に作成された場合の危険性にも言及。「医療事故調査報告書、特に院内調査報告書は捜査機関に対する鑑定書の役割を果たす。検察官が裁判で証明する起訴状、公訴事実に書かれている医療の専門的な知識や事故発生経過などは報告書に依拠する。専門家が存在していない調査によって、死因究明、責任追及過程が意図的に認められる可能性がある」と述べた。