「第4部 安心のありか (3) 3ヵ月の枠」『山陽新聞』2009.5.1

総合病院から受け入れをする一般病床、療養病床を有する病院のワーカーのジレンマが良く伝わってくる。 以下、山陽新聞HPより転載。
第4部 安心のありか (3) 3ヵ月の枠 病床空けねば運営困難  岡山市北区清輝本町の岡山紀念病院。退院調整を担うソーシャルワーカーの平岩美紀さん(26)は、患者と病院の間でしばしば板挟みになる。  「こんな時に次の病院の話をするのはつらいんですが…」  直腸がんの手術後、病院を転々とし、昨年十一月から入院する森岡美弥さん(87)=岡山市、仮名。三月になって次女の泰子さん(58)に転院先を紹介した直後、がんの肝臓転移が疑われる事態となっていた。  美弥さんは高齢で手術が難しい。泰子さんも積極的治療を望まず「ここに居させてほしい」と希望している。  病床数五十七の岡山紀念病院は、急性期治療を終えた患者が長期療養する小規模な慢性期病院。入院には「三カ月」という期限が設けられている。ベッドを空けなければいけない事情があるからだ。           ●  ●  ●  二〇〇六年の医療制度改革で、国は入院が長期化して老人医療費を押し上げる療養病床の見直しを打ち出した。介護保険適用の介護型(十二万床)を一一年度末までに全廃、医療保険に基づく医療型(二十三万床)も減らし、介護施設へ転換させる―というものだ。  美弥さんがいるのは介護療養病床。本来退院期限がない。看護基準で平均在院日数の制限(約二カ月)がある院内の一般病床から移っている。  〇六年四月、同病院は一般病床を二十三から四十に増やし、療養病床を三十四から十七に削減した。その年の診療報酬改定で、一般病床の夜間の看護職の複数配置が義務化され、小規模病院ほど運営が非効率になることも理由だった。  結果として、増えた一般から療養へ移る患者の受け入れに余裕がなくなる。ベッドを回転させるため、療養病床にも「一カ月」の退院目標が掲げられた。           ●  ●  ●  慢性期病院には容体が落ち着いてない患者も転院してくる。胃ろうを造ったが抜糸が済んでいない。肺炎を起こしている…。退院を早める急性期病院から、こうした患者を受け入れるケースが岡山紀念病院でも増えてきた。  同病院は、〇六年の病床転換に合わせ、一般病床に従来より手厚い看護基準を導入し、報酬アップを図った。同時に、退院までの平均在院日数を六十日から二十四日以内へ短縮する必要に迫られた。  しかし、これは半年で元に戻さざるを得なかった。「やま三週間で退院を迫るのは難しかった」。六車昌士院長(71)は振り返る。  患者の容体に加え、独居や低所得だとすぐに在宅や有料老人ホームに移るのは難しい。在院期間は自然と延びがちになった。           ●  ●  ●  「そろそろ切り出さないといけないんですが」。カルテを見た平岩さんが頭を抱えた。  既に半年以上入院している六十代男性。また下の太い静脈から濃縮した栄養剤を二十四時間流し込む中心静脈栄養(IVH)で命をつなぐ。家族は妻一人。  在宅療養は難しい。でも、病院全体の平均在院日数が延びるのは困る。受け入れOKの返事が来た別の慢性期病院には「三カ月まで」とくぎを刺された。  医療と介護、病院と在宅のはざまで行き場を失う患者を前に、病院もまた難しいかじ取りを迫られている。 (2009年5月1日朝刊掲載)