「クローズアップ2008:終末期相談支援料凍結 『75歳』『報酬』、反発招く」『毎日新聞』平成20年6月26日

国立長寿医療センター病院ソーシャルワーカーは、こういったこともやっているんですね。当該資料は、こちら。大体、月に5名程度の申し込みがあるようです。 以下、毎日新聞社HPより転載。


クローズアップ2008:終末期相談支援料凍結 「75歳」「報酬」、反発招く ◇厚労省、対象拡大し復活意向  75歳以上の患者を対象にした「後期高齢者終末期相談支援料」の凍結が25日決まった。制度開始からわずか3カ月での凍結決定は、死生観にかかわるデリケートな問題を「報酬2000円、説明連続1時間以上」と形式的にさばくやり方に批判が高まったためだ。ただ、終末期医療のあり方は後期高齢者に限らず、医療現場の切実な問題となっており、厚生労働省は対象を全世代に広げて復活させる考えだ。  支援料は4月に後期高齢者医療制度の一環として始まった。医師が75歳以上の終末期の患者や、その家族と病状急変時の治療方法について連続1時間以上話し合い、本人に説明した場合に2000円の報酬を受け取る仕組みだ。患者に意識があるうちに「人工呼吸器は装着しない」などの意向を確認し記録しておくイメージだ。  意向確認は医療現場で以前から行われているが、本人の意思にかかわらず延命治療が施されたり、家族から懇願され、医師が治療を控える事例もある。厚労省は「治療の開始、中止にかかわるトラブルに歯止め策を」という医療現場の要請で、制度化に踏み切ったと説明する。  しかし、診療報酬という金銭の介在は医師と患者、家族との関係を微妙に変えた。後期高齢者医療制度そのものに「老人切り捨て」などの批判が強まったこともあり、国会でも「延命治療の中止を強制する制度だ」などの批判が噴き出した。  さらに厚労省後期高齢者医療制度の立案過程で、死亡前1カ月の終末期医療費が約9000億円に及び、在宅死を2倍にすれば20年後の医療費を5000億円削減できるとの試算を公表していたことから、「(支援料は)医療費削減が狙い」との疑念が広がった。野党は「医療費削減ありき」と批判を強め、高齢者の反発をおそれた与党も凍結に傾いた。  「廃止を一番おそれていた。終末期医療がタブーになるのが怖い。そうさせないための凍結」。25日の中央社会保険医療協議会舛添要一厚労相は凍結に理解を求めた。  厚労省は元々、支援料を全年代に導入する考えだった。後期高齢者差別との批判を逆手にとり、来年4月以降は対象を成人の末期がんや一部の難病患者らにも広げ、当初の目標達成を目指す。しかし、病状の進行に応じ患者の意向が変わることもある。がんの場合は、若いと進行が早く、本人の意向が変わっても確認作業が追いつかないなど、新たな難題も予想される。【吉田啓志】  ◇終末期議論にプラス--日本尊厳死協会理事長の井形昭弘・名古屋学芸大学長の話  今回の相談支援料は、「高齢者は早く死ねという意味か」との誤解を生んだ。ただ、「自分の死にざまは自分の意思で決めるべきだ」という考え方自体が否定されたわけではない。終末期に自ら関与する重要性が話題になったことは、終末期を議論する上でプラスになった。  ◇主治医や環境で左右--日本ALS(筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症)協会の川口有美子理事の話  相談支援料が廃止にならず、対象が拡大されるのはおかしい。患者の気持ちは主治医の主観や療養環境で左右される。自己決定の名の下に患者が治療中止を迫られる恐れがある。2000円という報酬では、医師らが熱心に情報提供する動機付けになるとは思えず、簡単な同意文書にとどまる可能性もある。  ◇どう生き、どうケア とまどう現場--「直前聴取だけでは困難」  終末期医療をめぐっては06年に、富山県射水市民病院で50代から90代の末期がん患者など7人の人工呼吸器外しが発覚した。患者本人の意思が不明なままの治療中止は相次いでおり、延命治療の是非は75歳以上の患者に限った問題ではない。  国立長寿医療センター(愛知県大府市)は07年5月、通院患者に終末期の医療に対する希望を書面化してもらう制度を始めた。今年5月末までに51~88歳の64人が提出した。終末期相談支援料と異なるのは、ある程度元気で判断能力がある段階で、患者・家族と医療者のコミュニケーションの一助としている点だ。  三浦久幸・同センター医長(老年医学)は「文書を『患者の結論』としては使わない。患者の意思が確認できるうちは本人と話し合う。確認できなくなったときに、患者の意図をくみ取りながら、家族と医療者が話し合うきっかけにする」と説明する。  希望者は終末期に想定される医療の利点と限界などを説明した文書を読んだ上で、ソーシャルワーカーと面談。終末期を迎える場所など基本的な希望▽心肺蘇生の実施、人工呼吸器装着など終末期になったときの希望▽自分で判断できなくなったときに主治医が相談すべき代理の人--を記入する。希望は原則1年ごとに再確認する。  本人が病気や治療内容を理解できないなど判断能力がないと判断されれば文書は受理しない。提出を断った例もあったという。  「早く死にたいわけではない」と断ってから書く患者も多いという。三浦医長は「最期までどのように生きたいかを考える機会になるようだ。こういった積み重ねなしに、死の直前だけの希望を正しく把握するのは難しい」と話す。  延命中止の指針や患者の意思確認の制度化の難しさを指摘する医師は少なくない。  厚労省研究班(主任研究者、林謙治・国立保健医療科学院次長)が07年11~12月、全国1032病院を対象に実施した末期がん患者の治療中止、差し控えの考え方に関する調査(回答率38%)によると、「余命判定に科学的根拠が十分でない」との見解が65%。意思表示に関しては「元気なときと実際に病気になったときの患者、家族の意思は異なる」との回答が87%だった。  林次長は「患者の判断能力の評価、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)のあり方など、終末期の指針作りや事前指示の制度化に際し検討すべき課題は多い。いずれも終末期だけでなく医療全体の問題で、幅広い議論が必要だ」と話す。【大場あい】