「スクールソーシャルワーカー 学校現場に導入始まる 福祉の目、学校と機関仲介 不登校、虐待…対応困難な問題で」『西日本新聞』平成20年7月13日

文科省の担当者の「カウンセラーは心のケアを担当し、SSWは子どもの生活環境に働き掛けるのが役割」と説明していることが興味深い。鹿児島県医療ソーシャルワーカー協会もネットワークに加盟予定とのことで、職域を超えたソーシャルワーカーの横断的つながりが今後どのように機能するか、ネットワーキングの力量が試されることになりそうだ。 以下、西日本新聞HPより転載。


スクールソーシャルワーカー 学校現場に導入始まる 福祉の目、学校と機関仲介 不登校、虐待…対応困難な問題で (2008年7月13日掲載)  スクールソーシャルワーカー(SSW)が学校現場で注目されつつある。学校だけでは対応が難しい子どもの問題を解決するため、児童相談所や福祉事務所、警察など関係機関との間を仲介する専門家だ。文部科学省が活用事業を始めた本年度は、「スクールソーシャルワーク元年」ともいわれる。5、6日に福岡市で開かれた日本学校ソーシャルワーク学会全国大会での報告や議論を通し、現状と課題を探った。  (編集委員・吉村真一)  ●カウンセラーとどう役割分担/サポート態勢も不可欠  「福祉制度や福祉サービスを利用して生活環境の改善を支援するソーシャルワーク活動を、主に学校を舞台に展開する」。同学会の代表理事を務める門田光司福岡県立大教授はSSWの役割をそう説明する。  SSWには、社会福祉士精神保健福祉士などが各教育委員会の依頼を受けて就く。各教委に所属し、学校を巡回したり、学校に配置されたりして週に2−5日間、活動するという。  具体的にはどう動くのか。大会では福岡県のSSWから次のような取り組み事例が報告された。  〈中学生女子は両親の離婚を機に不登校気味になり、さらに継父から性的虐待を受けて発作にも悩まされていた。母親から相談を受けた養護教諭が学校に配置されたSSWに通知。SSWは生徒、母親と個別に面談する一方、児相や精神科病院、担任などでつくるケース会議を随時開き、支援チームを結成。生徒の通院治療、保健師の家庭訪問、母親の就労支援などを半年続け、生徒は志望の高校に合格するなど状況が好転した〉  ■背景に家庭環境  こうしたSSWが制度化されたのは、増加傾向にあるいじめや不登校、虐待など子どもの深刻な問題には家庭環境が影響しているケースが多いためだ。  2005年度からモデル小学校ごとに1人配置し、先行導入している大阪府のSSWは「虐待被害が疑われる子どもの様子を見たり親と先生をつないだりと、日常的に子どもや保護者とかかわる」と強調する。福岡県内では現在、18人が活動。中学校に机を置いて校区内の他校を巡回する配置・派遣型が主体だ。  鹿児島県では、県社会福祉士会、県医療ソーシャルワーカー協会などの関連団体に呼び掛けて「学校ソーシャルワークを進める会」(仮称)の発足準備が進む。ネットワーク化による人材確保が狙いだという。  ■居場所の確保を  ただ、活動は緒に就いたばかりで人数も少なく、教育現場での認知度はまだ低い。課題の1つが、同じ校外の専門家であるスクールカウンセラーとのすみ分けだ。  文科省の担当者は「カウンセラーは心のケアを担当し、SSWは子どもの生活環境に働き掛けるのが役割」と説明するが、実際は子どもや親への面談・聞き取りなど重なる部分がある。大会でも「屋上屋を架すことにならないか」との意見が出た。「個々のケースごとに両者の役割分担を明確にする必要がある」(門田教授)ようだ。  「しっかりした協力態勢を築くには、校内スタッフとしての居場所を確保することが重要」と言うのは大阪府のSSW。このSSWは教員や子どもたちと給食を共にし、校内研修に出席するよう努めているという。教委や学校管理職のサポート態勢も重要になる。  ●韓国スクールソーシャルワーカー協会 朴京賢会長が講演 教育二極化に対応 地域社会とも連携  日本学校ソーシャルワーク学会全国大会では、韓国スクールソーシャルワーカー協会の朴京賢(パク・キョンヒョン)会長が講演。日本よりも先行して取り組んできた同国の現状を説明した。要旨は次の通り。     ×   ×  韓国は1990年代後半の経済危機を契機に勤労貧困層が拡大。社会構造が両極化し、教育の二極化も進んだ。そこで、97年に学校社会福祉学会、2000年にスクールソーシャルワーカー協会がそれぞれ発足し、積極的に学校社会福祉の手法を採り入れるようになった。  支援事業は国や自治体が中心になって行う。スクールソーシャルワーカーが介入するのは、主に貧困層が多い都市部の学校。常駐しながら、貧困や家庭崩壊、障害、学校不適応などを抱える子どもを把握。学校内外の専門家とチームを組み、多角的に支援する。  当初は子どもや家庭、教師への直接的な支援が主体だったが、地域社会との連携・協力へと幅を広げつつある。  最近はネット中毒、うつ病、いじめなどが増え、子どもの問題は多様化している。しかし、支援対象の学校は全国小中高校の4.6%にとどまり、対象児童・生徒は約3%に過ぎない。欧米先進国と比べて低い水準で、学校社会福祉事業の拡大が必要となっている。 スクールソーシャルワーカー活用事業  文部科学省が本年度、約15億4000万円の予算を計上し実施している。スクールソーシャルワーカーは、教員だけでは十分対応できない子どもの問題を関係機関との間に立って連携を図り、解決へ導く役割を担う。同省は、助言・援助をするスーパーバイザーの配置と、取り組みを検証する運営協議会の設置を導入自治体に求めている。導入を検討中の地域もあり、最終的に約300地域での実施が見込まれている。    ×      ×  ◇ご意見募集 あて先は〒810‐8721、西日本新聞社編集局教育取材班、ファクス番号=092(711)6246。電子メールアドレスは、edu@nishinippon.co.jp 住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記してください。匿名掲載可。掲載分は本社データベースに保存します。