「『患者紹介料』老人ホームも要求 訪問診療の医師に」『朝日新聞』2013年9月7日

「患者ビジネス」に関する朝日新聞の一連の報道は、注目に値します。また、近く公表されるという厚生労働省の調査結果報告にも注目。 民間業者同士や民間業者とお客が商品や事業を売り買いする際にキックバックがあることは、一般的にあることだと思います。しかし、今回の一連の報道の場合は、①キックバックに使われる診療報酬が社会保険料及び税金で賄われていること、②売買対象がものではなく人間であることから、社会的・倫理的・人道的な観点から批判を浴びているのだと思います。 厚生労働省は、2025年に向けて在宅系施設を充実させ、そこに訪問診療・訪問看護を「外付け」で充実させる構想を強く持っているだけに、早くこの問題に決着を付けたいのだと思います。しかし、具体的な法規制の話までは出ていないのは、良心的に訪問診療を行っている診療所と、そうでない診療所をどのような理由や基準で線引きすればよいのか、必ずしも判然としないことが挙げられます。それは診療所だけでなく、施設でも同様です。 また、病状やADLの低下などで通院が困難となっている患者・家族側からみると、「入所した有料施設に訪問診療で定期的に医師が診に来てくれます。」と言われれば、普通安心するのではないでしょうか。ここに大きな需要があります。 如何に良心的な診療所と施設を残すか。しかし、良心的とは具体的にどういうことを指すのか、良心的なところを残すための具体的な方法は簡単には見つかりません。 【関連】 ・厚生労働省保険局医療課『(事務連絡)在宅医療における患者紹介等の報告様式について』平成25年8月28日 →こちらか実態調査の様式か。 ・大阪市16 医療機関調査 中間結果まとめ(具体事例)』2010 →こちらの問題ともリンクする。


「『患者紹介料』老人ホームも要求 訪問診療の医師に」『朝日新聞』2013年9月7日 http://digital.asahi.com/articles/TKY201309070050.html?ref=comkiji_txt_end_kjid_TKY201309070050 【沢伸也、月舘彩子】医師に患者を紹介する見返りに、医師から診療報酬の一部を得る「患者紹介ビジネス」が広がっている問題で、有料老人ホームの運営者が、入居者を医師に紹介した上で「紹介料」を要求する事例が複数あることが、厚生労働省の調査でわかった。厚労省は「患者が医療機関を選べず、過剰診療につながる場合があり、不適切だ」として実態調査を進めており、近く結果を公表する予定だ。 患者紹介ビジネス  調査によると、愛知県のある有料老人ホームの運営会社は、入居者を優先的に紹介することの見返りとして、医師に診療報酬の2割を求めていた。東京都の有料老人ホームの経営者は、訪問診療に来る医師に対し、診療報酬のうち医療保険が負担する分の10%(医科の場合)または15%(歯科の場合)を要求していた。ほかにも、同じような事例の情報が集まってきているという。  紹介料を払った医師は、紹介料を取り戻そうと過剰な診察を行う恐れがある。また、患者がホームで受ける診療が紹介料を払った医師に限定される可能性もある。紹介料について法令の規制はないため、厚労省は対応を検討している。  有料老人ホームは「協力医療機関」を確保することが厚労省の指針で求められている。ホームは設立当初から医師と接点があるため、紹介料を直接要求するようになったとみられる。  一方、紹介業者が「売買」する患者は、ほとんどが「サービス付き高齢者住宅(サ高住〈こうじゅう〉)」の入居者だ。サ高住の制度は2011年10月に始まり、協力医療機関を確保する必要がないなど設置基準が緩く、わずか2年弱で約12万人分(13年8月末時点)が造られた。急増した患者を医師に仲介する紹介業者が現れ、紹介料の相場となっている「診療報酬の2割程度」は、有料老人ホームが求めていた水準を踏襲したとみられる。     ◇ ■訪問診療の報酬増きっかけ  高齢者施設の患者を医師に紹介する「患者紹介ビジネス」は、紹介業者が介在する事例のほかに、有料老人ホームが入居者を医師に直接紹介して見返りを求めるケースがあることが浮かび上がってきた。こうした慣行が広まったのは、政府が訪問診療の報酬を手厚くした2006年以降とみられる。  高齢者住宅経営者連絡協議会の田村明孝・事務局長は、医師に紹介料を要求する有料老人ホームがあるという話を、5~6年前から聞くようになったという。さらに訪問診療をする医師がホームに「手数料(患者紹介料)を払います」と売り込むケースも耳にした。「過去には、ホーム側が提携料を払ってでも医師に来てほしいという時期が続いていた」と、立場の逆転ぶりに驚く。  そのきっかけとなったのが、06年の診療報酬改定だと推測する。24時間体制で患者に対応できる診療所が月2回以上訪問診療すると、患者1人あたり月4万2千円の「在宅時医学総合管理料」が加算されるようになった。例えばホームの10人を月2回訪問診療すると、診療費は月4万円に加え、管理料の月42万円が得られる。こうした24時間対応の診療所は7年間で1・5倍になった。  訪問診療する医師が増えると、患者を抱える高齢者施設の立場が強くなった。大阪府のある医療法人に勤める事務員は、訪問診療先となりそうな施設を営業して回っている。「紹介業者もいるが、有料老人ホームの事業者から直接(紹介料を)要求されることのほうが多い」「相場は診療報酬の20%」と内情を明かす。「多くの患者がいる高齢者施設を受け持った方が医師は効率的に訪問診療ができるので、施設のほうが立場が上」という。  大阪府の別の医療法人は5年ほど前、訪問診療のために以前から医師を派遣していたホームから突然「売り上げ(診療報酬)の20%」を要求された。断ると「契約を打ち切る」と通告された。施設に医師が立ち入ることも禁止され、周囲にバリケードを張られたこともあったという。  業界内にこうした慣行があったために、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が登場した11年以降、医師とのつなぎ役となる紹介業者が登場したとみられる。      ◇  「医療とカネ」に関する情報を、特別報道部まで電子メール(tokuhoubu@asahi.com)でお寄せ下さい。