「寝たきり老人専用アパート 岐阜でシンポ」『中日新聞』2009年11月5日

これは、とても身につまされる記事ですね。自宅でのケアの限界から、ケア付き住宅の充実を厚生労働省は唱えていますが、現実にはこういったビジネスが一定の割合で存在していることも事実です。「病院のソーシャルワーカー」として、紹介する先のケアの質について常に配らなければいけませんね。
「寝たきり老人専用アパート 岐阜でシンポ」『中日新聞』2009年11月5日 病院や介護施設に入ることができず、在宅でのケアも難しいお年寄りなど「介護難民」の対応が急がれる。受け皿として「寝たきり老人専用アパート」が登場したが「行政の目も行き届かない」のが現状で、その実態は霧の中。先月、岐阜県土岐市で行われたシンポジウムで報告された女性の実例を基に、問題点を考えた。 (佐橋大)

 シンポで報告された女性(72)は、くも膜下出血のため、病院に入院して手術を受けたが寝たきり状態となった。  栄養は鼻からチューブで胃に流し込まれ(経管栄養)、二時間ごとにたんを吸引しなければならない。やがて、退院を迫られた。急性期の患者らに対応する一般病院では、入院が長期化すると入院報酬が下がるため、退院を求められる。  夫は、たんの吸引対応など、自宅での老々介護は無理と考えた。近くの施設への入所を希望したが、軒並み断られた。  「特別養護老人ホーム」は、たんの吸引など医療行為が障害になった。特養のスタッフは、法律上、医療行為ができない介護職員がほとんどだからだ。複数の「老人保健施設」にも、同じ理由で断られた。近くの「療養病床」四カ所はすべて満床。国の削減方針に伴い、病床数が減っているからだ。  「有料老人ホーム」は、利用料の高さなどで、あきらめた。次女が引き取ろうとしたが、在宅介護を支えるサービスが不十分なことが分かり、断念した。  「施設のあてがないのなら」と、病院のソーシャルワーカーから紹介を受けたのが「寝たきり老人専用賃貸アパート」だった。  介護とは無関係な会社が、最重度の要介護者向けに新築した建物で、一見すると老人福祉施設のよう。玄関はオートロック式、トイレのない小さめの部屋が整然と並んでいる。寝たきりの人だけが入居でき、家族は同居できない。  運営会社と賃貸契約を結び、指定する訪問看護などのサービスを終身で受ける。寝たきりの人用の共同の風呂も備え、定期的に入れてくれる。利用料は介護サービスを含め月十数万円と割安。栄養はひたすらチューブで流し込まれる。  夫は、了解し、妻を“入居”させた。

◆回復へのケアなし

 女性の報告を受けて、ソーシャルワーカーや弁護士ら専門家が、意見交換した。  最大の問題点として指摘されたのは「寝たきりと経管栄養」を入居の条件にしていること。老人アパートに入居する女性を担当したことがあるNPO東濃成年後見センター(同県多治見市)事務局長の山田隆司さんは「口から食べるよう努力し、寝たきりの人は少しでも起こそうとするのが介護の基本。専用アパートには、その姿勢がまったくない」と力を込めた。  山田さんは、かつて担当した別の女性の例を話した。口から食べることができそうなのに、アパートでは、その可能性を考えないケアが行われていた。そこで、女性を退去させ、病院で二カ月、リハビリを受けさせると、口から食べられるまでに回復。今は特養で暮らしている。  「アパート入居中、女性に使われた公的なお金は月八十四万円。一方、入院中は七十八万円で、特養では三十三万円。そのまま入っていたら、元気にならない介護に多額の税金と保険料が使われ続けていただろう」と訴える。  熊田均弁護士は、病院に入院したら家賃を払っていても即、退去を求められることや、おむつなどを自由に持ち込めないなどの契約内容を問題視。「アパートなら、周りに迷惑を掛けなければ、どう使おうが自由なはずだ」と強調した。