退院援助とインターネット

急性期病院のMSWにとって、退院援助は業務の大半を占めている。その現状に対して、個人的な経験の蓄積・人脈を持って援助を行うことを志向するMSWがいれば、周辺の医療機関福祉施設の関係者同士でネットワークを組んで援助を行うことを志向するMSWもいる。またその両者を志向する者も。 特に後者の志向は、地域連携室にMSWが配置されるようになってから増加してきているように思われる。加えて、退院援助はMSWだけが係わることがらではなく、医師が強いリーダーシップを発揮したり、地域連携室事務職員が上手く多職種・多機関をコーディネートして、地域医療ネットワークを構成している事例も少なくない。 北多摩北部保健医療圏ネットワーク(事務局:西東京市医師会)は、「コンピュータネットワークを利用して、北多摩北部医療圏内の住民の皆様に、適切な保健・医療・福祉サービスを提供するとともに圏内医療機関の連携および発展、医師およびその他の医療従事者の能力向上に寄与することを目的」に設立されている。 同ネットワークでは、「地域医療連携データベース」を運営しており、北多摩北部医療圏(小平市東村山市清瀬市東久留米市西東京市の5市)における、医療機関リハビリテーション施設、介護施設の情報を検索することができる。 注目は、単なる各機関の一般情報の掲載だけではなく、例えば介護施設であれば、「対応可能な条件からさがす」という項目があり、その中で、以下の項目まで検索できることである。 ・検索する範囲(徒歩で/車で○分以内) ・認知症高齢者の受入可能 ・併設した医療機関がある ・医療処置(吸引、じょくそう処置、経管栄養、その他) 実際に、このデータベースを利用している人に聞かなければ分からないが、システムとしては退院援助に係る者にとって、とても貴重な情報である。但し、どの程度の機関が同データベースに登録しているのか、またこまめに情報更新が行われているのかが気になる。それらの条件が満たされていなければ「ただの箱」になりかねない。 同じようなサイトに「備後脳卒中ネットワーク」(事務局:脳神経センター大田記念病院)というものもある。 他にもリアルタイムで近隣地域の医療機関・施設の空床状況を知らせるサイトや、紹介機関と受け入れ機関の間で患者のマッチングを行ったりするサイトが登場してきており、「ねえねえ、○○病院って経管受け入れてくれたっけ?」「△△病院って、いま空いてるかなー。」といった、MSWの間で良くみられる原始的風景から数段先に進んだシステムがインターネット上で構築されている。 私は、退院援助にインターネットを活用すること自体は賛成だが、機械的な使用には慎重であるべきだと思っている。「あー、□□病院が空いているね。あそこは胃ろうの人も受けてくれるからあそこに転院させようか。」「じゃあ、◇◇さん、□□病院へ転院して下さい。」患者「・・・。」という光景は容易に想像できる。患者・家族の意向を全く無視した退院援助は、結果的に十分な治療効果を発揮しない場合がある。 例えば老夫婦二人暮らしで、夫が入院。運転ができない妻が、公共交通機関が最寄にない遠方の回復期病院に見舞いに行くのは大変である。身内や知り合いが見舞いに来ない環境で一人治療に向き合うことはつらい。 そのため、退院援助にインターネットを活用する場合、従来と何ら変わりなく、あくまでも患者・家族と対話し同意のもとで行われなければいけない。 MSW個々人の経験・知識の蓄積を頼りにした退院援助に加えて、それらの経験・知識をインターネットを用い外部記憶装置によって、共有化し、効率的な情報検索を可能とする。それによって、正確で標準化された情報が患者・家族にきちんと行き届くようになる。そして、効率化によって産まれた時間を、面接・連絡調整時間に再分配する。インターネットの活用は、結果的にソーシャルワークの本来業務を充実させる有効な手段となりうる。 恐らく、こういったシステム構築や組織の事務局をMSWが担っている事例が全国各地にあると思われる。是非多くの媒体で、実践の文章化・見える化を行って頂き、MSW同士で共有化したいものである。