お薦め本 適菜収『ゲーテの警告』講談社,2011.8

権丈先生のHPにてサラッと出てきた『ゲーテの警告』を購入。以下、感想を述べます。 B層およびB層をターゲットに様々な戦略を実行するA層を分析した本書。B層は、最近になって登場したものではなく、近代以降大衆と呼ばれ存在し、デマゴーグの影響を受けやすい。 次のオルテガ・イ・ガセットの文章が印象に残りました。 「かくして、その本質そのものから特殊な能力が要求され、それが前提となっているはずの知的分野においてさえ、資格のない、資格の与えようのない、また本人の資質からいって当然無資格なえせ知識人がしだいに優勢になりつつあるのである。」『大衆の反逆』  何だか、退院援助における医療ソーシャルワークを取り巻く現状ととても似たものを感じた次第です。但し、ここでは自責の念を込めて言いますが、それに抗うだけの知の表現力を我々医療ソーシャルワーカー側が有していなかったことにも原因があると思います。 社会福祉学における知の否定。上記大衆社会における知の否定とは文脈は異なりますが、三島亜紀子社会福祉学の<科学>性』の以下の文章も強く印象に残っています。 「よりよいソーシャルワーク理論を求め社会福祉実践の『科学』化を進めることによってソーシャルワーカーは専門家になるといった考えは、この学問の草創期から約半世紀もの間、専門職化を語るうえで前提となっていた。しかしながらこれに対し、突然異議が唱えられた。(中略)そこでは社会福祉学の『科学』性を高める客観主義的な学問のあり方が、パターナリズムの温床となると指摘された。マルクス主義者たちは資本主義体制を基盤に福祉国家が成立している点を非難したが、その彼らさえ否定しなかった、知そのものが標的とされたのである。これまで骨身を削って重ねてきた『科学』化への努力が無意味とされただけでなく、『科学』化によってソーシャルワーカーの専門性が高まるという考え方こそが危険であると指摘された。(はじめに)」(p.ⅳ) もう少し自分の問題関心に引きつけて言えば、研究を行うことは直接業務に役立たなければいけないという前提が強く、それ以外のものはどうしても軽んじられてしまう風潮に危機感を抱いています。 本書を読んで思いを強くしたのは、第二・三章で取り上げられていたように、独創的なことに取り組むのではなく、偉大な先人から学び模倣することからはじめよとするメッセージでした。自分が行う研究にとってもこの視点から取り組んでいきたいと思いました。 最後に、著者と私の年齢が4歳しか変わらないことに驚きました。本の著者というのは、自分より随分と年齢が離れた人が書くものだとぼんやり思っていました。でも、既に本を出版する人達の年齢に自分も入り込んでいるんだなと思うと、何だか焦りに似た感覚を覚えます。


適菜収『ゲーテの警告』講談社,2011.8 ○内容 「活動的なバカより恐ろしいものはない」―ゲーテ小泉純一郎小沢一郎鳩山由紀夫菅直人。なぜ我々は三流政治家を権力の中枢に送り込み、「野蛮な時代」へ回帰したのか?「B層」をキーワードに、近代大衆社会の末路を読み解く。 ○目次 序章 こんな社会に誰がした? 第1章 資本主義と「大きな嘘」 第2章 B層に愛される「B層グルメ」 第3章 B層カルチャーの暴走 第4章 日本を滅ぼす「B層政治家」 第5章 大衆社会の末路―ゲーテの警告 ○著者略歴 1975年、山梨県に生まれる。作家。哲学者。早稲田大学で西洋文学を学び、ニーチェを専攻。卒業後、出版社勤務を経て、現職。 【関連】 有限会社スリード・株式会社オフィスサンサーラ郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)』2004年12月15日 出典:中村てつじ公式サイト

オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』筑摩書房,1995 ○内容 1930年刊行の大衆社会論の嚆矢。20世紀は、「何世紀にもわたる不断の発展の末に現われたものでありながら、一つの出発点、一つの夜明け、一つの発端、一つの揺籃期であるかのように見える時代」、過去の模範や規範から断絶した時代。こうして、「生の増大」と「時代の高さ」のなかから『大衆』が誕生する。諸権利を主張するばかりで、自らにたのむところ少なく、しかも凡庸たることの権利までも要求する大衆。オルテガはこの『大衆』に『真の貴族』を対置する。「生・理性」の哲学によってみちびかれた、予言と警世の書。 ○目次 第1部 大衆の反逆(充満の事実 歴史的水準の向上 時代の高さ ほか) 第2部 世界を支配しているのは誰か(世界を支配しているのは誰か 真の問題は何か) 三島亜紀子社会福祉学の<科学>性』勁草書房,2007.11 ○内容 知識の体系化と技術の「科学」化によって、理想は実現するはずだった。フロイト理論からEBMまで―専門職としての認知とそれを保証する学問としての「科学」性を求め、社会福祉はどのような歴史を辿り、そして今どこへ向かおうとしているのか。社会福祉学をめぐる科学・物語・政治。 ○目次 はじめに 第一章 専門職化への起動 第一節 全国慈善矯正事業会議におけるフレックスナー講演 第ニ節 フレックスナー講演に先行するフレックスナー報告 第三節 「進化」する専門職 第ニ章 社会福祉の「科学」を求めて 第一節 援用される諸学問の理論 第ニ節 最初の「科学」化――精神力動パースペクティブ 第三節 ラディカルなソーシャルワーク 第四節 社会福祉統合化へむけて――システム-エコロジカル・ソーシャルワーク理論 第三章 弱者の囲い込み 第一節 障害者というまとまりの具体化 第ニ節 福祉の対象となる子ども 第三節 子どもの権利と専門家の権限 第四章 幸福な「科学」化の終焉 第一節 反専門職主義の嵐 第ニ節 脱施設化運動 第三節 新たな社会福祉専門職への再調整 第五章 専門家による介入――暴力をめぐる配慮 第一節 ソーシャルワーク理論と政治 第ニ節 理論と政治の連動――イギリスにおける児童福祉の展開・1 第三節 「自由の巻き返し」――イギリスにおける児童福祉の展開・2 第四節 自由か安全か 終 章 専門家の所在 第一節 一九九〇年代以降 第ニ節 エビデンス・ベイスト・X 第三節 反省的学問理論と閾値 参考文献 索 引