「認知症の家族殺害3判決、介護者の「心理的孤立感」重視されず/神奈川」『カナコロ』2011年7月3日

日本福祉大学の湯原悦子准教授(司法福祉論)、ご活躍の様です。 以下、カナコロHPより転載。
知症の家族殺害3判決、介護者の「心理的孤立感」重視されず/神奈川」『カナコロ』2011年7月3日 認知症の家族を殺害した事件の裁判員裁判の判決が4月から6月にかけて3件、県内で言い渡された。情状が異なり、量刑は執行猶予付きから求刑通りの懲役6年と開きが出たが、判決に共通したのは「ほかに方法があった」との指摘だ。一方で、3被告に通底した、認知症特有の異常な言動に戸惑い、周囲に不安を相談できず、思い詰めていくという「心理的孤立感」醸成の過程は判決で重視されなかった。「結果責任だけを問うだけでなく、本人の視点から丁寧に掘り下げることが、更生にも再発防止にも役立つ」。専門家は提言する。  藤沢市の男性(85)は、5年間入居した介護付き有料老人ホームで、79歳の妻を殺害した。介護スタッフに暴言を繰り返し、夜間徘徊(はいかい)や失禁が続く中、「周囲に迷惑を掛けたくない」と介護を一人で抱え込んだ末の犯行だった。  二宮町の男性(48)は、2人暮らしだった父親(78)に手を掛けた。引っ越しを機に認知症が進行、仕事と介護の両立に限界を感じて殺害に及んだ。症状の悪化から犯行まで1カ月半。ケアマネジャーから何度もかかってきた電話は「負担」に思え、事件直後に友人に語った「理想像から懸け離れる父を見たくなかった」という葛藤は、犯行に至るまで誰にも打ち明けなかった。  横浜市栄区の男性(86)が妻(81)を殺害した事件は、発症から犯行の間が半月だった。「困った。俺、もう85歳なんだ」。突然、記憶障害が表れた妻を前に男性は途方に暮れ、遠方の娘2人に嘆いた。娘はすぐに駆け付け、介護サービスを手配した。だが男性は手続きを理解できず、負担が減る実感も持てなかった。「妻の醜い姿をさらすのが恥ずかしい」。苦悩を明かしたのは、事件後だった。 ■  ■  ■  裁判で、こうした孤立感は断片的に明らかになったが、判決は一様に「ほかに方法はあった」「短絡的」と断じ、事件まで短期間の2件では「介護疲れではない」と指摘した。  横浜地裁小田原支部は6月、二宮の男性に対し「周囲に相談するなど積極的に働き掛けをしなかった」と非難、求刑通り懲役6年を言い渡した。横浜の男性の裁判で横浜地裁は5月、「同情の余地がある」としながらも、「福祉の環境は恵まれていた」と実刑を選択した。  唯一、執行猶予となったのは藤沢の男性。引き金となった長期間の献身的な介護は「愛情に基づくもので同情に値する」として4月、同地裁は懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。 ■  ■  ■  「介護者の心理的負担が軽視されている」。そう指摘するのは、介護殺人に詳しい日本福祉大学の湯原悦子准教授(司法福祉論)。認知症の介護者が最も混乱するのが介護初期といい、「客観的に『ほかに方法があった』と指摘するだけでは、被告の反省や更生にはつながらない」と裁判のあり方を批判する。本人の視点から丁寧に掘り下げ、「被告が『理解された』と思うことが第一歩」という。  実際、藤沢の男性は法廷で、妻に対し「一緒に死ねなくてごめん」と、殺害より心中できなかったことを謝罪。二宮の男性は、検察官から矢継ぎ早に動機を詰問され、理解してもらえないと諦めたのか、途中から口をつぐんだ。同じ境遇の介護者も、こうした審理や判決より、被告の心情に共感を寄せるという。  「介護者支援が置き去りにされている」と訴える湯原准教授はさらに、「裁判から再発防止の手掛かりを見つけ、介護者への支援充実につなげることが重要」と強調している。