厚労省『平成19年介護サービス施設・事業所調査』を公表

調査結果とソーシャルワーカーにとっての老健の魅力 介護老人保健施設(以下、老健)で重要な指標に、在宅復帰率と平均在所日数がある。厚生労働省は、毎年老健以外のサービスも含めた施設・事業所の全数調査を実施しており、その集計結果を『介護サービス施設・事業所調査』(老健に限れば、以前は『老人保健施設調査』)として公表している。 その最新版である「平成19年 介護サービス施設・事業所調査」の概要が1月23日に公表された。 同調査結果によると、平成19年の在宅復帰率は31.0%で、前年の33.0%から2.0%低下。 同退所者の平均在所日数は277.6日で、前年の268.7日から8.9日増加していた。 同調査における他の介護保険施設と比較すると、介護老人福祉施設の在宅復帰率は1.6%、平均在所日数は1465.1日。介護療養型医療施設は14.0%、退所者の平均在所日数は427.2日である。介護保険施設の中では在宅復帰率は最も高く、退所者の平均在所日数は最も短い。 私はこのデータを見て老健はそれほど捨てたものではないと考える。また、この位の平均在所日数だからこそ、ソーシャルワーク実践は大変面白い。急性期の場合、平均在院日数が18.3日(『病院報告(平成20年7月分概数)』)であり、ソーシャルワーカーが入院患者に関われるのは約2週間である。DV・虐待・ホームレス支援などの危機介入や課題中心アプローチの適応のある患者への対応や、制度や知識の情報提供のみ、また転院相談が業務のメインにならざるを得ない。 以前の教科書に書いてあった、障害受容への支援や各種障害者手帳取得支援、その他社会保障の手続きに関わりつつ、生活を再建するお手伝いをする時間はない。その点、老健ソーシャルワーカーは、時間をかけてその辺りの支援ができる。また、老健からの退所後もデイやショートを利用される場合、継続して関わることができる。そのため、ソーシャルワーカーのやる気次第で大変魅力的な職場となる。このことは、声を大にして言いたい。 両指標の推移と要因 両指標の推移についてはこちらをご覧頂きたい。平成14年のデータを除き(注)、在宅復帰率は低下傾向にあり、退所者の平均在所日数は増加傾向にある。特に、平成11年から介護保険が施行された平成12年に大きく変化している。 この大きな変化の要因としては、逓減制の廃止が大きいというのが老健業界内での一致した意見だと思う。かつて入所期間が一定期間を超えると診療報酬が減額されるため(逓減制)、老健の経営上の理由から、老健から他の老健へと入所者を移す行為が行われていた。しかし逓減制が廃止され、入所者を他老健へ移さなくても介護報酬は変わらないことから、現在の状況が産まれたと指摘されている。 本調査結果を読む上での注意点 なお、本調査結果で用いる在宅復帰率の定義は、調査期間となる9月の1ヶ月間における全退所者に占める家庭(自宅だけでなく親族宅も含む)へ帰った者の割合を指している。 また平均在所日数の定義は、調査期間となる9月の1ヶ月間における全退所者の退所時の在所日数の平均を指している。 以上の定義から分かるように、必ずしも1年間を通しての結果ではなく、9月という月に注目したものである。そのため、老健に特徴的な春や秋といった比較的自宅で過ごしやすい時期には在宅復帰件数が増加し、反対に夏や冬のような過ごしにくい時期には減少するという季節変動を捉えることはできない。9月は秋口なので比較的「良い」数値が公表されていることになる。 加えて、平均在所日数もあくまで退所者のデータであり、在所者している人たちのデータではない。入所者の中には大変長期(施設開設以来ずっと入所している!?)の方も存在するため、恐らく在所者の平均在所日数の方が長い可能性がある。 また、入所とは一般的に1ヶ月を超える連続した施設生活を指すが、実際に1ヶ月未満で退所(入院)する方もおり、必ずしも定義通りではない。極端な話、短期入所療養介護(いわゆるショートステイ)で1週間程度利用した人を入所として契約することも可能である。そうすると統計上は、在宅復帰率も高くなり、退所者の平均在所日数も短くなることが可能となる。 他にも例は考えられるが、いずれにしろこの2つの指標はあくまでも現象をとらえたに過ぎず、その経過の多様性については読み手が想像を巡らせる必要がある。あくまでも両指標は参考値であり、それだけを鵜呑みにして施設のパフォーマンスを図ってはいけないと思う。 注:平成14年のデータは、在宅復帰率が前後の傾向と比較して突出しており、その年だけ成績が良かったといことは考えられにくいことから、入所だけでなく短期入所療養介護の数も交じっているのではないかという指摘がなされている。