「後発医薬品利用の指導強化=生活保護受給者対象、費用を抑制-厚労省」『時事ドットコム』2011/02/05

厚生労働省は、下記の記事内容について平成20年4月1日にも同様の趣旨の通知を出して批判を浴び、当時の舛添厚生労働大臣の指示により同月30日付で廃止・差し替え(厚生労働省社会・援護局保護課長『(社援保発第0430001号)生活保護の医療扶助における後発医薬品に関する取扱いについて』)となった経緯があります。ちなみに批判(質問)をしたのは民主党山井和則議員でした。 なお、下記時事通信社の記事では2011年2月5日に、厚生労働省が強化方針を打ち出したように見えます。しかし、実際には上述の新通知でもその方針は基本的に変わりはなく、平成23年1月20日に開催された「全国厚生労働関係部局長会議(厚生分科会)」資料,p16でも、平成23年4月から、医療扶助に関する診療報酬明細(レセプト)の電子化が本格運用されるのを受け、「後発医薬品の利用促進」と言及されています。 局長会議資料では、「後発医薬品の使用促進については、(中略)社会保険と同様」と記載されていますが、実際に社会保険診療報酬支払基金国民健康保険団体連合会が「同じ効能の後発医薬品があるのに新薬を使う場合、主治医の意見を聞いた上で後発医薬品を使うよう受給者に理解を求める。」ことは考えにくく、協会けんぽでも被保険者に対して啓発活動を行っている程度です。 世帯類型別で生活保護受給世帯数を見ると、直近の平成21年11月分データでは高齢者世帯42.7%、傷病者世帯21.9%で両者のみで全保護受給世帯の約65%を占めています。障害者世帯11.2%を含めると8割弱を占めることとなり、どの世帯も、稼働世帯である「母子世帯」や「その他世帯」に比べ受診頻度が高い様に思います。このことから、受診そのものを抑制する訳にはいかない被保護世帯が少なくありません。裏を返せば稼働能力の無い・有っても市場で労働力として見なされない者を相対的に保護してきた行政処分の結果でもあります。 ※平成21年度からは、生活保護受給理由において「働きによる収入の減少・喪失」を理由に受給している者が実数・割合共に増え、「その他世帯」が増加傾向にあります。 肝心の今回の方針に基づく医療扶助費削減効果ですが24億円と推計しました。以下の通り粗い試算をしてみましたが、誤りがあったらご指摘ください。 #1 平成20年度医療扶助費1兆3,561億円×15.5%(注1)=医療扶助に占める薬局調剤医療費2,102億円                        ↓  #2 医療扶助に占める薬局調剤医療費2,102億円×73%(注2)=医療扶助に占める薬剤料1,534.5億円                        ↓ #3 医療扶助に占める薬剤料1,534.5億円×1.6%(注3)=後発品置き換え効果24億円 注1:平成20年度国民医療費に占める薬局調剤医療費の割合=15.5%(出典:平成20年度国民医療費の概況) 注2:薬局調剤医療費のうち「薬剤料が73%」との日医会見発表より(出典:「医療費の伸び、要因は薬剤料―日医」『CBニュース』2009年04月08日) 注3:平成20年度薬局調剤医療費5兆3,955億円に占める薬剤費は、3兆7,768億円。平成22年度の後発品置き換え効果として、約600億円との試算から600億円÷3兆7,768億円=1.6%と削減割合算出 (出典:厚生労働省平成22年度診療報酬改定の改定率について」2010年2月2日) 【関連】 ・日本医師会唐澤祥人『(日医発第77号:保15)生活保護の医療扶助における後発医薬品に関する取扱いについて』平成20年4月18日 ・日本医師会唐澤祥人『(日医発第162号:保36)生活保護の医療扶助における後発医薬品に関する取扱いについて』平成20年5月2日 以下、時事ドットコムHPより転載。


後発医薬品利用の指導強化=生活保護受給者対象、費用を抑制-厚労省」『時事ドットコム』2011/02/05 厚生労働省は5日、2011年度から生活保護受給者を対象に新薬より低価格のジェネリック医薬品後発医薬品)を利用するよう指導を強化する方針を決めた。11年度からレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求が義務化されるのに伴い、受給者の医薬品の利用状況を把握。特別な理由なく新薬を使っている場合、医療機関地方自治体を通じて後発医薬品を使うよう指導する。  厚労省後発医薬品の利用促進により、増加傾向にある生活保護費の抑制につなげたい考えだ。生活保護受給者数は長引く不況の影響により、昨年11月時点で約197万7000人。09年度の支給総額は3兆72億円と初めて3兆円を超えた。医療費補助は生活保護総額の約半分を占める。  しかし、現在は生活保護受給者がどれだけ後発医薬品を利用しているか正確に分かっていない。そのため、レセプトのオンライン請求を通じ、受給者にどういう薬が処方されたか実態を把握することにした。同じ効能の後発医薬品があるのに新薬を使う場合、主治医の意見を聞いた上で後発医薬品を使うよう受給者に理解を求める。