「日医シンポジウム、『保険料格差是正、社会保障費の年金・医療費配分が重要課題』」『M3.com』2011年2月3日

日本医師会が2月2日に開催した『平成22年度 医療政策シンポジウム』のレポートが早速M3に掲載されています。医師会HPによると、後日「ビデオ映像」・「記録集」をHP上に掲載するとのこと。参加できなかったのでせめてそちらを観たいです。 以下、本文の転載です。
「読売新聞・田中氏に質問したい。一つは、発表資料中の、『医療のひずみは社会保障費や国民医療費の行き過ぎた抑制政策のツケ』、『医療は「公共財」。医療側、患者側とも、無制限な自由、無秩序な利用は許されない』との言及。全く賛成だが、言論を生業とする者には、言論の一貫性が問われる。間違いがあった場合には訂正しなければならない。しかし、小泉政権時代、読売新聞も含めた多くの新聞は、小泉政権による医療費の抑制政策に賛同・推進していた。また、株式会社の医療機関経営参入、混合診療の拡大にも賛成する社説を掲載した。小泉政権時代にその政策を支持したことと、今日の主張はどのようにつながるのか。当時の主張が間違っていたと言うならば、誤っていたと謝罪の上で、今日のような主張をするなら理解できる。しかし、それに触れずにこのような主張をしても、またすぐに変わるのではないか」(二木立・日本福祉大学教授/副学長)  2月2日、日本医師会は医療政策シンポジウム「国民皆保険50周年--その未来に向けて」を開催した。シンポジウムは、有識者4人による講演(概要は後述)、文太俊・韓国医師会名誉会長による特別講演、パネルディスカッションで構成され、前段の問いかけは、パネルディスカッションにおいて講演者の二木氏から田中秀一・読売新聞東京本社編集局医療情報部長に向けられたもの。続けて、二木氏は次の点を指摘。  「2点目。小泉政権時代、混合診療解禁論争が大きな問題となった。そのきっかけは2004年9月の経済財政諮問会議において、小泉元首相が、『今年中に混合診療を解禁する方向で結論を出せ』と指示したことだった。幸い、日本医師会を中心とした運動で、解禁は限定的なものにとどまったが、その際、読売新聞は、3回誤報をした。『全面解禁する方向で』との報道を、この翌日、10月、12月と繰り返した。『全面』との語句が入るか否かで意味は全く変わり、これは明らかな誤報。しかし、私の知る範囲では、訂正記事は発表されていない。発行部数の多い新聞がこのような誤報を流したために、当時、医療関係者に大きな影響が及んだ。この責任についてどのように考えているか」(二木氏)  これに対し、田中氏は、「かつて、医療費を抑えるべきだとの論調があったことについては、恐らく社会保障は経済成長の足かせになるものとの認識があったのだろうと思う。これは多くの人が持っていたイメージだが、間違いであることが最近我々にも分かってきた。また、医師不足などの医療危機が、ここ数年非常に表面化したこともある。そこで、もっとこれにお金を投入していかなければならないと、社内でも認識してきた。それが論調が変わってきた背景だと思う。混合診療の問題については、執筆者に伝え、今後このようなことがないようにする」と答えた。  各講義の概要は以下の通り。 ◆「医療への市場原理導入論の30年--民間活力導入論から医療産業化論へ」 (二木立・日本福祉大学教授/副学長)  1980年代以来の、医療への民間活力導入論の発生・検討・展開について解説。また、小泉政権下の医療への市場原理導入(新自由主義的改革)論争について、経済戦略会議、経済財政諮問会議などの報告書を基に、議論の発展と顛末を解説、評価・検証。民主党政権の「医療産業化」論を「医療への市場原理導入論の部分的復活」とし、『新成長戦略』(2010年6月閣議決定)には総論と各論の分裂があると指摘。  「医療は経済の下支えであり、成長牽引産業と見做すのは過大評価」「『新成長戦略』・『医療産業化』論は、民主党政権の医療政策の底の浅さと危うさの象徴」「ごく一部の先進的医療機関が『新成長戦略』に沿った取り組みを行うことは可能だが、それが医療の営利化・企業化の呼び水にならないよう最新の注意が必要」と示唆した。その上で、「規模の経済」理論が働く医療の間接分野については、企業が限定的に参入することは医療効率化にとって有用だが、医療の公共性を守るためには、一般営利企業の医療への中核部分への個別参入の阻止、一部の医師・病院の営利的行動、営利目的の“企業化”への厳しい監視が必要であると主張した。 ◆「皆保険50年の軌跡と我々が次世代に残した未来--再配分政策の政治経済学の視点から」(権丈善一慶応義塾大学教授)  日本の公債等残高の対GDP比、65歳以上人口比率の推移を示し、「日本の未来としては、『高負担・中福祉』、『中負担・低福祉』のいずれかしか選択肢がないのが現実。前者とならざるを得ないだろう」と示唆。日本の国としての持続可能性確保には、増税は避けられず、社会保障機能強化を図るには、税・社会保険料の負担増が不可欠であると解説した。  また、権丈氏は、会場からの「消費税増は避けるべき」「増税した場合、社会保障費に財源は回ってくるか」との質問に対し、「社会保障維持には、消費税増税はもはや不可避。もうその段階に来ている。消費税に匹敵する財源調達力を持つ税はなく、福祉国家は消費税の発明により築き得たものとも言える。さらに、社会保障費の年金・医療費への配分を考えると、社会保険料を上げなければ医療費は増えない。消費税増税=医療費増ではない。『現役世代の負担が過大と成る』との指摘はあるが、例え負担増であっても、将来的に制度が安定して保たれるのであれば、納得できるのではないか。一時的負担、一時的給付だけで判断すべきではない」と説明した。 ◆「医療危機を乗り越えるために--改革はどうあるべきか」(田中秀一・読売新聞東京本社編集局医療情報部長)  医療を巡る重要課題として、(1)医師不足の解消、(2)救急医療の危機とフリーアクセス、(3)医療の質と安全の保障、(4)医療情報の開示、(5)医療の財源確保、を提示。医療を「安く・良質で・自由に受けられる」とする要求は同時に満たされることはあり得ない、医療のひずみは、社会保障費・国民医療費の行き過ぎた抑制政策のツケ、医療は「公共財」であり、医療側・患者側とも無制限な自由・無秩序な利用は許されない、の3点を改革の基本的考え方とすべきとした。 ◆「日本の医療費水準と財源を考える」(遠藤久夫・学習院大学教授/中央社会保険医療協議会会長)  日本の医療費の対GDP比、同指標の国際比較を踏まえ、日本の医療費の推移と抑制策が取られてきた経緯を説明。社会保障費財源について、公費負担・保険料負担を増加した場合でも、年金・介護の充実が優先される可能性が高い、年金水準の引き下げは困難、などの背景により、医療費に十分な財源が充てられる可能性は低いと解説した。国民は質・アクセスの視点から、どのような医療(介護)提供体制を構築すべきか、またその費用負担をどうするのかを選択すべきとし、ウェブアンケート「医療費の財源に関する調査」(2011年1月14-17日実施、有効回答者数1000人)の結果を紹介。同調査では、医療制度維持のために、「患者の医療利用制限を設け、医療費はできるだけ現状の水準にとどめるべき」とした回答者は25.3%、「医療費増加への抑制政策は必要だが、医療費負担増加は仕方がない」は64.9%、「医療の質・利用の現状水準維持のためには、医療費負担がかなり増加しても良い」5.5%、「医療の質・利便性向上のため、積極的に医療費負担を増加させるべき」が4.3%だった。 「保険料格差是正社会保障費の配分が最重要課題」  パネルディスカッションにおいて、日医総研の特別研究員を務める武見敬三氏は、「今後の大きな課題は、後期高齢者医療制度を廃止した後、わが国はどのような医療保険制度を構築すべきか。国民皆保険制度における原則は平等主義。一つは、所得にかかわらず平等に医療サービスを受けられる、医療給付の平等化。2つ目は自己負担率の平等化。ただし、一つ大きな残された柱があり、それが保険料の平等化。現在、地域によって大きな保険料率格差がある。さらに問題なのは、地域医療のサービスを十分に受けられない地域ほど、国保の保険料率が高くなっていること。この点では実態は不平等化に向かっていると言っても過言ではない。この問題を今後どのように進めるかが、医療保険制度改革を考える際の基本。その上で、社会保障費については、所得保障の年金会計と医療保険の会計の間にどう相互関係を構築しながら、社会保障全体の会計制度を作り上げていくかが大きな議論となる。これが現在、最も必要とされる議論だ」と指摘した。  横倉義武・日医副会長は、閉会に当たり、「国民皆保険50周年の節目の年を迎え、公的医療保険のあり方が問われている。医療提供する立場、ある意味患者に一番近い立場にいる我々が、どのようなメッセージを出していくかが問われたシンポジウムとなった」と挨拶した。