軽装備で帰りましょう

がん末期患者さんの中で、予後が極めて短いと主治医が予測している方の退院援助。食事の量は十分とは言えないまでもかろうじて食べることができていて、歩くのはふらふらながらに何とかできている場合、これからの状態悪化を見越して色々と在宅サービス導入を図ることは少なくありません。 しかし、ともすれば色々なサービスを導入することが目的となってしまい、その調整に時間を要しているうちに、真の目的である「本人・家族の自宅に帰りたいという思いをかなえる」という大事なタイミングを逸してしまう危険性も存在することに注意が必要です。 そのため、本人・家族が自宅退院に合意しており、かろうじて食べることができていれば、無理に多様な在宅サービスを導入せず、あえて訪問診療や訪問看護のみを導入して帰ることをお勧めすることがあります。場合によっては、福祉用具業者が独自に提供している低額レンタル電動ベッドだけを入れて帰る、ということもあります。 こういう場合、私はあえて患者・家族に「軽装備で帰りましょう」とお話しします。無論、ラポールが形成されていることが前提であって、単にその言葉を発しても、不安を増大させるだけですので注意が必要です。 住み慣れた自宅で好きなものを食べて、近しい人と一緒に時間を過ごし、いよいよ体調が悪くなってきたら、また病院に戻ってくる。 一連のことは数日から1週間程度の期間で実施されるため、患者・家族・病院スタッフ・在宅スタッフ双方に「阿吽の呼吸」が求められる協働作業だと思います。これは常日頃お互いにコミュニケーションがよくとれていなければできません。この呼吸が少しでも乱れると、反対に自宅退院が苦痛だったという失敗体験が患者・家族の間で蓄積されてしまうため、そうならない様に細心の注意が必要です。