平成22年介護サービス施設・事業所調査結果の憂鬱

平成24年2月9日、厚生労働省平成22年介護サービス施設・事業所調査結果の概要を公表した。 詳細データは、e-Statを参照のこと。 調査結果の違和感 これまでにも本調査結果を踏まえて、全国・愛知県別に支援相談員数等をフォローしてきた。 通所リハビリテーションの支援相談員数が含まれていたと思われる平成13年以前を除き、平成14年以降漸増傾向にあった全国の支援相談員数が、平成21年度調査で大きく減少(▲191人)に転じ、その傾向は平成22年度でも同様であった。そのため、当時は支援相談員にとって「冬の時代」「人員整理」が展開しているのではないかと考えていた。 しかし、愛知県分のデータを見た時に何だか違和感を覚えたのである。というのも愛知県では、年々老健の数は漸増傾向にあり、平成23年6月現在165施設が存在する。しかし、平成22年調査では、155施設から149施設に減少していたのである。愛知県内の老健が1年間で6箇所も廃業したという話は聞かない。 加えて、平成20年調査までの統計表には見られなかったが、平成21年調査から統計表の上部に、「平成21年は調査方法の変更等による回収率変動の影響を受けているため、数量を示す施設数の実数は平成20年以前と単純に年次比較できない。」と記載されている。これは、平成22年調査でも「平成21年は」は削除されているものの同様の文章が記載されている。 「平成21年は調査方法の変更」とは何なのだろうか。 介護サービス施設・事業所調査の民間委託 結論から言えば、従来国や都道府県・指定都市・中核市が福祉事務所や保健所を経由して実施していた調査を、民間委託に変更したということである。 厚生労働省大臣官房統計情報部『民間競争入札実施事業 社会福祉施設等調査及び介護サービス施設・事業所調査の実施状況について(平成21・22年度分)平成23年6月30日という報告書がある。 同報告書には、以下の通り記載されている。


事実認識】 ・平成21年から平成23年の3か年分の介護サービス施設・事業所調査を民間事業者「株式会社インテージリサーチ」に業務委託した。(p1) ・国が実施していた平成19年の回収率に比べ民間事業者が実施した平成21年と平成22年の回収率は低下した。(p3) ・電話による督促は、平成21年35,122客体(57,633回)行っているが、平成22年173客体(655回)と99.5%減少。 【価値判断】 ・(回収率低下の)要因としては、民間事業者との契約が3か年であり、その初年度である21年度において、民間事業者の報告によると、実施経費が契約額を980万円程度上回った。これを踏まえ、民間事業者は、22年度の督促の時期に経費予測を行った結果、実施経費を抑制する必要があると考えたため、22年度において21年度と同等の督促を行うことができなかった影響が大きいものと考えられる。(p5) ・回収率の低下により、全国の施設数、在所者数等の一部のデータについて、20年度以前の調査と比べ、統計の質や、活用に当たっての利便性が低下した面があることは否めない。(p5) ・、24年度以降の調査については、厚生労働省において、これまでの経緯を踏まえながら、民間事業者の参入や都道府県等の協力がどのように期待できるのか等、様々な要素を考慮しつつ、統計の質や利便性をできるかぎり回復できるよう、調査方法等の見直しを検討し、その結果を実施要項や各種仕様書に反映することとしたい。(pp.5-6)
つまり、平成20年までの介護サービス施設・事業所調査と比べ民間委託後は回収率が低下した。その要因としては民間事業者が契約金による収支を考慮し督促回数を抑制したことが考えられる。結果的に統計の質や活用に当たっての利便性が低下した。以上のことから、厚生労働省(大臣官房統計情報部)としては、調査実施方法を従前に戻したい、ということが読み取れる。 実際、過去に実施された国実施分の老健回収率は、平成18年99.9%、平成19年99.9%、平成20年99.9%、平成21年95.7%、平成22年91.5%となっている。8.4%の低下は全国にある老健3,500施設の約290施設分に相当する。 公共サービス改革(市場化テストでは、何故民間委託をしたのか?平成18年6月2日に制定された「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」を根拠法とし、内閣府において公共サービス改革(市場化テスト)が開始されている。時は第三次小泉内閣の末期である。なお、この公共サービス改革の趣旨・目的は「官民競争入札・民間競争入札(いわゆる市場化テスト)を活用し、公共サービスの実施について、民間事業者の創意工夫を活用することにより、国民のため、より良質かつ低廉な公共サービスを実現」することとある。 この一環で、平成19年12月24日福田内閣において上述の市場化テストの対象として、平成20年分の介護サービス施設・事業所調査が選定されている。加えて平成20年12月19日には、麻生内閣において平成21~23年分の介護サービス施設・事業所調査が選定されている。但し、先述の報告書には「なお、調査票の配付・回収について、20年度調査までは都道府県等が実施していた(一部の調査票については郵送)が、21年度調査から厚生労働省が委託した民間事業者からの郵送に変更した。」(p3)とある。 介護サービス施設・事業所調査が選定された背景として、内閣府サイドが対象を指定したのか、内閣府サイドから厚生労働省に「省内でどれか選べ」と指示されて自ら選んだのかは分らない。少なくとも、厚生労働省大臣官房統計情報部は、回収率が低下している結果から民間委託には消極的な姿勢がうかがえる。 回収率が低下した要因として、行政から調査票が届くのではなく、民間事業者から届くのでは、調査対象者も義務感やペナルティを与えられるのでないかという漠然とした不安感が若干弱まり、回答インセンティブが低下したことが考えられる。 なお、平成24年度調査の実施を民間事業者が行うのか従前に戻すのかは、現時点では明らかではない。現状では全国的な支援相談員数の動向が精度を保って把握できないことは確かである。 ちなみに、医療施設調査・病院報告はあくまで行政実施であるが、中央社会保険医療協議会が実施する医療経済実態調査民間委託されている。 まとめ 以上のことから、少なくとも平成21年~23年介護サービス施設・事業所調査(社会福祉施設等調査含め)は、「調査方法の変更等による回収率変動の影響を受けているため、数量を示す施設数の実数は平成20年以前と単純に年次比較できない。」ことを前提に使用する必要がある。