日本学術会議『提言 近未来の社会福祉教育のあり方についてーソーシャルワーク専門職資格の再編成に向けてー』

白澤先生のblog「ソーシャルワークの TOMORROW LAND」にて、日本学術会議社会学委員会 社会福祉学分科会(会長:白澤政和)が7月14日付けでまとめた『提言 近未来の社会福祉教育のあり方についてーソーシャルワーク専門職資格の再編成に向けてー』が紹介されている。同blogにて要旨も掲載されているので各自ご覧いただきたい。 以前、「二木教授の医療時評(その50) 医療ソーシャルワーカーの国家資格化が不可能な理由」『文化連情報』2007年11月号(357号),pp.32-37の中で、本提言が「予告」されていたため、公表されるのをこの半年近く心待ちにしていた。 早速、昨日通勤電車の中で読ませてもらった(隣の人は訝しげな目で見ていましたが・・・)。色々と感想は持ったが、その前に本提言がどのような性格のものであり、また社会的にどのような位置づけにあるのか、そのポジションがさっぱり理解できていない自分に気づいた。 本提言は、「5~10年をめどにした(中略)あるべき社会福祉教育について言及するもの」(はじめに)であり、「具体性がない」という批判は的を射ないであろう。具体案無きビジョンも、ビジョン無き具体案もどちらもバランスを欠く。また、ひとつのものにすべての機能を期待する発想自体を慎むべきなのであろう。 今後、本提言をもとに同分科会や関係団体に作業部会が設けられ、粛々と事態が進行するなんて他力本願ではいけない。いち社会福祉士として本提言を受け止め、自分なりに消化した上で、全体を見据えて日常業務に携わる必要があろう。そういった意味で本提言は、今後の方向性を示すビジョンとして視界を広げてくれる効果は十分にある。 但し、一点どうしても理解できないのは、ソーシャルワーカー社会福祉士の関係性である。本提言では、「社会福祉教育とは、単に社会福祉士精神保健福祉士といった既成の国家資格取得のためではなく(中略)社会福祉教育はソーシャルワーカー養成教育を包含したより包括的な教育を指す。」(はじめに)とある。 私の理解では本提言は、まずソーシャルワーカーという広義の概念があり、一方で狭義の概念として社会福祉士があると位置づけているように思う。「社会福祉士は真のソーシャルワーカーではない。」というステレオタイプな批判は、批判精神旺盛な研究者や臨床家から良く耳にするが、どうも他職種と比較しておかしな議論に写る。 例えば、「医師は真のドクターではない」「看護師は真のナースではない」「理学療法士は真のフィジカルセラピストではない」という批判は少なくとも私は聞いたことがない。大学・養成校での養成期間と国家資格受験ではあくまでも基礎レベルの知識・技術しか体得できないため、臨床経験を積みつつ、今後も教育機関と職能団体が連携して医師としての(他職種でもよい)レベルの向上を目指そう。」というのが「普通」の論理ではないだろうか。 社会福祉士はあくまでも基礎資格であり、本来あるべき職業像はソーシャルワーカーであるという論理では、また分断の歴史を再生産することになりはしないか。少なくとも一般市民が聞いて理解できないのは確かであろう。 ソーシャルワーカー社会福祉士は同義であり、ソーシャルワーカー社会福祉士の上位概念ではないというのが、私の現時点での価値判断である。無論、社会福祉士を持たない人は、ソーシャルワーカーではないという意見を持っている訳ではないので誤解のないように。(但し、誰でも、どんな仕事をしていてもソーシャルワーカーと自由に名乗れる現状については、別途議論する必要はある。)