「生活保護費、国が手当のはずが… 大阪市、3年で536億円負担 交付税が不足 構造問題浮き彫り」『日本経済新聞』電子版2012年9月12日

記事の末文にある対策は日経らしい考え方で納得はできませんが、事実認識を深めるという点では、大変参考になる記事でした。 この法定受託事務の必要経費に対する地方交付税による補填額が不足しているという事例は、次の国民年金に関する記事でも同様のことが指摘されていました。 ・長沼明志木市長「低所得者の加算、高所得者の減額、受給資格期間の短縮は、納付勧奨してきた立場からは疑問です」『年金時代』2012年7月号,pp4-5 (出典:権丈善一先生のHP)


生活保護費、国が手当のはずが… 大阪市、3年で536億円負担 交付税が不足 構造問題浮き彫り」『日本経済新聞』電子版2012年9月12日 生活保護の支給が大阪市など一部自治体の財政に重荷となっている。生活保護は国の法定受託事務で国庫負担と地方交付税で手当てする。本来、自治体の懐は痛まない。実際は足りず、大阪市は2009~11年度で計536億円を一般財源からの支出で補っていたことが、日本経済新聞の調べで判明した。実情にそぐわない地方交付税生活保護制度の構造的問題が浮き彫りになった。  生活保護支給額の4分の3は国庫負担金で賄われ、残りの4分の1と事務費などは地方負担。だが地方負担分も必要経費として交付税基準財政需要額に算入される。受給者数に国庫負担金と交付税が連動するため自治体財政には影響しない設計になっている。  ところが大阪市の場合は10年度に241億円、11年度も104億円が不足し、09~11年度の3年間で支出に比べて受け取った交付税が計536億円少なかった。ケースワーカーの人件費などを除く支給額に限っても計434億円足りなかった。大阪市のような大都市は単身の高齢者が多く、医療費の単価が高くなりがちだからだ。自己負担がなく、不正受給を誘引しやすい面もある。  交付税は「(国庫負担金のような)実費精算ではなく、標準的な経費を見積もって交付する」(総務省交付税課)。1人当たりの医療費がかさむ大阪は標準の枠を超え、持ち出しが続いた。逆に地元に大きな病院がない自治体は医療費が安くなり、結果として支出を抑制できる。  すべての市の決算額交付税の内訳を分析したところ、10年度は神戸市が45億円、京都市が38億円持ち出しになっていた。半面、岐阜市は12億円、新潟市は6億円ほど支出より余分に交付税を受け取っていた。全国では交付税の交付団体の74%に当たる550市が受け取り超過。超過額が1億円以上の市も86あった。  過不足をなくすにはかかった経費を全額国庫負担とする手もあるが、地方分権に逆行する。国の負担総額も増えることから国民の賛同は得にくい。 <改革機運、広がらず>  全国の生活保護の受給者は今年3月に210万人まで膨らんだ。自治体の支給額(扶助費)の合計は2010年度で3兆3758億円。いずれも過去最高を更新中だ。大阪市は人口1000人当たりの生活保護受給者が今年6月で57人と全国の主要都市で最も多い。  不正受給対策の一環として、大阪市西成区医療機関の確認制度を8月からスタートさせた。重複受診などを防ぐためだ。橋下徹市長は7月、国に対して生活保護制度の改革を提案。「年金や最低賃金と保護費の不整合により、市民の不公平感やモラルハザードにつながっている」と主張し、医療費には自己負担導入を求めている。  だが制度改革の機運が全国的に盛り上がっているとは言い難い。多くの自治体で生活保護が財政的にプラスという実態がある。10年度に持ち出しが発生した神戸市と京都市も、11年度は交付税が12億~15億円受け取り超過だった。  「大阪市一人負け」の状態を解消するには、交付税制度の抜本改革や廃止が必要だ。支給額の削減や雇用拡大策などと併せた取り組みが求められる。 (日本経済新聞 2012年09月12日より)