「医療ソーシャルワーカー 高齢、生活苦…困窮患者を支援」『中日新聞』2011年3月1日

名南ふれあい病院林祐介さん。ご活躍の様です。 林さんと言えば、以下の論文です。 ・林祐介「MSWによる療養型病院・施設への転院阻害要因を有する患者の早期把握とその効果」『病院』2010,Vol.69,No.9,pp.722-724 【キーワード】 医療ソーシャルワーカー,転院阻害要因,早期把握 要旨 医療ソーシャルワーカー(MSW)による転院阻害要因の早期把握の有効性を検討した.当院回復期リハビリテーション病棟において,MSWである筆者らが早期把握に向けた取り組みを行い,得られた結果は以下の3点であった.(1)転院阻害要因をMSWが早期に把握できている割合が,取り組み前は58.0%であったが,取り組み後は78.2%まで上昇した(p<0.05).(2)入院日からMSWが退・転院先選定に関わる面談を初めて行った日までの期間は,取り組み前が平均34.6日であったのに対して,取り組み後は27.0日まで短縮した(n.s.).(3)患者もしくは家族が第1希望に挙げていた転院先へ移ることができた割合は,取り組み前が40.6%であったのに対して,取り組み後は70.4%まで上昇した(p<0.05).(1)~(3)より,転院阻害要因を有する患者の早期把握および介入の必要性が示された. ※医学書院HPより転載。 以下、中日新聞HPより転載。
「医療ソーシャルワーカー 高齢、生活苦…困窮患者を支援」『中日新聞』2011年3月1日 行政の制度活用手助け 行政の支援を活用し、医療現場で患者のスムーズな社会復帰を助けるメディカルソーシャルワーカー(MSW)。経済的に困窮したり、家族の支援が得られなかったりする高齢独居患者が増える中で、役割は増している。MSWが直面する「もう1つの医療現場」を見た。(市川真)  入院費用の話になると、女性(77)の目から涙があふれた。名古屋市南区の名南ふれあい病院。わずか3畳ほどの医療相談室で、MSWの林祐介さん(33)に、悩みをぽつりぽつりと打ち明けた。  義母(95)は脳梗塞で倒れ同病院に入院、夫(79)の認知症は最近ひどくなった。自分も3年ほど前に太ももを骨折し、つえで数100メートル歩くのが精いっぱいだ。3人合わせた年金は月額10万5千円しかないが、義母の入院費用は月6万〜7万円。築数10年の木造長屋の家賃に3万3千円かかる。貯金を切り崩して生活してきたが、もう限界だった。  「悲しいやら情けないやら。これまで誰にも相談できなかったんです。泣けて泣けてしょうがなかった」と女性は振り返る。  夫は自動車部品工場に70歳まで勤め、女性も近所のスーパーの総菜売り場で煮物や揚げ物を作るパート勤めを28年。働きづめで、2人の娘を立派に育て上げたが、女性自身の国民年金保険料を払う余裕はなかった。食費は切り詰め、週に2千円ちょっと。肉のパックは3回に分けて使う。  林さんは、生活保護の申請を勧めたが、ネックは女性の夫が岐阜県内の実家に、古い木造住宅を所有していたこと。資産があると受給が難しいが、売ろうとしてもすぐに売れるか分からない。林さんは役所窓口まで同行し、担当者に事情を説明。スムーズな受給に結び付いた。  その後、家が売れ、生活保護は一時的に止まったが、売却利益はわずかで、間もなく支給が再開された。女性は「本当に親身になってもらった。顔を合わせると、いつも話し掛けてくれるのでうれしい」と話す。  生活保護だけでなく障害者手帳の取得や高額療養費制度の活用など、行政による患者支援制度をうまく利用できるかどうか、MSWの腕の見せどころだ。ケアマネジャーや保健所職員、時には弁護士と連携することもある。  林さんは「経済的に困窮するお年寄りが目立つ。親の年金を取り上げてギャンブルに使う金銭的虐待も隠れている場合があり、家族全体を見て支援する必要がある」と話す。 難しい転院先の確保  MSWにとって重要な仕事の1つが、転院先の療養病床や入所できる介護施設の紹介。特に、早めの退院を求められる急性期病院では、転院先の確保が不可欠だ。  身元保証人を求める転院先が多いが、「高齢患者で家族の支援が全く得られないケースが多いんです」と、急性期病院の中部ろうさい病院(名古屋市港区)のMSW森下祐一さんは指摘する。  森下さんらが、患者の子どもやきょうだいに連絡を取っても「関わりたくない」と拒否されたり、「(亡くなったら)お骨だけ送ってくれ」ということも。家族と縁が切れ、孤独のうちに病に倒れるお年寄りたち。このような場合は、身元保証をするNPO法人を紹介しているが、「正直、つらいなと思う瞬間です」。  転院先確保に関して難しいのは、暴れたり奇声を発したりする症状がある認知症患者だという。介護施設には待機があるのが普通で「それまで自宅退院してもらわざるをえない」という。また病院によっておむつ代などの保険外負担に差があり、費用が安い病院が近くにない時も、対応に苦慮するという。  森下さんは「理想と厳しい現実のはざまで妥協点を見つけざるをえないことも多いのです」と話す。 専従いる病院は約3割  MSWは国家資格ではなく、社会福祉士精神保健福祉士、看護師の資格を持つ人が担当することが多い。  厚生労働省は2008年度の診療報酬改訂で、転院調整などを行う専門部署があり、専従のMSWを配置した病院に加算を初めて認めた。しかし、実際に加算を届け出た病院は、約3200施設。病院約8700施設(20床以上)の3分の1にとどまっている。  また専従のMSWがいる医療機関でも、1人当たりの受け持ち患者数が増えたり、経済的な問題などで調整に時間がかかる患者も目立ってきている。MSWの支援を十分受けられない医療機関があるのが現実だ。  MSWでつくる社団法人日本社会医療事業協会は「加算が認められたことで、MSWを配置する医療機関は増える傾向にあると思う」としている。