『医療・介護に係る長期推計』を医療ソーシャルワーカーの総数増にどう活かすか

政府の社会保障改革に関する集中検討会議(第十回)は2011年6月2日、『社会保障改革案』をとりまとめました。これに関連して『(参考資料1-2)医療・介護に係る長期推計』が公表されています。 『社会保障改革案』の全体的評価については、「二木教授の医療時評(その92) 集中検討会議『社会保障改革案』を読む」『文化連情報』2011年7月号(400),pp.26-31、または『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻84号)』2011.7.1をご参照ください。 なお、同論文で二木先生は、『医療・介護に係る長期推計』は「厚生労働省が作成したと思われます」と述べています。そのため、ここでは『医療・介護に係る長期推計』の作者を厚生労働省と仮定します。 『医療・介護に係る長期推計』によれば、2025年に向けて地域(における在宅医療)連携推進のための代表的な職種として、何と医療ソーシャルワーカーが挙げられており(原文は「MSW等」と表記:該当箇所は、スライド6、8、49)、中学校区1-2程度に1人の増員というシナリオが提示されています。 なお、『医療・介護に係る長期推計』に医療ソーシャルワーカーが掲載されていることを知ったのは、田中元「ケアマネを襲う厳しい改革の予感」『ケアマネドットコム』2011.6.13の記事によります。 文部科学省平成22年 学校基本調査』によれば、全国にある中学校数は、公立・私立合わせて10,815校(平成22年5月1日現在)。1年経過してもあまり中学校数に増減がないと仮定した場合、先述の「中学校区1-2程度」で割ると、下位推計5,407.5人~上位推計10,815人程度の増加を意味することなります。 一方、厚生労働省平成21年 医療施設調査』によれば、一般病院(病院総数-精神科病院)に勤める医療ソーシャルワーカー(医療社会事業従事者+社会福祉士)数は13,484.1人(常勤換算数:平成21年10月1日現在)。 実は、平成17~21年の4年間における医療ソーシャルワーカーの平均増加数は721.05人。これに平成23年から平成37年までの14年間を乗ずると10,094.7人で、奇しくも上述のシナリオの上位推計10.815人と似通った数字となります。 これは単なる偶然と思いますが、「数字のトリック」として2025年(平成37年)に医療ソーシャルワーカーが約2万5千人になっていた時、それを『医療・介護に係る長期推計』のシナリオの成果と解釈することも、自然増と解釈することも出来ます。ポイントは、職能団体の運動として自然増に上乗せして、上記シナリオの増加分(下位推計5,407.5人、上位推計10,815人)を獲得できるか否か。言い換えれば、平成37年の段階で医療ソーシャルワーカーの数が、単に自然増を足した2万5千人になっているか、自然増に加えて更にシナリオの増加分も足した3万人(下位推計)もしくは3万5千人(上位推計)になっているかどうかということです。 医療ソーシャルワーカーの職能団体である公益社団法人日本医療社会福祉協会は、平成18年の段階で「100床につき1名以上」の医療ソーシャルワーカー配置を目指してました。厚生労働省医療施設動態調査』によると、精神病床を除いた全国の病院病床は1,378,796床(平成23年3月末現在)であり、これを100床で割ると13,787.96人。一般病院(病院総数-精神科病院)に勤める医療ソーシャルワーカーは13,484.1人ですから、既にその目標はほぼ達成しているように思えます。そのため、将来推計値を3万人もしくは3万5千人とした場合、今後は目標を「50床につき1名以上」、更には「20床につき1名以上」と上方修正する必要があるかと思います。 (※但し、同協会の定義でいう「社会福祉士の資格を所有する医療ソーシャルワーカー」は、『平成21年 医療施設調査』5,183.4人(常勤換算数:平成21年10月1日現在)であり、現状で8,604.56人*1が不足している、とも言えます。) 平成19年11月27日、国立保健医療科学院主催の医療ソーシャルワーカー研修(初任研修)において、日本医療社会事業協会(現日本医療社会福祉協会)の当時会長であった笹岡眞弓氏は、次の様に語っていました。 「MSWは、病院に1.1万人。まだまだ規模の小さな職種。小山秀夫先生(静岡県立大学教授)は、『全国にMSWを5万人にしろ!』とおっしゃる。1人あたり年間人経費600万円×5万人=3,000億円が必要。私は、3万人は欲しいと思っている。」 シナリオでは他にも、高度急性期の職員等を2倍、一般急性期1.6倍、亜急性期・回復期リハ等1.3倍、長期療養1.1倍の増員を提示しています。 医療ソーシャルワーカーは果たしていつ3万人、5万人となるか。各医療団体が厚労省に要望を出す夏がやってきました。『医療・介護に係る長期推計』を医療ソーシャルワーカーの総数増にどう活かすかが、鍵となるかもしれません。 ・2011.11.6 一部修正

*1:13,787.96人-5,183.4人