支援相談員業務(第1回 支援相談員業務の大枠と施設介護支援専門員と業務重複問題)

支援相談員業務は、具体的にどんなものなのか数回に分けて述べたいと思います。 第1回は、支援相談員業務の大枠と施設介護支援専門員と業務重複問題について取り上げます。 支援相談員の業務内容は、「老企第44号 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について」平成12年3月17日において、以下の通り4点が示されています。 支援相談員は、保健医療及び社会福祉に関する相当な学識経験を有し、次に掲げるような入所者に対する各種支援及び相談の業務を行うのにふさわしい常勤職員を充てること。 ① 入所者及び家族の処遇上の相談 ② レクリエーション等の計画、指導 ③ 市町村との連携 ④ ボランティアの指導 つまり「支援相談員の業務はどんなことをしているのですか?」という質問に対して、私たち支援相談員は公式には上記4点の業務を行っています、と答えることになる訳です。実際に、これらの業務をどの程度やっているのかは、全国調査が行われたことは無く、分かりません。施設によって多分に異なるものと思われます。ちなみに私の職場では、①③に取り組んでいますが、②④は看護・介護スタッフに対応してもらっています。 なお、「厚生省令第四十号 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」平成11年3月31日の第14条4(施設サービス計画の作成)において、次の文章があるため、支援相談員業務の①入所者及び家族の処遇上の相談が、施設介護支援専門員と重複していると指摘されています(片山2001,masaら2002,masa2005,難波2005)。 「計画担当介護支援専門員は、前項に規定する解決すべき課題の把握(以下「アセスメント」という。)に当たっては、入所者及びその家族に面接して行わなければならない。この場合において、計画担当介護支援専門員は、面接の趣旨を入所者及びその家族に対して十分に説明し、理解を得なければならない。」 確かに、重複していますね。そのため、介護保険が施行される以前から支援相談員(当時は相談指導員)をやっていた人は、新たに誕生した介護支援専門員とどのように業務分担をしていけばいいか相当に戸惑ったものと思います。実際に、MSWの職能団体の研修などで他老健の方とお会いすると、施設ケアマネジャーが施設窓口として活躍されており、支援相談員の存在が見えづらい、という場面に出くわすことがあります。 また、支援相談員が施設介護支援専門員と兼務することもあります。その場合、支援相談員業務に加えて、全入所者のケアプラン作成、サービス担当者会議の調整・実施、認定調査代行業務(新規は原則施設代行なし)などをこなす必要があり、かなりハードワークになっています。(もちろん、看護・介護職員の中で施設介護支援専門員を兼務している人と分担して一緒にやっている場合もあります。)残念ながら、実際に兼務率がどの位かを調べた調査結果は見当たりません。 時々、病院のMSWから「支援相談員は配置基準があるからいいね。」といった趣旨の話を聞きますが、配置基準があるとはいえ、上記の通り「うかうかしていられない状況」にあり、立場は不安定です。また、現時点では支援相談員がイニシアチブを取って相談援助を行っていたとしても、その人が辞めたら立場が変わることもありえます。施設介護支援専門員の強みは省令で業務内容が規定されており、あやふやな支援相談員よりも施設管理者にとって、配置のインセンティブが働きやすいという側面もあります。逆に現状の支援相談員が退職したことにともない介護支援専門員が支援相談員を兼任(届出上は逆)するという形態もありえます。単なる熱い思いよりも、制度に乗れるかどうかの方が、明らかに職種の発展に大きく影響することを、介護支援専門員や言語聴覚士が出来た時、ソーシャルワーカーは強く反省したのではないでしょうか。 業務重複問題について、白澤先生は自身のブログにおいて「施設ソーシャルワークについて、もっと早くに確立しておくべきであったと思います。その当時は、国が何とかしてくれると思っていたのではないでしょうか。今後ですが、介護保険施設ではケアマネジャーと支援員が一緒の者がやれることを、資格取得を含めて、実際に仕事ができることを社会に示していくことであると思っています。そのためには、大学では、そうしたことができる人材を養成していきたいと思っています。それは、社会福祉士取得のための教育以上のことが必要だと思います。」と述べています。 私の価値判断として、この業務重複問題を整理するためには、短期的にみて当該施設に勤める支援相談員が、介護支援専門員の資格を取得し、施設介護支援専門員と兼務することでしか方法はないと考えています。 無論、新卒の支援相談員は介護支援専門員の資格が取得できないため、看護・介護など他職種の方の中でも介護支援瀬門員の資格を取得している人にもお手伝いしてもらう必要があります。長期的には、大学教育の段階で介護支援専門員の資格が取得できるようになれば理想です。社会福祉系の学部学生の中で、介護保険事業所に就職を希望する場合は、在学中から社会福祉士と介護支援専門員の2資格の取得を目指すことになります。 そして、ゆくゆくは介護支援専門員の資格を有した支援相談員が複数体制で配置されることで業務をこなすことが、結果的に住み分け議論から脱却するためには必要な手段だと思います。 白澤先生は、認定施設ソーシャルワーカーという社会福祉士の上乗せ資格を作り、施設ケアプランの作成・実施、チームアプローチとカンファレンス、地域移行支援を担えるようと提案されています。もしそれが実現した場合、地域包括がドタバタで予防ケアプランは介護支援専門員以外の職種でも作成してもいいと変更されたのと同様に、介護老人保健施設におけるケアプラン作成は、介護支援専門員、認定施設ソーシャルワーカーのどちらでも作成可能となるかもしれません。イメージとして、アメリカのナーシングホームにおいてMDSの記入者が多職種であるのと同じようなイメージですね。 しかし、介護支援専門員の配置基準があるため、「認定施設ソーシャルワーカーが配置される場合は、これをもって代替可能とする」といった趣旨の文言が省令に追加されない限りは、業務重複問題は解決しないのではないでしょうか。それが現在の力関係で実現可能なのか。 ただ、私の価値判断は現状追従の中での部分改善案に過ぎず、このままいけば支援相談員業務は施設介護支援専門員業務に収斂されていく、というのが私の事実認識です。白澤先生はその辺りも見越して、施設ソーシャルワーカーである支援相談員の存在意義存続のために認定施設ソーシャルワーカーについて提唱されているのかもしれません。 そのためには、もっと支援相談員業務の言語化見える化を通じて、実際に効果的な援助ができていることを当事者である我々自身が、教員の力をお借りしつつ、情報発信していかなければいけないですね。 (引用文献) ・「老企第44号 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について」平成12年3月17日 ・「厚生省令第四十号 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」平成11年3月31日 ・片山徹「老人保健施設における支援相談員の実践課題~ソーシャルワーク実践の枠組みをもとに」『日本福祉大学大学院社会福祉学研究科福祉マネジメント専攻2000年度修士学位請求論文』2001 ・masaら「施設相談員の役割、位置付けについて」『特別養護老人ホーム緑風園掲示板過去ログ』2002(2008.9.7アクセス) ・masa「施設ケアマネは専任化の方向に向うのか」『masaの介護福祉情報裏板』2005.11.17(2008.9.7アクセス) ・難波眞「法改正で施設ケアマネジャーは施設運営の要としての役割を」『GPnet』2005.12,pp.35-41