「特養 介護職員が“違法”吸引 法と現実 大きなズレ」『中日新聞』2009年7月16日

最近話題の特養における介護職員による吸痰行為解禁論について、大変分かりやすい記事。 文章末にある、介護職員の「責任や負担だけ増えるのは困る」という部分が重要。 急性期MSWとしてこの間退院援助をする中で、特養から急性増悪にて入院し、軽快はしたものの、吸痰行為が発生したため特養に戻るのに困難を来たす事例が少なくない。 病院の立場からすれば、「おたくから来たんだからおたくに帰ってもらわなきゃ困る。帰れないならおたくで次の行き先決めてあげてよ。」という意見。 特養の立場からすれば、「医療行為の看護師が少ない・夜間いないなかで、何が出来るっていうの?もう退所しちゃっているし、今は病院にいるんだからそっちで次の行き先決めてあげてよ。」という意見。 併せて特養の介護職員からすれば「給料は変わらないのに色々な医療行為を違法にやれって言われても困る。」という意見ももっともだと思う。 今の政策動向から言えば、箱モノに職員を増員するのではなく外部から訪問してもらうということになるが、訪問する医療・看護サービスがない地域はどうすればいいのか。また、入所費用に加えて、外付け医療の費用まで支払うことになれば負担は更に増すことになる。 安上がりの医療・福祉などない。職員配置の増員や、仕事と責任が増える分、介護職の賃金を上げること、地域資源の創設が必要であり、更にそれに伴うお金を社会保険料の増額(低所得者に配慮することを前提に)や税金による補足をしなければ、いくらモデル事業をやってもこの問題は解決しないであろう。定着するとすればそれは介護職員の犠牲の上にしかない。 参考:北出直子「急変加療とその後の再入所の現状と問題点」『医療』vol.62,№22008,pp.89-92 以下、中日新聞HPより転載。


写真

 たんの吸引や、チューブで胃に流動食を流し込む経管栄養の処置は、本来、医師や看護職員以外の人がするのは違法な医療行為。しかし、特別養護老人ホームでは、看護職員の手薄な夜間を中心に、介護職員が行わざるをえないのが現実だ。現場の職員は「法律や制度と現実のギャップが大きすぎる」と法整備を訴える。 (佐橋大)  「夜、たんが絡まって苦しんでいる人に『看護師が来るまで、待って』とは言えない」。愛知県の特養で働く女性介護職員は、苦しい胸の内を明かす。  女性の働く特養では夜間、看護師は原則、自宅待機。判断に困る場合は看護師を呼ぶが、その場の介護職員がたんの吸引をすることが多い。こうした職場は例外でない。  日本介護福祉士会が五~六月、特養の介護職員に行った調査では、午後九時~午前六時に介護職員が口の中の吸引の対応をしている施設が83%。のどの奥や鼻の吸引も32%あった。対応している施設の八割以上の介護職員が不安を感じながら行っている。  昨年の厚生労働省の調査では、たんの吸引をするはずの看護職員が毎日、夜勤や宿直をする施設は2%。ところが、一日の吸引の二割は、看護職員が手薄な午後十時~午前六時に行われていた。  これには理由がある。特養は「生活の場」と位置付けられてきたため、法律が置くよう求める看護職員数は、老人保健施設や療養病床に比べ少ない。入所定員百人の施設でも三人。法律に従って配置しても、最少人数では夜勤や宿直の体制を敷くことは不可能で、日常的に医療行為が必要な人は受け入れられない。  ところが、現実には、医療行為が必要な入所者や希望者が増えている。本来、こうした人の受け皿である療養病床を削減する政策を国が進めているためだ。  名古屋市のある特養では約八十人の入所者のうち、たんの吸引が日常的に必要な人、経管栄養の人は各六人。特養では、法定の三人を上回る五人の看護師を雇い、原則、毎晩一人ずつが宿直し、対応している。しかし、人件費などの面から、看護師の増員は難しい。「医療行為は看護職員」という規則がネックになり、入所希望者の受け入れも限界に近いという。「行き場がないと分かっていても、受け入れは慎重にならざるをえない」と担当者は話す。  特養の全国組織、全国老人福祉施設協議会(老施協)によると、特養の約75%は基準を超える看護職員を配置している。老施協の福間勉事務局長は「特養は医師が非常勤で、担当する入所者も多い。経験の浅い看護職員では務まらない。でも、ベテランだと夜勤ができる人は少ない。構造的に看護師が集まりにくい。看護職員の増員で対応するのは困難」と話す。  現状では、介護職員に違法行為をする精神的負担がのしかかるばかりか、合法でないので研修もできない。厚労省は二月、医療行為の一部解禁についての検討会を発足。六月に示された案では、医師の指示の下、一定の研修を受けた介護職員が口の中のたんの吸引や経管栄養の準備などを行う。のどの奥の吸引や、経管栄養実施前の流動食の確認や注入行為など、より高い技術と知識が求められる部分は看護職員がする。今後は、この案を一部特養で試行し、安全性を検証。問題がなければ、来年度解禁となる。  現場の介護職員からは「法的に問題ない線を示してもらえると気が楽」と歓迎論の一方、「責任や負担だけ増えるのは困る」という声も聞かれる。また、医療関係者から「高齢者のたんの吸引は簡単でない」などの慎重論もある。