「【ルポ かながわ】患者の支え 運営厳しく」『asahi.com』2010年05月16日

がん診療連携拠点病院に設置が義務づけられている相談支援センターの運営上の財政基盤が揺らいでいるようです。こういう記事は、日常的な援助とはまた異なった視点で見つめることが出来て、大変良い記事だと思います。 以下、asahi.comより転載。
「【ルポ かながわ】患者の支え 運営厳しく」『asahi.com』2010年05月16日
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プライバシーにも配慮した相談支援室で、看護師らが相談に乗る=横浜市旭区の県立がんセンター

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相模原協同病院では大きな看板を設置し、「気軽に相談を」と呼びかける=相模原市緑区

  国が指定するがん診療連携拠点病院に設置が義務づけられ、患者や家族の不安や悩みの相談に応じる「相談支援センター」。患者の心のケアなどで、重要な役割を果たしている。だが、運営は補助金頼みで、減額されている。病院からは負担の大きさに苦しむ声も上がっている。 (安富崇)   ◆ 「心の整理ができた」   壁に絵画がかかり、防音などプライバシー保護にも気をつかった個室が二つ。横浜市旭区の県立がんセンターの「医療相談支援室」だ。日中は次々と患者らが訪れる。   相談に応じるのは看護師3人とソーシャルワーカー2人。「副作用が心配」「セカンドオピニオンは」「治療費が払えるか」「再発を告知され、どうしていいのか」など、中身は様々だ。5分で終わる患者もいれば、2時間近くかかるケースも。昨年度の相談件数は6867件。夜遅くまで相談を受けることもある。   「相談支援室のおかげで安心して治療を受けることができています」と話すのは乳がん患者の主婦(70)。   14年前に発症し、骨転移。08年には骨転移が大きくなったため、抗がん剤治療を受け、がんが縮小したことから手術も勧められた。だが、リスクを考えると、もしもの場合に取り残される家族が気がかり。抗がん剤の副作用も激しくてもういやだった。   主婦は同室長だったがん看護専門看護師の渡邉眞理さん(54)に相談。「治療のメリット、デメリットを教えてもらい、自分の気持ちを話しながら、だんだん心の整理ができた」という。副作用が比較的少ないとされるホルモン療法でがんと付き合う方針を決めた。   「がんは死を意識せざるを得ない病気。不安を吐露したり境遇を話したりして、前を向ける患者さんもいる」とがん看護専門看護師の清水奈緒美室長(46)は話す。   県立がんセンターの患者会「コスモス」代表で自身も2度のがんを経験した緒方真子さん(62)は「以前は相談支援の体制がなく、漠然とした不安を誰にも相談できずに闘病する人もいた。今は多くの患者が相談支援室のおかげで根なし草にならずに済んでいる」と感謝する。   ◆ 頼みの補助金は減額   こうした相談の場は、患者の心の支えとなっている一方で、病院側の負担は大きい。   相模原市緑区の相模原協同病院。ここの「患者総合支援センター」では、がん看護専門看護師の波多江優室長(35)ら看護師2人とソーシャルワーカー3人が外来患者の相談に乗り、病棟で入院患者の話も聴く。昨年度は2939人の相談を受けた。   問題は「支援センターはやればやるほど持ち出しが増える」(高野靖悟院長)ことだ。診療報酬の対象外で運営は県と国による「機能強化事業費」と呼ばれる補助金頼み。昨年度900万円の補助金に対し、人件費やシステムの維持費など年間の約5千万円の運営費がかかったという。   機能強化事業費は県が額を決め、独立行政法人の病院などを除いて県と国で折半する。県は、県がん拠点病院の県立がんセンターには今年度2664万円を出したが、地域がん拠点病院への予算は税収不足を理由に減額している。1病院あたりの予算は08年度に1千万円だったのが、09年度は当初1千万円の予算を900万円に減額、今年度はさらに減って約811万円となった。   また、拠点病院は支援センターの運営の他に、地域への緩和ケア研修なども課せられ、持ち出しの額はさらに膨らむという。   相模原協同病院の高野院長は「県は真剣にがん対策をやる気があるのか、はしごを外された気持ちになる時もある」と憤りをみせる。一方、県健康増進課は「税収不足の中、がん対策予算は減額を免れた方」と説明している。   ◇キーワード◇ 相談支援センター 全国で質の高いがん医療を提供できるように厚労省が指定するがん診療連携拠点病院に設置される。治療や療養などの不安や心配事に、看護師やソーシャルワーカーが無料で答える。治療の判断はできないが、参考になる情報を提供する。拠点病院には県のがん医療で中心的役割を担う県がん診療連携拠点病院と、2次医療圏と呼ばれる地域に設置される地域がん診療連携拠点病院がある。   県内の拠点病院は以下の通り。県立がんセンター(横浜市旭区)、横浜市民病院(同市保土ケ谷区)、横浜労災病院(同市港北区)、横浜市大病院(同市金沢区)、聖マリアンナ医科大病院(川崎市宮前区)、川崎市立井田病院(同市中原区)、横須賀共済病院(横須賀市)、藤沢市民病院(藤沢市)、東海大病院(伊勢原市)、相模原協同病院(相模原市)、北里大病院(同)、小田原市立病院(小田原市)。