医療療養病床に関する最近の議論の妙

本年5月25日31日の記事において、厚労省の医療療養病床廃止方針(願望)の断念に関する先行記事を紹介した。朝日新聞では7月25日共同通信社では、7月29日に同様の記事を掲載している。 あれ?議論当初の数字は06年2月現在の病院・一般診療所の療養病床数38万床のうち、介護療養病床13万床は法律上平成24年度末で廃止。残りの医療療養病床25万床については、医療区分1の割合を機械的に当てはめて4割削減し、15万床にするという「願望」だったと思うのだけれど・・・。その後、08年4月17日の朝日新聞の報道にもあるように、回復期リハ病棟の算定をしている医療療養病床2万床は削減対象から外すことにして、結果17万床程度と「願望」を設定し直していた。 何だか当初の数字厚生労働省『医療施設動態調査 平成18年2月末概数』)ではなく、厚労省も朝日・共同通信も8ヶ月後の06年10月の数字厚生労働省『医療施設動態調査 平成18年10月末概数』)のうち、一般診療所を除く、病院の療養病床35万床のみを前提に記事を書いている。これだと、存続といっても残るのは医療療養病床22万床。議論当初の数字で考えれば病院・一般診療所の医療療養病床25万床が存続する計算になるのだが・・・。 記事上では、医療療養病床存続という言葉が前面に出ているが、結果的には医療療養病床を3万床削減することになりそうだ。厚労省アドバルーン作戦勝ちなのかもしれない。 但し、後期高齢者医療制度などの世論の反発に対する、衆議院選挙をにらんだ与党の行動如何によっては介護療養病床の方針転換も考えられる。また、介護療養病床から転換した介護療養老人保健施設の数も不明である。(厚生労働省介護給付費実態調査月報(平成20年4月審査分)』でも該当項目見当たらず。) なお、医療療養病床が存続するといっても、医療区分制度に変更がない限り、病床が自然消滅していく傾向に代わりはない。総枠抑制の中で厚労省ができる制度変更にも限界がみられることから、やはり公的医療費の拡大が必要であろう。 以下、各紙記事を転載。


「療養病床22万床存続 厚労省、削減幅4万床縮小の方針」『朝日新聞』2008年7月25日 高齢者の医療費を抑えるため、長期入院患者が多い療養病床を削減する計画について、厚生労働省は、35万床を12年度末までに18万床に減らす計画を修正し、22万床程度存続させる方針を固めた。受け皿となる介護施設が不足し、「患者が行き場を失う」と見直しを求める自治体や医療現場の声を受け入れた。  削減幅の見直しで、医療現場の不安は緩和されそうだが、削減方針は変わらず、受け皿整備が引き続き課題だ。  厚労省は全国の病院アンケートの結果をもとに「療養病床の患者の約半数は医療の必要性が低い」と判断。06年の医療制度改革で削減計画を打ち出した。削減分は介護保険老人保健施設や在宅介護を受け皿とする方針で、療養病床を廃止した病院には介護保険施設への転換を促している。実現すれば年間約4千億円の医療費が抑制できるとしていた。  現在、国の指示を受けて各都道府県が療養病床の削減計画を作成中だが、作業中の新潟、奈良、佐賀の3県を除く44都道府県の計画数を合わせると、国の目標より3万多い約21万床。3県分を加えれば22万床となる見通しだ。  都道府県の計画数が国の目標を上回った背景には、療養病床を出た高齢者を受け入れる介護施設が大幅に不足していることや、病院が収入減につながる介護保険の施設への転換に消極的なことが挙げられる。自治体側は「介護施設の受け皿が整わないまま削減を進めると、行き場のない高齢者が大量に発生する」と懸念する。  厚労省は計画数が国の示した基準を上回っている自治体にはベッド数を減らすよう求めることも検討したが、後期高齢者医療制度への批判が強まる中「画一的な基準で目標を設定すれば、高齢者医療への不安がさらに高まりかねない」と判断。自民党議員らの「厚労省がいたずらに削減圧力をかけるべきではない」という指摘や、「26万床程度は必要」という日本医師会の主張にも配慮した。(太田啓之)
「22万床存続に方針転換 療養病床削減で目標緩和 受け皿整備遅れ、厚労省」『共同通信社』2008年7月29日 厚生労働省が定める国の医療費適正化計画(2008―12年度の5カ年)の概要が25日判明し、慢性疾患の高齢者が長期入院する療養病床約35万床について、12年度末に15万床まで6割削減する当初目標を緩和して削減を4割にとどめ、約22万床を存続させる方針に転じたことが分かった。  退院患者の受け皿となる介護施設の整備や在宅療養の支援が進まず、行き場のない「医療・介護難民」が生じるとの批判が医療現場や与野党から上がり、方針転換した。  療養病床の削減は06年の医療制度改革の一環で、長期入院を解消して医療費約4000億円(年間)を抑制するのが目的。目標緩和により医療費抑制策の見直し論議が高まりそうだ。療養病床は06年10月現在、介護型が約12万床(12年3月までに全廃予定)、医療型が約23万床。  医療費適正化計画は都道府県ごとにも策定。療養病床の削減目標について、未策定の新潟、奈良、佐賀の3県を除く44都道府県の計画を基に単純に足し上げると、存続病床数は約21万床となる。3県分を加えれば22万床弱の計算。  都道府県の計画の中には「今は近県で入院中でも居住地に戻り入院する患者も多い」として療養病床の増床や低めの削減目標を設定した例もあり、厚労省は「周辺県との病床数の二重計上分を精査して、国の計画を立てる」との考えだった。  だが、高齢者の反発を恐れる与党が「地方の自主性を尊重すべきだ」と主張。これを受け厚労省は、各都道府県の存続数を機械的に積算し、国全体の目標値として修正した。   ▽医療費適正化計画  医療費適正化計画 医療給付費の伸びを抑制するため国と各都道府県が策定。2006年の医療制度改革で定められた。抑制効果は中長期的に6兆円が見込まれている。(1)平均在院日数の短縮(2)生活習慣病対策での健康増進―が2本柱。具体的な数値目標を設定し、5年置きに検証して見直す。第1期は08―12年度。国がまとめる全国計画のうち、メタボリック症候群の減少率を「08年度比で12年度に10%以上」などは既に決まったが、療養病床の削減目標などが固まっていなかった。